浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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うちの家族は私が死んでも泣かないと思うの

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これからの季節は忙しくなる。
「妄新年会という飲み会がありますからね~」
三男執事はそう呟いた。
ただいま領主に同行中である。

一方お屋敷では、執務室の領主の椅子にはクマのぬいぐるみが座り、その前の机と椅子で、領主の妻が仕事をしていた。
「奥様、ご休憩の時間です」
「わかりました」
彼女のキリがいいところで休憩するになると、休みなしで書類仕事をこなしかねないので、時間になると休憩をする、ということに先日決められた。
飲食物をいただくために、テーブル席へと移動。
このテーブルと椅子は、領主が選んだものだ。
だから色合いに少し遊びがある。
「忘れていたわ」
そういってそのテーブル席でいつも領主が座る席に、執務の椅子に座っているクマのぬいぐるみを連れてきて、座らせたが、ちょっと高さが合わないので、クッションで調整して顔がテーブルの上に出るようにした。
「あらあら、奥様、今朝いただいたばかりなのに、大変気に入られたようですね」
「昨日何か準備しているな、今日から忙しいからその準備だと思っていたのよね」

メッセージカードに「忙しい僕の代わりに」とつけられて、ぬいぐるみが置いてあるのだが。
「この子、クマドールのぬいぐるみなのよね」
クマドール、家族のようなぬいぐるみというコンセプトのブランド、なので毎週洗濯、いやお風呂や新しい衣装のサービスがあるという。
「奥様」
ここで執事頭が話に入ってくるが。
「このクマドールは、お金を持っていても買えるものではありませんから」
「えっ?そうなの?大事にしてくれるとか、そういう人じゃないと販売しないとか」
「いえ、それ以前の、職人が大変偏屈なので気に入らないと販売しない、それゆえにプレミアムがつくといった形です」
「職人は…しょうがないわね」
「奥様は職人たちの性質を熟知していると言ってもいいかましれませんが」
「職人さんたちは、己の仕事に絶対的な自信があるから、基本的には口出ししてはいけないわね」
「左様ですか」
「奥様~」
ここには奥様、執事頭とロンスカ黒タイ人妻メイドの三人がいる。
「なんでしょうか」
「そういう職人たちからの人気があるお陰で、お屋敷の食事のレベルが上がったと思いますよ」
「そこは上げなきゃ、私が来た意味がないわ」
「確かに旦那さまも美食家ではありますが、奥様もなかなかだと思いますよ、奥様はやりくり上手が頭につきますけども」
「やりくりはしないとダメだよ、この先どうなるのかわからないし」
「えっ?奥様でもですか?」
「執事長、あなたは私をどう見ているのよ」
「いえ、意外な言葉ですし、ちょっと驚いてしまいました」
「そうなの?でも私としては今は不穏だと思っているわね」
「不穏ですか」
「だからみんなによく食べてもらう、それを途切れさせない方針にしているのよ 
「あっ、カボチャ美味しかったです」
「それは良かった」
屋敷に勤める人たちへの食料事情を良くするために、先日の焼きいもだけではなく、間食などの形で、食べてもらうようにしていた。
カボチャについては、一玉ずつ持っていってもらおうかなって思ったら、自炊しないものもいるし、調理が面倒くさいということで、屋敷の料理人が調理したものを食べたり、持ち帰ってもらうことにした。
「あのカボチャは作っている人が、コンテストに出ているような人だから、味がね、違うのよ」
「やはりただ者ではないないと思ってましたが、濃厚でございました」
「さつまいももそうだけども、熟成とか温度管理ができるかで、味が違いすぎるんだよ」
「?奥様はそんなことも考えているんですか?」
これも執事頭から。
「それでね、ぼそぼそして食べてもイマイチなのか、美味しい、美味しいで食べれるのか変わってくるんだよね」
「これからもよろしくお願いします」
「さすがにそれは…」
メイドの言葉を執事頭は止めるが。
「執事長、これが現場のリアルな感想なんだよ。食事に不満があるとね、精神的に持たないのが人間なんだ」
「しかし」
「わかる、我慢は美徳なのもね、自制心がなければ溺れるだけである」
「逆に奥様は両立できていると思いますが、それは大分相反するものでは?」
「あ~大抵美食家は、我慢できないからな、収穫期を迎えたこのシーズンは、特に、お酒で盛り上がる」
「そうですな、去年の今ごろは旦那さまがそうでしたが、今年はおとなしいというか、落ち着いた」
「旦那さまに関しては~正直食べるものが変えれるか、変えれないかはわからなかったよ」
「そうなんですか?」
