スピリティッドアウェイ

緑ノ革

文字の大きさ
9 / 9

神隠し

しおりを挟む
 数日後、マイケルは病院の一室にいた。
 肩は包帯でがっちりと固定されている。
 ベッドに座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。
 
「ぱぱー」
 
 ジェシカの声がして振り向くと、病室の出入口にアンナが立っていて、ジェシカが走って入って来る。
 
「ジェシカ」
 
 マイケルは手を広げ、駆けてきたジェシカを受け止めた。
 
「今日で退院ね、帰ってビールで乾杯しましょ」
 
 アンナが言うと、ジェシカは「ビール? わたしは?」と聞きながらアンナを見上げる。
 
「ジェシカにはミツバチ印のオレンジジュースよ」
 
 とアンナが返すと、ジェシカは「やったー」と嬉しそうに跳びはねて言った。
 
 
 
 
 帰りの車で、助手席に座ったマイケルは、スーパーマーケットでの事を思い出していた。
 あの世界は何だったのか、あのピエロは何だったのか。
 
 考えれば考えるほどに、分からなくなる。
 
 そんなぼーっとしているマイケルを、運転しながらアンナはちらりと見た。
 
「ねえ、マイケル」
 
 呼び掛けられ、マイケルは「ん?」と返す。
 
「神隠しって、知ってる?」
 
 そう聞かれ、マイケルはアンナの方に顔を向けた。
 
「神隠し……ああ、言葉くらいなら」
 
 あまりオカルト的な知識は無かったが、マイケルでも一応は知っている。
 突然人が行方不明になる現象だ。
 
「ジェシカはきっと、神隠しにあったのよ、神隠しにあった子どもが、十年以上経ってから子どものままの姿で帰ってくる事があるんだって」
 
 それを聞いて、マイケルは苦笑する。
 
「神隠しか……向こうは悪夢のような世界だったよ」
 
 苦々しい表情でマイケルが言うと、アンナは「ピエロがいたっていう場所?」と首を軽く傾げて聞く。
 マイケルは「ああ」と頷き、後部座席で不満そうにチャイルドシートに座るジェシカを見た。
 
「神隠しでもなんでもいい、ジェシカが無事に帰ってきた……それだけでいいんだ」
 
 優しい声でマイケルが言うと、アンナは微笑み「そうね」と呟くように言う。
 
 マイケルがまた外の景色に目をやると、閉店して暗くなったスーパーマーケットが見えた。
 そのスーパーマーケットの前に頭の無いピエロが立っているように見えて、マイケルは目を見開く。
 
 そのまま車は通り過ぎ、スーパーマーケットは離れて行った。
 
 窓の外に釘付けになっているマイケルに気付き、アンナは口を開く。
 
「どうしたの?」
 
 アンナに聞かれ、マイケルは目を閉じる。
 
「いや……あのスーパーマーケットは、無くなってよかったんだ」
 
 マイケルが言う。
 アンナは頷いて。
 
「そうね」
 
 と返した。
 
 あの日の出来事が何だったのか知る術は無いが、今は幸せな日常に戻れることをマイケルは静かに喜んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/5:『ひとのえ』の章を追加。2025/12/12の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/4:『こうしゅうといれ』の章を追加。2025/12/11の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/3:『かがみのむこう』の章を追加。2025/12/10の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/2:『へびくび』の章を追加。2025/12/9の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/1:『はえ』の章を追加。2025/12/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/11/30:『かべにかおあり』の章を追加。2025/12/7の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『大人の恋の歩き方』

設楽理沙
現代文学
初回連載2018年3月1日~2018年6月29日 ――――――― 予定外に家に帰ると同棲している相手が見知らぬ女性(おんな)と 合体しているところを見てしまい~の、web上で"Help Meィィ~"と 号泣する主人公。そんな彼女を混乱の中から助け出してくれたのは ☆---誰ぁれ?----★ そして 主人公を翻弄したCoolな同棲相手の 予想外に波乱万丈なその後は? *☆*――*☆*――*☆*――*☆*    ☆.。.:*Have Fun!.。.:*☆

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...