浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

文字の大きさ
879 / 1,093

ネギをぱらつかせてもいい気がする。

しおりを挟む
おそらくこの辺に詳しいだろうからということはあったんだと思う。
作業着姿の女性に。
「すまないが、この辺にあるレストランに行きたいのだが」
「あ~そのレストランはちょっとわかりにくいんですよね。道を知らないと、それこそまっすぐ道なりにではつかないので」
というわけで案内をすることになった。
レストランが見えたときに、そのレストランの風格と食事をするお客さんとは、作業着姿の女性は浮いて見えた。
「いらっしゃいませ」
レストランの玄関にいた従業員はそういって出迎えるが、ちょっと驚いている。
「ありがとう助かったわ」
「いえいえ、ここは美味しいですからね、ごゆっくり」
何をこの作業着の女はいってるのか、この店の味がわかるものなのか、なんて顔をされた。
「あれ?奥さま、その格好、畑っすか?」
「ちょっと今から麓、キノコがやってくるよ」
「キノコ…まさか松茸っすか」
「さぁ、どうかな…じゃーね!」
「後でお酒に漬けるので、分けてくださいよ!」
返事はせずに手だけで合図はされた。
その姿をレストランに来た客はただ見送るばかり、ああこの人たちは正体は知らないのかということで、ネタバラシ。
「今のお方は、領主様の奥さまですよ」
「えっ?」
その話に血の気は引いていくが、もう彼女の姿は見えなかった。


炊飯器のメロディが鳴り響く。
そこをパカッと開けると、キノコ、ペンチルピニルカルビノールだろうか?その匂いがする。
「もうネタバレしているんだから、マツタケオールの匂いでいいのではないかな」
ペンチルピニルカルビノールはマツタケオールの別名です。
しゃもじを濡らし、一度かき混ぜてから、茶碗を使って、松茸ご飯の量を調整しながら、ラップで握る。
「熱い!」
冷やして備えたがそりゃあ熱い。
「旦那様の分だけやられましたら、後はこちらで行いますから」
「ごめんね、じゃぁ、お願いね」
おにぎりは2つだ。