「変えれない場合は、向こうが求めたとしても良好な関係は築けないものだと思っているし」
「それは何故?」
「生活習慣病による病は、それこそ予算をつけても、何とかしたい事業と化しているわけだよ。そんな中、止められない人間がいたら…その人が、食事制限しましょうと訴えても説得力はないだろう」
「ありませんね」
「でしょ。だから正直止まってくれてありがたいよ」
「でも奥様は男ごころをくすぐったと思いますが」
間食を私と半分こして食べましょう!と奥様が言ったら、うん、いいよで領主はニコニコしながら、分けて食べるのが習慣になった。 
「あれは、私の心の叫びでもあったんだけどもね」
バターは悪とは言わないが、この量は多すぎる。
「あの時嫌だよって言われたら、たぶん困っていたんじゃないかな」
半分でも若干油脂が多いために、無糖のお茶の熱いお茶で飲んでもらった。
「先日、どうやったら短期間で、領主の数値が改善するんです?って聞かれたんだけども、それで半分こしてくださいの話をしたら」
あっ…そうですか。
「私が言わなくても、半分だけ食べるぐらいの調整でなんとかなるんだけどもね」
「いや~それは上手くいかないでしょ」
「どうして」
「う~ん、奥様は男ごころを知っているのか、知らないのか、これが無垢というやつなのか」
「無垢ではないよ、あれはもっと綺麗な人にかける言葉だし」
「そこはまず置いておきましょうよ。いきなり今まで食べていたものを半分しか食べれませんってなってもね、人間は我慢できないものですから。旦那さまに関しては、今はどうかはわかりませんけども、食べ方が変わったのは確実に奥様がいるからですよ」
「そうかな」
「そうですよ。というか、旦那さまもなかなかやりますよね、こんな感じでプレゼントを用意するだなんて」
「そうなのよね、ちょっとビックリする。まあ、でも次からは言わなくちゃね。言わないとまた新しいぬいぐるみを用意されそうで」
「ぬいぐるみだらけになっちゃいますね」
「それもそうなんだけども、私はこの子だけを愛するわ」
こういうところに重い感情が見てとられる。
「離婚してもこの子だけはもらっていく、一緒ね」
執事頭はメイドに合図し、メイドは退出する。
「私は食事の準備がありますから」
「あっ、ごめんなさいね、話し相手になってもらって」
「引き続き私はいますから、どうぞお話を続けてくださいませ」
「ごめんね、あんまり面白い話ではなくて」
「いえ、構いません。色んな思いを奥様は抱えていると知っておりますから」
「そうなんだけどもね、私の今までは決して良いものではないから、聞いてて、ちょっと嫌な気持ちになってしまう、そういうことはあると思うのよ」
「だからあまり喋ることはしなかったと?」
「そうね。世の中、綺麗事が好きでしょう?」
「そうではありますが…それだけではないと私は思いますよ」
「そうなんだけどもね、うん、そうだね…だからこちらに嫁ぐことになって調査は入ると思ったから、それ以上のことはあまり私からは言うつもりはなかったんだけどもね。予想以上にみんなは私と話してくれるし、そこはありがたく思っているんだよ」
「そりゃあ、この屋敷のものは奥様に感謝はしておりますよ。それこそさつまいもやカボチャ、毎日切らさずに。旦那さまも時折私どもを気遣ってくれてましたが」
「食事は毎日必要じゃないか」
「えっ?…あっ、そうですね」
当然のことを指摘されて驚く。
「うちの実家のことは知ってる、聞いていると思うんだけどもさ。本当にうちの家族というのはとんでもないことをしてくるものだよ。さっきの旦那さまとおやつを半分にして食べている話の時にも思い出したけどもさ、自分の財布の中にいくら入っているか、わからずに買い物をする人であったのよ」
「それは…大変だったと思います」
「今もコーヒーを出してもらっているけども」
「奥様が来てからは、コーヒーも良いものになりました。まさか豆が高いものでなければ許さないとか言われたんですか?」
「豆ではないんだ」
「では何か?」
「砂糖だよ」
「砂糖?」
「練砂糖、研砂糖(とぎさとう)という奴さ、あれを買ってしまったから、食事は今日はないと言われてしまってね」
「…」
「ああ、私は結婚に辺り、本来の家族ではない人たちが間に入ることになっているので、直接、あの人たちが問題起こしたとしても私に請求が来ることはもうないから、いや、これがなければそもそも婚姻は、私には無理だからさ」
「逆によく、…そういえば間に入ってくださった方はご親戚でもない様子」
「本来は両親が交流の場に赴かなければならない中を、ほぼ私が行っていたようなものでね、そちらの縁だよ。ほら、一人だけその場では子供のような人間が挨拶に来たものだからね、顔を覚えられて」
「それは覚えられてというよりかは、悪目立ちでしょうね」
「そうだね、特にうちの親と同じ年の方々などは、とても気を使ってくれたよ」
病気か何かで出席出来ないのかな? 
