浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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君もあいつも人間だよ

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「珍しい、飲みたいなんてそっちから言うの」
「そうなんですけども、そういう気分に…」
「女?」
ピタッ
「えっ?本当にそうなの?ああ、それはおめでとう」
「まだ好きになっただけですから」
「それでもいいんじゃないの、好きな人間が出来るようなタイプじゃお互いなかったし」
「あなたはまだ人間らしい、でも俺は…今までそういうのがわからなくて…」
「はいはい、話を聞いてやるから、すいません、瓶ビールとグラス二つ」
そういって早速キンキンに冷えたビールとグラスがやってくる。
「で、どういう子?」
「仕事で知り合った方なんですがね、すごい…仕事が出来る人で、あっという間、魔法のようだった、見とれていたら…」
こんなことで驚かないで。
「そこで笑顔を浮かべて…もうなんかその瞬間ですね、世界に花が咲いたような、色づいたような、今まで俺が生きていたのはなんだったのか、そんな気分になっちゃって」
「連絡先は交換したの?」
「それが…」
「どんな人なの?」
と聞いていくと。
「えっ?」
「えっ?ってなんです?」
「たぶん、おそらく、むっちゃ知ってる」
「本当ですか!」
「まあね、うん、そっか、うん」
「なんですか、その間というか、なんというか」
「あの子も色々あったから」
「それってなんです?」
「単純に苦労人、若いときからそんな感じなので知ってる」
「ああ、それで…なんかこう…そこもあるのかな、経験したであろう辛苦ですら、優しさがあるというか、味があるというか」
「なんかお前さんってそんな奴だっけ?」
やけに自分の言葉で語るのだ。
「こういうときね、誰かの言葉を借りるのってなんか違うでしょ」
「珍しい、そういうの常に出さないで、波風立てないで生きていた男が何をいってんだよ」
「あなたもですが、彼女も俺のそういうところを見抜くんですよね」
「何そういうのに弱いの?」
「弱い、こっちが気を使っていることに気づいてくる相手は、やっぱり楽だもの」
「なるほどね、はい、もう一杯」
「どうも」
「それでその子とどうなりたいの?」
「どう…ってね、そりゃあ、仲良くなりたいですよ」
「仲良くね」
「難しいですかね」
「いや、俺も喋るから、それはそこまではとは思うが、あれはあれでくせ者というか」
「それはわかりますし、俺もそうだし」
「ここでさ、話してないで、実際に誘ってみたりすれば?」
「えっ?」
「えっ?じゃないでしょ、それともただの話だけを楽しみにしているの?」
「まさか、まさか…それは…でも」
「そういうところあるよね」
「そりゃあ、そうでしょ」
「彼女の方は意外と行動的よ」
「えっ?」
「付き合い長いから知ってる」
「モテるんでしょうね」
「変なのからね」
「変なのって?」
「ストーカーに追いかけられたことがある」
「誰ですか?そいつ」
「もう解決しているけども、なんかいきなり惚れられて、そっから追いかけ回されたっていう過去はあるよ」
「…それは…」
「なんか汗かいてたときあって、今日はそんなに暑かったの?って聞いたら、『逃げ切ってやりましたよ』って言われて、そっからわかってね」
おいおい、それはそのままにしてはおけないから。
「あれはもう、本人がもう少し…いや、そのおかげで引きずらなかったからいいけどもね、そういう子なんだよな」
「本当に付き合い長いんですね」
「学生時代にバイト探していた時からだから、うん、やっぱり長いな」
「いいな」
「何がさ」
「そういう子と知り合いで」
「ただの知り合いですから、お前さんが思ってることはないぞ」
「ええ…いや、それが普通ですが」
「本気で惚れたのね」
「あれは惚れるでしょ、あれで惚れないなんてどうにかしている」
「そんなにも言葉が深く刺さったの」
「ブッスブスですよ、ブッスブス、こんなに言葉というのは深くに刺さるんだろうか?俺はそれを知らない、我慢しないで…言葉を選ばなくても、気持ちが伝わるというのは得難い体験だ」
「今までにそういう子はいなかったの?」
「いなかったわけではないんですけどもね、刺されたのが初めてで」
「その言い方も誤解受けそうだから、ただまあ、気持ちはわかるから」
「コミュニケーション能力高いんですか?」
「高いよ、適性もある」
「そっか…」
「あそこまで高いと、それはそれで苦労はしているとは思うけどもね、ただ本人は生活のためならばそんなもんでしょって割りきれているから、そこもストレスに強いよね」
「本当に一体どんな生き方をしてきたんですか」
「苦労人でしょ、それは間違いなく、ただあそこまで苦労すると、他者を気遣えなくなる場合もあるんだがね」
「そうはならなかったと、素敵だ!」
「本当に気に入っちゃって、あっ、そうだ」
「なんです?」
「お膳立てする?」
「してほしい、してほしい、ここの飲み代驕りますから、してほしい」
「そこは割り勘でもいいよ」
「どうして応援してくれるんです?」
「向こうは向こうで浮いた話もないから、まあ、うざがられる恐れはあるけどもね」
「そういう人なんですか?」
「やっぱりどっかで、心に壁はあるのよね。俺はそれがわかってるから、あんまり深くは話聞かなかったりはするけどもさ」
「でもこれは…そのルールに反してしまうのでは」
「う~ん、それもそうか」
考えを改めようとしたので。
「ただそれはそれで応援というか、してほしい…なんかこう、間違いなく自分だけだと、絶対無理だ、嫌われてしまう」
「酒でも回った?」
「酒もあるでしょうが、すんごい不安、嫌われたら嫌だ、あの子に嫌われたら、俺はどうなってしまうのだろう」
「いつもと変わらぬ日常が始まるだけだよ」
「もういつもじゃないですよ、これ、こんなに楽しそうな毎日が見えているのに、それがかなわなくなるんですよ」
「でも恋愛なんてそんなもんじゃないの?相手に気持ちがなかったら終わるし」
「なんでそんな怖いことが出来るんですか」
「えっ?」
「だって恐ろしいじゃありませんか、何にも無くなってしまうんですよ」
「いや、だから恋というのは…恋愛はしたことあるよな」
「バカにしないでくださいよ、ありますから!」
「あるけど、初めて、それこそ今わかったってやつか」
「そうです、そうです、この胸にいろんな物が生まれちゃったんですよ。鳥は歌って、花が咲いてます」
その鳥はホゲーとか蛙みたいな声じゃないかな。
「違います、美声ですよ!」
おおっと、恋する奴は強い、欄外にもちょっかいを出して来やがった。
そこからずっと嫌われたくない、好かれたいで泣いてしまったという。

