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公爵令息は、走る。
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鉄の淑女が、パーティー会場を脅かす狂戦士と化していた頃。
アルファーフを抱いて会場を飛び出した、セザンヌ・アレマーの格好をしたセザール・アレマーは走っていた。
それはもう一直線に、猛然と、周囲の声も何もかもを無視しながら、学園を駆け抜けていく。
騒ぎを知らない在校生や教職員が驚いて足を止める合間を縫いながら。
その遥か後方。
こちらは広間を急いで出てきたとは思えない雰囲気の国王陛下と宰相閣下が、近衛騎士達に囲まれながら同じ道のりを辿っていた。
本心を隠し周囲を欺くことに長けた大人達は、内心がいくら悠然と程遠かろうとも、見かけ上は悠然としてみせていた。
ところで会場を出て走り出したのと反対方向に、今年に限っては王族用に誂えられた控室があった。
近衛騎士は当然そのことを承知していたし、王太子殿下は控室に運び込まれると思って平たく言えば油断していたところに、セザール・アレマーが突如走り出したものだから
(控室に侍医を呼ぶんじゃないのか?)
と疑問に思いながらも慌ててついてきて、今に至っている。
王太子殿下が尋常ならざる様子で意識喪失したことからも、左右に追い縋る近衛騎士達は当然動かさない方が良いのでは、と考えていたのだが、後ろから来ているはずの国王陛下も、国王陛下付きの近衛騎士からも何も伝達が無い。
それならばこれで良いのだろうと、今のところ黙って付き従っていた。
そもそも意識のない王太子殿下を抱きかかえて爆走している御仁が控室の存在を知らぬはずもなく、にも関わらずそちらには目もくれなかったということは何かしら理由があっての行動に違いないし、近衛とは言え所詮騎士の自分達には分からない何かがあるのだろう、と割り切った。
と良さそうに言ってみたが、その実、人目を憚らず凄まじい勢いで学園を突っ切るセザール・アレマーに追い縋るのが精一杯で、物を申せる程の余裕は、彼らにはなかった。
左右を走る近衛騎士二人からしてみれば、ついぞ先程まで歩けばシャナリシャナリと音がしそうなたおやかさで、立てば凪いだ海のような静けさだったセザール・アレマーのどこに近衛騎士を置いていきそうなほどの脚力が隠されていたのかと文句の一つも言いたい事態であったし、更にそれがガタイの良い美丈夫であるということに若干打ちのめされていた。その状態で追い縋っているだけでも立派なものであろう。
アルファーフを抱いて会場を飛び出した、セザンヌ・アレマーの格好をしたセザール・アレマーは走っていた。
それはもう一直線に、猛然と、周囲の声も何もかもを無視しながら、学園を駆け抜けていく。
騒ぎを知らない在校生や教職員が驚いて足を止める合間を縫いながら。
その遥か後方。
こちらは広間を急いで出てきたとは思えない雰囲気の国王陛下と宰相閣下が、近衛騎士達に囲まれながら同じ道のりを辿っていた。
本心を隠し周囲を欺くことに長けた大人達は、内心がいくら悠然と程遠かろうとも、見かけ上は悠然としてみせていた。
ところで会場を出て走り出したのと反対方向に、今年に限っては王族用に誂えられた控室があった。
近衛騎士は当然そのことを承知していたし、王太子殿下は控室に運び込まれると思って平たく言えば油断していたところに、セザール・アレマーが突如走り出したものだから
(控室に侍医を呼ぶんじゃないのか?)
と疑問に思いながらも慌ててついてきて、今に至っている。
王太子殿下が尋常ならざる様子で意識喪失したことからも、左右に追い縋る近衛騎士達は当然動かさない方が良いのでは、と考えていたのだが、後ろから来ているはずの国王陛下も、国王陛下付きの近衛騎士からも何も伝達が無い。
それならばこれで良いのだろうと、今のところ黙って付き従っていた。
そもそも意識のない王太子殿下を抱きかかえて爆走している御仁が控室の存在を知らぬはずもなく、にも関わらずそちらには目もくれなかったということは何かしら理由があっての行動に違いないし、近衛とは言え所詮騎士の自分達には分からない何かがあるのだろう、と割り切った。
と良さそうに言ってみたが、その実、人目を憚らず凄まじい勢いで学園を突っ切るセザール・アレマーに追い縋るのが精一杯で、物を申せる程の余裕は、彼らにはなかった。
左右を走る近衛騎士二人からしてみれば、ついぞ先程まで歩けばシャナリシャナリと音がしそうなたおやかさで、立てば凪いだ海のような静けさだったセザール・アレマーのどこに近衛騎士を置いていきそうなほどの脚力が隠されていたのかと文句の一つも言いたい事態であったし、更にそれがガタイの良い美丈夫であるということに若干打ちのめされていた。その状態で追い縋っているだけでも立派なものであろう。
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