婚約破棄を受け入れた令嬢は、令嬢ではなかったから。

赤湶

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知らなかった彼女のこと。

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(嘘だろ••••••?)

それがアルファーフの率直な感想だった。
いかにも庇護してあげなければいけないと純朴な雰囲気のが、まさか、と思ってしまう。
それを察してか、ぶった斬るようにセザール・アレマーが付け加える。
「彼女は剣技、闘技に関していえば同世代に一切の追随を許さない程度には天才ですよ。少なくとも、その他の能力が平民よりも低いにも関わらず学園に在籍していた理由はそれです」
国としても、周辺諸国に彼女を奪われたくなかったから、と説明を受けてもアルファーフにはピンと来なかった。
「殿下以外、皆知っていましたよ。彼女、その才能を隠してはいませんでしたからね。だからこそ余計に殿下は馬鹿にされていたのですが••••••」
セザール・アレマーは言葉を切って、アルファーフを見つめる。

「このようなことになれば彼女は危険人物です。捨て置くことは出来ませんし、殿下の愛がいかに本物であったとしても、諦めていただく他ありません」

アルファーフは、察した。
察するしかなかった。
自分のせいで、恐らくオーメル・ガーカスという人物がこの世から消えるのだろうという事実を。

「愛しては、いない••••••」

目の前が暗くなるのを気力で抑え込みながら言う。
「ただ、私のせいで臣民の命が奪われることが申し訳ない••••••」
正気に近い今の状態で、アルファーフにはガーカス伯爵令嬢に対する愛はない。
ただ、何もなければ起こらなかったことだと思うと、己のしでかしたことの大きさに愕然する。

「いいえ、これはきっかけです」

風の音のような声が、堂々巡りになりそうな思考を切った。

「彼女は、あまりに危険でした。どういう訳かは分かりませんが、戦闘に関することを除けば一般レベルの知能がない、つまり本能のまま危険行動をしかねない存在なのですよ。そしてその性質は非常に

言葉を引き継ぐように、近衛騎士団長が続ける。

「かのご令嬢がもし、本能のまま他国のとなれば、この国はかなりのダメージを負うことになるでしょう。彼女は戦闘センスだけでなく、作戦を企てる参謀としても規格外の才能を持っていましたから」

だからいずれ、排除される予定だったのです。

アルファーフは、何も知らなかった。
よりによって最悪の事態を引き寄せていただなんて••••••
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