「旦那様」
「どうしたの?」
「おにぎりは食べられますか?」
「あっ、食べる、食べる」
見た目、キノコだな。
この時点でラップの力により、匂いは感じられない。
そしてラップをめくると、あれ?この匂いは、まさか?
「これって松茸?」
「そうです、そうです」
「マツタケ、高い、高いんだよな」
「でもこれは売り物にならない松茸」
「売り物にならない松茸」
哲学的な存在。
「欠けちゃうとね、売れなくなるんですよ。後、成長しすぎてもね、ダメなんですよ」
「そうなんだ」
「味はどうでしょうか」
「美味しいです」
「油揚げも入れているのが今回のポイントですね、他におかずがあるのならばキノコだけでもいいのですが、おにぎりにするのならばアクセントがある方がいいかな」
ネギをぱらつかせてもいい気がする。
「売り物にならない松茸ね」
「それこそ、売れるものはないかは、中央集権化する前からも試みとしては行われていましたがね」
今の制度が始まる前から、都市部で売り出せるものとして毎年出荷はされてました。
ただやはり全部が全部売り物にはならないし。
「この辺りでそれらを食べる習慣があると、食べられちゃうんで、売れるものは食べるの禁止したみたいですね。そのせいでこんな扱いになっていると推測されます」
「飢饉もあっただろうし、そうなるか」
「今は飢饉ではありませんが、不景気で山に行く人は増えてはいます。ただそのせいで山の事故とか、食中毒が多くて」
「それこそ禁止もしにくいんだよね」
「間違い用がない品種だけは、写真とレシピつけて冊子を配布するとしても…」
「いや、まずそれやろうよ」
「えっ?そうですか?」
「その区分けはやるだけで違いそうな気がする。代わりにそれ以外は手を出すなとかね」
「うまく行くかはわかりませんし、まあ、そこで問題起きたら、また話をして、問題が起きないようにするぐらいでいいでしょうか」
「そうそう、あれ?君はこのおにぎり食べたの?」
「いいえ」
「2つあるからさ、一つは君が食べてよ」
「わかりました」
「君さ」
「なんですか?」
「こういうものがあったら、まずは他の人たちの分をってやり方をするじゃない?」
「しますね」
「それがね、すごいんだよ。食べたくはならないの?」
「そこは…真っ先に私が食べたら、ちょっと不味いかなっていうのが働きますね」
「贈答扱う人間って感じがする」
「それでも残ったものをいただたりするから、全く食べれないわけではありませんよ」
そこで抱きよせられて、耳元にキスされて、いきなりのことで、そんなことをされた方は固まった。
「あれ?どうしたの?」
「な、な、な、何を…」
「えっ、ご褒美」
「ご褒美?」
なんでご褒美なのか繋がらない。
「あっ、ごめん、こんなのご褒美にならないか、それなら…」
寂しそうな顔をしたので、領主にぎゅっと抱きついて。
「バーカ」
それを見ると、微笑ましくなった。
(相変わらず、言葉と態度が違うな~)
「僕からの愛とかじゃ喜ばないのかなって思ってた」
「それは人にもよるのでしょ」
「君は?」
「私の口から言うんですか?」
「聞きたいな、君はあんまりそういうことを言ってはくれないからさ」
「私たちは政略結婚なんですよ」
「そこから愛も生まれると信じてる。実際に仲が良い人たちはいたりするしさ」
「それは少数派じゃないですかね」
「その少数になりたいもんだね。そしていつもうちの妻はねって、いい話をしてくれる人がいるんだけども、その人に今度は僕も、僕の奥さんはねって自慢の話をしたいかなって」
その自慢してくる人はあの人かなと、心当たりはあった。
「その方は…非常に人がいいかたですからね」
「君のことも心配しているんじゃないかな」
「ええ、私はどうも娘を持っている方々からは、心配されるといいますか」
なんかめっちゃ仕事をするんだけども、ちゃんと休んでいたりしているのかい?
「まあ~そうだね。ああいう出自、立場のある方々からすると、自分たちの娘と比べると、現実的にうつるんだろうね」
「そこはしょうがないですよ。仕事ができるからこそ、私はここにいれるんだから、遊びに走ったらね。すぐに追い出されちゃうよ」
「もう追い出されないよ」
「なんでです?」
おにぎりモグモグ。
「君がどっか行ったら、まず僕が追いかけるよ」
「うわ~怖い」
「ビビられるとちょっと凹む」
「すいません」
「難しいよね、君に好かれたい、そばにいてほしいから、君がどっかいなくなる、嫌われるが嫌なんだけども。そばにいてほしいが嫌われるってことになりそうで」
「あるかも」
「あるんだ」
「一応はこの結婚はビジネスライクっていうんですかね。そこはやっぱりあるでしょうよ、まだ時間はあるけども、領内の景気を維持しなければならない、そのために見込みがありそうな、この松茸みたいなのを探している。料理上手な人たちがどう食べているのか、調べるもいいかもしれませんね」
「このレシピはどこから?」
「キノコ採りの人のレシピですね。それこそ、キノコ採りの時期にこれ炊いて、おにぎりにして、山歩きの時に食べる」
「ああなるほど」
「レストラン、飲食店なんかだとまた違うでしょうし。このおにぎりに関しては、松茸の冷凍保存の実験も兼ねているから、まだしばらく作る予定ですね」
「君も色々と考えているんだな」
「森林監督の専門科目とか学んでおけば良かったな」
「今でも十分戦力になってるよ。しかし、美味しかった。接待なんかで食べることはあったけども、美味しいものは君と食べるのが一番ホッとするような気がするよ」
「本当に言葉巧みですね」
「本音だよ」
「ではお仕事、もうちょっとだけ頑張って」
「わかった、頑張る」


「旦那様」
「なんだい?」
「奥さまを前にすると、顔が全然違いますね」
「そう?そんなことないと思うけどもね」
きっとそれが領主の本来の表情なのだろう。
(人がいいということは間違いはないのだけども、この御方はそれだけではない)
常人が狼狽するような場面でも、この男は慌てず騒がず、のんびり屋?まさか、そんなわけがない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...