浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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忍者ごっこ

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「今日の予約は真中(ただなか)くんぐらい?」
「そうですけ、真中さんだけですね」
真中さんといえばわからないだろうから、言い換えよう。覆木(おおうき)から酒を教えてもらい、酒で失敗し、サメと同居している男である。
「そういえばサメくんってなんてお名前なんですか?」
「名前としてはフォビアンなんだけども、フォビアンって昔からそう呼ばれた名前ではなく、真中くんがつけた名前だからまだ慣れてなくて、その時にサメくんって呼んだら、それは自分のことだって気づくんだよね、この辺は河川ザメといえば彼しかいないから、そのままサメくんなんだよ」
サメの名前は、予防接種や契約書などに記載するために必要であった。
「なるほどな」
そのままうちに同居することになったサメに、真中は名前を聞くと、彼には名前がないと言う、むしろ群れでは上手くいってなかった。実際になんと呼ばれていたか、聞いてみるとその呼ばれかたに心をいためた。
「俺がいい名前をつけよう」
しかし、俺にはセンスがない、センスの塊である、覆木さんよ、どうか力を貸してくれ!!!

でも祈ってもでないことってあるよね。

「歴史上に名前を残す将軍の名前に、覆木さんだったらたぶんそのままつけないから、そこは捻りまして、フランスの男性名詞からフォビアンです」
そしてこのフォビアンことサメくんは、真中のチームにとって、戦術の幅を広げ。
「今は斥候も勤めてる」
気配を薄くし、音もなくターゲットに近づける。
「並の人間じゃ気づかないし、ええっとうちに真中が来るとき、家で待ってないで、外で待ってるときがあるんだけども」
「それは気づきませんでした、まるでニンジャですね」
「ニンジャ訓練は受けているはずだよ、前にさ」

「とある山にサメに忍びの訓練を施している人がいるという話なので、今度の日曜日行こうと思っているので」
この期間は休むことになりますと申告があった。
「どういうことをしてきたのかは、詳しくは聞けないけども、そこから戦力になったということはその人に会えたんだろうね」


サメの忍者、その歴史は浅い。

「今の時代は忍者の時代というわけではありませんし、まだ体力があるうちに引退させてもらおうと思いました」
旧家に仕えていた忍者、そして若君の教育係はそう申し出たところ、あっさりと了承された。
これはこの忍者が事細かくうるさいと思っていた一派からすれば渡りに船であり、そのものが反対しなかったのが大変に大きい。
ややこしすぎる人間関係から離れ、故郷でゆっくりとこれから過ごすのである。
故郷というのは自然が大変厳しく、移住者なんか現れない、夏は夏で面倒で、冬は冬でストレスがたまるような土地だ。
ただ釣りにはいい場所なので、久しぶりに始めると、子供の頃見知った顔、サメがこっちをじっと見てくる、向こうもたぶん前にあったなぐらいなのだろう。
なんだか嬉しくなってしまった。
「サッ」
子供も孫ももういるらしい、田舎暮らしは友ができることで、楽しさは増していく。
薪などの力仕事は友の家族や一族が揃えてくれるようにもなり、それもとてもありがたかった。
その春に生れた彼の孫がいる、彼は体力があるのだが、上手いこと飛び回ったりできないようだ。
そこで私は例を見せる。
クルリ、スタンと、忍びとして培った技である。
「サッ」
「いや、サンタではないよ、これは忍者だよ」
サメの世界では忍者よりもサンタの方が有名らしい。
そこには少し苦笑する。
その後もせがまれるので、色々と教えていった。
するとこの孫ザメを筆頭に、若いサメたちから自分達にも教えてほしいと言い出す。
困ったなと思ってると。
「サッ」
友もどうか教えてやってくれという。

忍者ごっこの始まりである。

しかしだ、サメが本来持つ身体能力が教えた技術と合わさっていくと、目を見張るものになってきた。
いかんいかん、目移りしてはいけない。
これはあくまで忍者ごっこ、そこは線を引かなければいけない。
後継者を作れなかった私にも負い目があったのか…
「人間というのは欲が深いものだな」
そういうと友は私のコップに酒を注いでくれた。
「諦めたものに、手が届くとなると、途端に目の色が変わるというか」
そんな話をこぼしてしまった。

