浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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常連のAさん

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「ああ、いらっしゃい」
馴染みの客が来た。
「タモツさんと、イツモだっけ?猫の名前、あの二人仲がいいのな」
店に入る前に、縁側で二人でほのぼのしていたらしい。
「和むわ」
(これはかなりの疲れ)
猫で癒される時、人はかなりの疲れを抱えている。
「どこが今日は辛いですか?」
「疲れ目と肩」
このお客さんはある程度の知識を持ってて、毎日のケアぐらいで疲れは取れるのだが。
「仕事が増えたね」
そう、その時間を削って仕事にあてる、ないしこれから使うので、そんなお忙しい日々のパートナーに浜薔薇を選んだのだ。
「今、温泉帰り、しばらく行けないから」
これはかなり忙しくなる予感。
「何でそう…」
「新人さんに仕事を教えるんだよ、そのために準備の時間いくらでもいるんだよ(震え)」
「足のマッサージからしましょう」
「お願い(懇願)」
体温は温泉帰りということもあり高い。
これなら血行もかなりいいだろう。
「お茶(ノンカフェイン)も飲んできた」
「本当に準備いいですね」
「フル装備で挑まないと怖くてしょうがないんだよ」
着替えてもらって、リクライニングチェアに移動。
皮膚は少し乾燥ぎみなので、保湿ケアをしながらマッサージとなる。
保湿ケアのローション、伸びが良く、塗りやすい。
塗りながらも…
(内臓が疲れている)
もう疲れが出ているのを指先で感じる。
「あの、食事どうしてますか?」
「最近荒れている、口内炎も出来るんで、めっちゃ痛い」
「疲れているときこそ、バランスのとれた食事ですよ」
「うん、ちゃんと予約してきた」
今はそういうバランスがとれた食事のサービスは選択肢がたくさんある。
「うちは今は多いときで三人なんで、ちゃんと頼んでます、生涯現役、健康でないと店に立てないので」
「いい心がけだよ」
食事がきちんとしているのは、最近働きに来た傑には驚きであった。
「温かいものを時間通りに食べるって、本当に久しぶりですよ」
「トイレに行くのも難しいときはあるからな」
食事などが不規則な仕事である。

「どこにそういうの頼んでいるの?」
お客さんが聞いてきたので。
「鮮魚店の、あそこだと魚がもちろんいいんですけど、米が、同じ予算でも全然違うんです」
「そんなに?」
「たまたま宅配してくれるっていってくれたんで」
他の配達の通り道なので、その時に立ち寄ってくれる。
「ご飯美味しいねって何気なくいったら、一等米使っているんで自慢の逸品ですって」
「一食500円前後の栄養バランスサービスで、一等米だと…」
「ミルキーでした、あの後、今まで使っているご飯で食べると、明らかな差が」
「ああ、それはわかる、口は肥えるよね、でもね、忙しいと食べる楽しみって大きいから、戻れなくなる、それはわかっていても、その鮮魚店教えてくれるかな」
「後で、ショップカードお渡しします…昨日、鰆の唐揚げだったんですけど、すんごい美味しいかったです」
そんな話を足つぼを押しながらしました。
痛さも忘れるぐらい、盛り上がりました。
キュ
肩のツボを探る。
「メニューはお任せコースでいいですよね」
「ああ、お願いするよ(気持ちいい)」
他のお客さんがいない時間帯だと、このお任せコースがある。
蘆根の独断と偏見で行われるこのコースのために、常連の中にはわざと他のお客さんがいない時間帯を狙ってくる。
(朝は忙しいんだけども、10時からお昼までと、2時ぐらいから夕方までは比較的それやってもらえるんだよな)
常連客Aが割り出した、お任せコース受付目安がこちらだそうだ。
リラックスしてきて、呼吸も深くなっている。
「じゃあ、耳かきもしますね」
「待ってました」
浜薔薇にて耳掃除ともなると、客はみな黙る。
黙って耳掃除の恩恵に浸るのであった。
ポリ
外の音が入ってこないように作られた店内に響き渡るのは、垢を剥がす音だけ。
「…あっ」
ちょっと奥の所、ここが常連客Aのツボらしく、声が漏れてしまう。
カリカリ…
そこはちょっと優しく。
優しいのだが、ツボというのは優しくてもとても気持ちいいものである。
パリ
「~~~~!」
動かないように、でも体が自然と動くような所を狙われる。
サリサリ
粉のような耳垢を片付けているだけでも、十分気持ちよくなってしまうようであった。
耳かきが耳から出た後、生唾をごくんと飲んでしまうぐらいなので、相当なのだろう。
「相変わらず、ここは耳掃除すごいね」
「一応売りですからね、浜薔薇と言えば耳掃除、なら、店を任されている俺がしっかりやらないとダメでしょ?」
「タモツさんはいい跡継ぎ持ったね」
「俺はまだまだですよ、学ぶことたくさんあるんで」
「…」
「じゃあ、左耳行きますね」
この前向きな蘆根と話すと、なんだがやる気がわいてくるのである。
大変かもしれない、難しいかもしれない、でもそこは割りきってやるべきだ、よし頑張ろう、そんな気持ちになると、不思議と睡魔が訪れる。
この時間までは大丈夫、そうは聞いていたので、終わってからしばらく休んでもらった。
「お客さん、お時間ですよ」
そう起こされると、寝起きさっぱりとして目が覚めた。
「ありがとうね、また近いうち来るよ」
「あんまり無理しないでくださいね」
「へいよ」
このお客さんにとっては、浜薔薇は戦士の憩いの場といったところなのだろう。



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