婚約破棄を受け入れた令嬢は、令嬢ではなかったから。

赤湶

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牢の内側のこと。

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ガァァァンッ!!

バァァァンッッッッッ!!

ガキィィィッッ!!


およそ、牢の中とは思えぬ音が鳴り響いている。
本来なら音源へ駆けつけるべき牢番はしかし、無感情にそれを眺めていた。

「出しなさいよぉぉぉぉっっ!!!!」

叫ぶ声はオーメル・ガーカス伯爵令嬢のもので。
牢には彼女が格子にぶつかる音が、殴りつける音が、蹴りつける音が響き続けていた。

あの騒ぎの後、駆けつけてきた近衛騎士達に抱え上げられるようにしてこの牢に放り込まれた彼女には、自分が何故、牢に閉じ込められているのか全くわからなかった。

牢番は、王命で捕らえられていることを何度か説明した。親切にも罪状が国家転覆未遂罪と不敬罪であることも説明したが、何度話しても理解出来ない様子で暴れるため、。

実際のところ、国王の思惑としては全く別なのだが、オーメル・ガーカスがそれを理解することはこの先もきっとない。

(それにしても、かれこれ3日の間ずっとあの調子っていうのもすごいな••••••)

その体力と気力に、牢番は少しばかりゾッとする。
格子が壊れるとは考えたくないものの、これが続けばあるいは••••••

そんなことを考えていると、牢部屋の扉が開いた。
そこに立つ人物に驚いた門番は、慌てて礼をとる。

「セザール殿、いかがなさいましたか?」

この三日の間にすっかりと、・アレマーであることが城中を駆け巡った本人は、以前から至極当然であったかのようにらしい立ち姿でそこにいた。
「オーメル・ガーカスに用がある」

少し出ていろ

そのシレッとした物言いにうっかり頷きそうになってから、牢番は慌てて言う。
「セザール殿、それは出来ませぬ。目を離すな、と陛下からの厳命でございますゆえ」
焦る牢番に、セザールは手にした書類を押し付けた。
「安心しろ、陛下からの許可状だ」

(最初から渡してくれ!!)

心の中はともかく、陛下の許可を持っている公爵令息に物申せる立場でもない牢番は、火急速やかに退出していった。

牢部屋の扉を閉めた牢番は、ふうっと息を吐きながら扉にもたれかかった。
扉一枚向こう側の叫び声も、音も、何も響いてこない。
普段なら気にもしないそのことに、何故かぞっと背筋が寒くなり、牢番は大人しく近くの交代用椅子にかけて待つことにした。


扉が閉まったことを確認したセザール・アレマーは、現在使われている牢の前に立った。
オーメル・ガーカスは無我夢中で格子にぶつかり叫んでおり、一向に格子の前に立つ男に気づくそぶりもない。
「無様だな」
鼻で笑うように言われ、オーメル・ガーカスが弾かれたように顔を上げた。
「••••••誰、あんた」
冷静に見れば十分に見覚えのあるその人に気がつくはずであるのに、彼女はその男に気がつかない。
「誰でも良いだろう。お前に伝えることがあって来た」

「お前の父、ガーカス伯爵が、娘の国家転覆罪への加担疑いで捕ま

絶句するオーメル・ガーカスに嫌な笑みを浮かべて、男は更なる絶望を吐き捨てた。

「アルファーフ王太子は、いなくなった」
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