浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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S席のお客さん

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「この後、飲みに行かないか?」
「悪いな、髪を切りにいくんだ」
そういって別れたが、あまり酒を飲むのが好きではないので、この断りはちょうどよかった。
最近気になっているお店に行く。
「ああ、あそこね」
彼女は知っているようだ。
「おばちゃんには色々と良くしてもらったんだけど、今はお弟子さんがやっているのよね」
「腕はいいとかはどうなんだ?」
「それなら行ってみたら?」
というわけで行くことにしたのだが。
ソワソワ
予約はしていたけども、混んでいるな。
初老の男と若い男が椅子に座っているお客さんのために動き回っている。
若い方がお弟子さんなのだろう。
「次の方、ご予約のお客様、こちらへどうぞ」
そういって名前を呼ばれ、椅子の方に。
「先に耳かきとシェービングをいたしますが、よろしいでしょうか?」
そう初老男性に言われ、よろしくお願いしますというと。
リクライニングシートを倒され、蒸しタオルで顔を包まれた。
「毛穴をこれで開きますんで、少々お待ちください」
そういわれると、やることもないので、目を閉じて、今日も頑張ったな…なんて思っていると、あっという間に時間が過ぎて。
「それでは髭を剃らせていただきます」
肌の調子を見られた後に、泡をたっぷりとぬりたくられ、長年愛用しているカミソリで深剃していく。
顎のラインを剃られているときに、あれ?これは気持ち良くないか?と気づいた。その曲線は自分でも剃るのだが、このグッと力を入れてから、カミソリが入るのが物凄く気持ちがいい。
そして顎の下から首にかけて、上を少し向いた状態、普段ならば、慣れない人がカミソリをするのは、少し抵抗があるところを…
しゅるるる
止まらないで一気に滑らす気持ちよさとでもいうのか。
そのためにシェービングは本当に早いのだが、髭剃りが終わり、耳掃除のために椅子を直されたときに、自分の肌を触ってみるが、ツルツルである。
自分で髭を剃るならば、カミソリの場合、皮膚を引っ張って、ないし片手を落ちてから、こう…おっかなびっくり剃る。
(これがプロの技か)
「それでは耳かきをさせていただきます」
そういうと、なんか後ろから視線を感じた。
他のお客さんは予約しない、飛び込みのお客さんらしいが、なんだろうか、見るものないから暇なのだろうか。
竹の耳かきが耳の中に入ってくる。
カリカリカリ
小さく響いてきた。
ポロ
「大きいのが取れましたね、こういうの全部取っちゃいますから」
ゴクリ
また後ろで、なんだろう、生唾を飲まれたのだが。
「お客さん、いい耳しているね、耳掃除が楽しくなっちゃう」
「そんなことを言われたのは初めてだよ」
リップサービスなのはわかっていても、悪い気はしない
「見つけた」
バリバリバリ
中で枯れ葉が崩れるような音がした。
「こういうの全部引き抜いちゃちゃいますね」
匙からぶら下がる垢はオーナメントのようで、後ろの客たちの目からもはっきりとわかる。
(本当に耳かき好きなんだな)
隣の傑が、お客さんの目線がみんなタモツの耳かきに向いているのを見ながらそう思った。
「詰まると聞こえが悪くなります、もしもお家で耳の聞こえが悪くなっていたら、うちじゃなくて耳鼻科に行ってください」
「あっ、はい、そうします」
タモツが耳かきをするということは、今の浜薔薇の常連客からすると、とんでもないことである。
女将さんが倒れ、入院し、退院してから店を再開のはずな、そのままお亡くなりになってしまった。
蘆根が駆けつけて。
「先生、お手伝いします、なんでも言ってください!」
と押し掛けてこなければ、そのまま店を引退していたことだろう
(今日は蘆根さんピザを回しているそうだよ)
(だからタモツ先生が耳かきとシェービングで、新しく来た傑くんが髪を切るのか)
一人がたまたま、おい、今日はタモツ先生が耳掃除するぞ!と訴えたら、それは有給使っても行かねばならないや、これは今日を逃すといつになるかわからないなど、すぐに集まれる浜薔薇の耳掃除のファンがざざっと来た。
予約優先なのは仕方があるまい、待とう、そう品行方正のお客さんと思われるが、この待ち合い席は、タモツの耳かきを見学するにはS席と言える。
むしろ、自分達のは後回しでいいから、予約の人たちの耳かきをフルでみたい。
「次の方お願いします」
予約のお客さんまでに時間があるので、待ち合い席の先頭が上着を脱いで立ち上がったとき。
(俺は…ここまでのようだ、じゃあ行ってくるぜ)
(ああ、後の事は任せろ、お前の耳かききっちりレビューしてやるぜ)
(みんなが浜薔薇に来たくなるような文章になるようにがんばります)
「それじゃあ、始めさせてもらいます」
耳かきファン、タモツ歴二回の先頭のお客は、すぐにツボを探られて、がくっと震えた後、首が落ちそうになった。
(先輩!)
(ダメだ、俺らにはレビューする義務がある、見ているだけではいかんのだ)
(おおお、耳の中に、竹の耳かきが入り込んで、カリカリカリと音を立てる、薄く膜を張っているらしく、ペロンと大きなかさぶたのような)
心頭滅却するようにタモツの耳掃除を言葉にしていく。
先程まで耳かきをされ、今は傑に髪を切られているお客が、そんなS席の客を見ていると。
(サッカーの代表戦でも…いや、放送してないな、何に興奮しているんだろ?)
ハテナしか浮かばない。
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