「ということがあって」
「なんで私に報告を」
「俺も友達は少なくてな、あれをそのままにするのはどうしようか困っちゃうし」
「それでもその話、当人である、私にしますか?」
「まっ、そこは俺も変人ってことで」
「そうでしたね」
「で、会う気はあるの?」
「ないですね」
「そう、それならば俺からは何も言わないわ」
「そんなに会いたいものなんですか?」
「会いたいみたいよ、あいつのあんなの始めてみたよ」
「へぇ~人間らしいところあるんですね」
「君もあいつも人間だよ」
「でもいまいち、人の心ってわからなくないですか?」
「お前さんはそういうところがあるね」
「まあ、そのお陰でこうして生きているから、いいですが」
「恋愛に興味は?」
「ないわけではないが、どうせ向こうが飽きて終わるでしょうよ」
「えっ?でもたまにお前さんの方が痺れを切らす時はあるじゃない」
「あれはね、体力の限界とか考えてくれないからですよ」
寝る時間なのに連絡がくるタイプ。
「それはそれとして、実際どうなの?」
「どうですか?って?」
「第一印象というか、話してみての感想は?」
「あの人、自分の言葉で普段から喋ってないですよね。相手が伝わるように、言い換えて会話している」
「ああ、そうそう、そうなんだわ」
「それってかなり疲れるし、私にはそんなことしなくてもいいですよって言いました」
その瞬間、驚いた顔をしていた。
「そっから、さっきまでと全く違うというか、我慢してたんでしょうね、ちょっと大変だった」
落ち着いてくださいを何回も言ったぐらいで。
「まあ、わかるけどもね」
「暴いちゃったか」
「とんでもなく頭がいいとかなんでしょうね、だから言い換えるで対応していたから、周囲が全然言いたいこと、本当に言いたいことに気づいてこなかったし、本人もたぶんそれに慣れてしまっていたから」
「じゃあ、そんなこと言わなくても良かったんじゃないの?」
「う~んそれだと、どっかで破裂しますよ、あれ」
「それはね、しょうがないけどもさ」
「周囲から変わっているとか思われると、ろくなことにはならないから、それは賢いやり方なのでしょう、でも辛い生き方だし」
「お前さん、これから大変だぞ」
「何が?」
「向こうの好感度上がりすぎてる」
「それはそれだ、そのうち落ち着くでしょ、そうしたらその時見かけた美人や可愛い人に目移りするんじゃないかな」
(そこまで男っていうのは、軽薄ではないんだがな)
「義理堅いではないけども、人情に溢れた奴はいるよ」
「知ってるけども、その相手は私ではないよ」
「全くひねくれ者め」
「労働のしすぎですよ、だからこうなっちゃったんです」
「それはそうだな」
「じゃあ、次は何を食べます?」
「そうだな」


「そういえば昨日あいつと飲んだぞ」
「うらやましい、呼んでくれれば良かったのに」
「まだ早いし、それで呼んで紹介でもしてみろよ、俺の信頼無くなるから」
「それはそうですね」
「しかし、やるなら上手くやれよ」
どっちも知り合いなので、下手をうつと酒が不味くなると釘はさされました。
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