「最初その質問は濁していたんだけどもね。問題を起こし続ける家族というのは、そういう集まりがあるという時にもやらかしてくれる」
「その時は何が?」
「それぞれ愛人というか、ばか騒ぎをする仲間もいたからね、そういったことをしている場で、一度倒れられて、家族として呼ばれたんだ、なんで呼ばれたのかはわからないし、呼ばれたくはなかったよ」
そこでさすがに集まりで、欠席をすることになったなどを話さなければならいときに。
「何人かから、ああいう人間はどうしようもならないから、自分の道を考えた方がいいとは言われだして、まあ、そうなんだけどもね、それでも、話だけだったからね」
「婚姻の話は?」
「それこそずっと後だよ。もうさすがに婚姻はないだろうなって思っていたぐらいだし。それが旦那さまの前の婚姻についての話の頃か」
「そちらの方はご存じの方だったんですか?」
「深くは知らないけども、そういえばあの人かぐらいな感じだったよ。むしろその方とはご家族の方が気を使ってくれたから、だからこそ破談かになったとき、人生って言うのはやっぱり上手くいかないものだね…のすぐに旦那さまとの話が来ちゃったんですよね」
旦那さまについては、前の相手よりも知らない。
「だからどういう人なのかなっては気になっていたけから、話を聞いたら、難しい人だなって思った」
「そんなところはありますな」
「でしょ?だから合わないだろうから、だって前のお話は私の話を聞いても、大変だったね、そんなことがあったら、とっちめるからねとかいうようなところだったけども、旦那さまはね…ここで例えるのは変だけども、うちの家族は私が死んでも泣かないと思うの、でもね、旦那さまのところは違うから、決まらない方がいいのよっては思ってたのよ。…あら?どうしたの?」
「いえ、申し訳ない、私も修行不足です」
執事頭の末っこと奥様は同じ年でもあるので、父親として、そんな話をされてしまったら、心に来るものがあった。
「私も親なので」
「あぁ、ごめんなさい、気分悪くさせてしまったわ」
「そんなことは…確かに領主、その妻という立場がありますから、色々と考えて立ち回らなければなりませんが、だからといって幸せを諦めないでもらいたいものです。その…個人的にです、正直、子供にそんなことを言わせる親が信じられないでいる」
「強烈だよね」
「あなたがそんなご両親に似ないでくれて良かった」
「いや、本当、なんで似ないのかね、身体的特徴はちゃんとあるから、それで嫌悪感抱かれたりするんだけどもね」
「その話は旦那さまが帰ってきてからじっくりしてあげてください」
「そう?でも私はしないと思うよ、さっきも言った通り聞いてて面白い話ではないから、それに旦那さまも疲れているから、一緒にいるときはなるべく楽しい話を…」
そこでクマのぬいぐるみと目があった。
「旦那さまは不思議な人なんだよ、楽しい話をするつもりなのに、いつの間にか、他の人には話したことがない話をすることになるんだから」
はい、それでは休憩終わりと、ごちそうさまの後に、クマのぬいぐるみを抱き抱えて、執務に戻っていった。
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