そして平穏は突然終わりを告げる。
「サッ」
「えっ?」
なんでも私が仕えていた旧家より連絡があったという。
「どういうことだ?」
お話は実際に会ってからということだったが。
「サッ」
「私を見張ってるものがいる?」
孫ザメからの報告にこれはただならぬものを感じた。
確実に何かがある、そして関わればそれこそ今の生活は終わるだろう。
私一人ではおそらくかなり迷っていたであろう、そしてこんなに迷えるほどに現役からは遠くなったのである。
「サッ」
私が一番最初に教えた孫ザメ、一番弟子ザメが現れ、彼はこういった。
どうか、私に命じてくださいと。
「それこそ君たちを地獄に案内することになる」
ここで行かないと決断すれば平穏な生活を、友人や弟子たちと過ごせるだろう。
『サッ』
するとだ、今まで教えたサメたちがみな姿を現した。
どうぞ、我々にご命令をと。
「サッ」
そこに友がやって来た。
そして彼らに教えた技術は遊びのものだったのかい?と。
「まさか、間違いなく彼ら彼女らは私の自慢できる弟子ですよ」
「サッ」
それを証明させてやってはくれないか。
「言い方がずるいじゃないか」
不意に泣きそうになった。
そしてここで決断したことによって間に合うこともあったのである。
「では命ずる、大恩ある我が主君の身に何かしらが起こったようだ、それらをいち早く調べ、その情報をここに持ち帰れ」
『サッ』
するとその場に揃っていたサメはすぐに姿を消した。
数時間後には裏取りされた情報が報告された。
なんでも主は、私か引退後すぐに病を患う、その代行としてまだ若いという理由で、実子ではなく、主君に仕えるものたちで執り行われ、そこが腐ったのだ。
「とんでもないことをしてくれたものだ」
これでは主君と若君は守ったとしても、大多数が向こう側に寝返っていたりするのだろう。
御身を守ることはできたとしても…その後が問題である、決定的に人手が足りない。
そしてまだこの時は友の一族を危険にさらすことにもためらいがあった。
その躊躇いが消え、後悔が覚悟を決めさせたのは、やはりあれか…
「サッ」
主君が入院している情報を掴んだ、公では邸内にいるとされているが、実際はもうこのように隔離されており、ひどい場所だった。
これが多数の不動産を所有し、地元の名士と呼ばれた人間がいるところではない。
病院のスタッフはちらほらだし、見張りはいるがやる気はない、エレベーター前の防犯カメラぐらいのセキュリティであった。
コンコン
「失礼いたします」
挨拶をして入室をすると、やつれた主君はこちらを見た。
「まだ私には礼を持ってくれるとは、久しぶりだな」
声に張りはなく、しかしその言葉で私は涙が自然とこぼれて、膝をついた。
「申し訳、申し訳ありません、私が最後までお仕えしていればこんなことにはなっておりませんでした」
「いや、何、私が甘かったのだよ、信用したのがバカだっただけだ、そしてお前があそこで引退しなければ、あの後何らかの騒ぎに巻き込まれ潰されていただろうよ」
「部下に調べてもらいました」
「部下とはサメかね」
「よくご存じで」
「この病院は、具合が悪くなったとしても、人を呼んでも誰も来ないんだよ、一度咳が止まらなくなったとき、見ていられなくなったんだろうな」
サメが一匹どこからともなく出てきて、体を起こして、背中を擦ってくれて、それでも辛そうにしていたので、『冬』と書かれた巾着から、中に入っていた薬を飲ませてくれたら、咳が止まった。
「その時の薬の味で、これはお前の手の者ではないかと思ったのよ」
「上手く言ったからいいものの」
そういうと三匹が姿を現した。
「頼むから叱ってくれるなよ、この者たちのおかげで、そこから入院生活は快適なものになったのよ」
それこそ食べ物なども非常に粗末と言えたので、自費で冷凍の療養食を確保して、残したらばれるので美味しくない病院からの食事はサメたちが食べていたらしい。
「それらはきちんと領収書などは取っているよな?」
「サッ」
「よろしい、すぐに決済をしよう。介助するためのサメの数も増やしましょう」
「それは心強いな」
「それではこれから若君と接触させていただきます」
「あいつは私よりはまだ安全だろう、しかし、もし何かあれば私よりはあいつを優先するように」
「サメの数は十分おります、あなた方お二人を守るぐらいは余裕と考えております」
「しかし、よくサメを育てたな、狂暴でままならないものと聞いていたが」
「主からすればサメの生態など聞伝でしか知ることはないでしょうが、私の田舎ではとても気のいい連中なのですよ」
それこそそこらでピチピチしております。
主君と若君の安全を確保できると、そこからは早かった、乗っ取ろうとしていた連中のスキャンダルをばら蒔き、彼らを世間の敵にしたてた。
悪と彼らが見られると、今まで通りにはいくわけがない。
その混乱のうちに若君を当主として、再出発までの手続きは済ませた。
「これで私も安心して隠居ができる」
先代様の車椅子を押しているときにそんな言葉を口にして笑っていた。
「隠居はしてもらいますが、まだ旅立つには早すぎますので」
「お前は本当に容赦がないな」
「甘い言葉に散々惑わされてきたのですから、これを罰と思ってください」
しかし、そんな話をして一年もしないうちに行ってしまわれた。
「先生!」
そう呼ぶのは若君、今の当主である。
「お待ちください、まだ田舎には帰せません」
「そろそろ帰してほしい」
「信頼できるものが足りないのです、先生に帰られるとすぐに回らなくなります」
「でもな、古参がいると育たなくなるんだ」
というわけで任せられる、見込みのあるものを見つけては迎え入れ、その途中当主は結婚し、中枢を将来任せれるなと思う顔ぶれになるころ、ようやく田舎に戻れたのであった。
その後、ご懐妊がわかり、その教育係にという話は来るが、さすがにそれは断っている。

「サッ」
友はグラスに酒を注いでくれた。
「こういう家業だから、しょうがないとはいえ、平穏な暮らしの方が私は好きだね」
なんていう毎日は始まっていったのだが。
「すいませーん」
そこに私を訪ねてきたものがいた。
この屋敷にも姿は見えないが、警備のサメたちが隠れているので、不審者ではないし、彼は河川ザメを連れていた。
「こちらにサメに先生と崇められている方がおられてると聞いて訪ねてきたのですが」
するとだ。
「お願いいたします」
怪異が現れた。
着物姿で裸足、顔には面をつけている怪異が、その彼に向かって頼みごとをしようとするのだが。
「サッ」
時と場所を考えろ。
屋敷の警備をしていたサメが、凄まじい殺気で怪異の首にヒレを当てた。
すると怪異は消える。
「君がうちを訪ねてきた理由はこれかね?」
「いえ、それとは別口です」
厄介な匂いがする。
「それは…長話になりそうだ、どうぞあがりなさい」
そういって私は彼の話を聞くことになるのだった。








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