浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

文字の大きさ
992 / 1,093

くらしっくな車

しおりを挟む
伊予柑が盛られている八百屋の皿が崩れる。
「あらあら」
お客さんや通りがかった人たちまで、伊予柑を拾ってくれるのだが、その中の一人を見ると…
「あなた…もしかして照(テル)さん?」
「あっ、そうですけども」
でも、この老婦人とは面識はない。
「いつもうちの子や孫、それに瑠梨(るり)ちゃんからもお話は聞いているんですよ」
そうこの人は組合長のお母さんである。
ついでに、Tさんは本名照という。
「どういう人かはわからなかったけども、あなたのような人なら安心ね、瑠梨ちゃんのことよろしくお願いしますね」

そんな事があった後に、姉からの連絡。
お母さんがどうしても行きたい!というイベントがあるので、それに合わせて旅行を計画中、その時に家族で食事をしたいから、予定あけておいてといってた。
姉の名前は晴(はる)という。
自分の姉は悪い人ではない、だがどうも悪のり、これはTさんの地元で見られがちな悪癖で、注意されれば止まるが、注意されるようなことを行ってしまうところがあり。
こういうところが嫌なので、Tさんは別の地域に就職することにしたのだ。
「ホテル高っ!」
思いに更けていると、そんな姉のメッセージがおくられてきた。
そういえばホテルが値上がりしているといってたな、自分も良いところはないか探しておこうかな。
「何をしているんだい?Tさん」
「あ~黒舌さん、うちの両親と姉がこっちに旅行を考えてるらしいんだけども、ホテルが高いっていってて」
「そういえばそんな話してたね」
「実際にかなり値上がりしてますね」
「どれどれ…」
黒舌さん、こたつサイズが顔を近づけてくる。
ドキドキ…
「あ~ここまで値上がりしているのか、ホテルってどういうのをお考えなの?」
「う~ん、せっかくの家族の旅行だし、快適でくつろいでもらえるのならば…」
「古くてもいい?」
「どのぐらいですかね?」
そういうと黒舌さんが資料を見せてくれるが。
「こういうの」
「これは古いというよりクラシックっていうんですよ、なんですか?これ」
「元々は偉い人の持ち物、それをこの地域で譲り受けて宿泊施設にしたんだけどもね、一回リフォームして、今は商店街関係の取引先が泊まったり、研修の時に使っているんだ。一般の人は予約受け付けてないんだよ」
「へぇ、なんて名前なんですか?」
「…会館」
「すいません、全部聞き取れませんでした」
「第一るりりん会館」
「そこに決めましょう」
「なんで即答しちゃうんだよ、まだご家族に聞いてないでしょ、お値段とか聞かずに決めちゃダメでしょ」
ここで黒舌さんこと「瑠璃鱗(るりりん)」は人の姿になった。
「縁起がいいし、可愛い名前だなって」
「もう!Tさんは組合のお仕事も手伝ってくれているし」
いわゆる黒舌さん関係の事務処理の手伝い。
「まずは聞いてみないかだけども、予定の日取りとか、ざっとわかってるの教えてくれる?」
「はーい」
そこで問い合わせしてみたところ。
「Tさんのご家族はokだって、その時期だと商談会とかもないから、ええっと空室の案内はこれね」
そういって予約のページを案内してくれた。
「ありがとうございます。でも僕からは提示するだけですし、両親と姉が気に入ってくれたらいいなとは思いますが」
「それはそうだよ」
「僕もいくらか出そうかと思っててます、黒舌さん家にほぼ住んでいるようなもんですからね」
前年の電気代も表記されているが、家に帰ってない人の料金になりつつある。
「宿泊費はこちらだよ」
バン!
「えっ?なんですか?どこの…何年前の料金ですか?」
「Now料金だよ」
しかも朝食付き。
「ここはご飯は美味しい、研修(ご飯つき)になると参加人数が増えるぐらい美味しい」
「そこまで…言わせますか…」
「くっくっくっ、しかもだ、リニューアル後に現在のオーナーになったのだが、くらしっくな車で良ければ送迎もしてくれるぞ」
この商店街までは直線距離としては立地は悪くはないが、公共の交通機関だと乗り換えが必要になる。
「オーナーは『くらしっくな車』とやらが大好きでね」
当時車が珍しかった時代、お客さんを送迎するために使われていた車があるのだが、こちらがまだ現役で維持されております。
「元々は組合長のお母さんのお父さんの車なんだってさ」
つまり組合長の祖父にあたる。
その車を手放す時に、ちゃんと面倒見ますからで次の所有者になったのが、ホテルオーナー。
その時はなんでそんな古い車を…と思っていたら、時代は過ぎ、実際に動く状態を維持して、送迎に使われるようになると、駅などで目立つ目立つ、送り迎えされるとなんだかいい気分になるという。
「…これはたぶん決まるのではないでしょうか」
「それならば嬉しいけどもさ」
「もしダメならば、一緒にご飯でもここに食べにいきませんか?」
「いいね」
姉に第一るりりん会館の資料を送ったところ。
「ここにします」
「むしろ私だけ1日早く泊まりにいきます」
平日だとさらに安く泊まれるから!
「というか、本当にこの価格でいいの?」
「瑠梨さんでいいのよね?あんた絶対に喧嘩するんじゃないわよ、もし自分が悪くなくてもとりあえず謝っておきなさいよ」
というメッセージが続けてやってきた。
これはかなり浮かれている。
ため息をついた。
やはりこの姉とは相容れない。
「どうしたのさ」
「姉さんは相変わらずだなって」
「そう…」
「だからあんまり実家や地元に帰りたくないんですよ」
「じゃあ、ずっとこっちにいればいいさ」
「そうしたいですね」
「Tさんは居たいと思う場所にいるといいんだよ、私はそれを願っているよ」
「黒舌さん…」
言葉もなくその後しばらく沈黙を共にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...