婚約破棄を受け入れた令嬢は、令嬢ではなかったから。

赤湶

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妃主催の舞踏会。

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リザファー・メリラス・ウベータ妃によるアルファーフ第一王子の卒業と帰還を祝う夜会が開かれたのは、アルファーフ第一王子が戻ってから更に1週間後のことだ。
めでたいこと、という以上に貴族達がこぞって集結し、王城の広間は大層華やかな様相である。

「アルファーフ・フォン・ウベータ王太子殿下のご入場にございます!!」

ザッと広間の中心が開き、カーペットが流される。
開かれた扉の先には、凜然とした王太子殿下と、控えるセザール・アレマー公爵令息の姿があった。

(え、結局誰もエスコートなさらないのか)

と、末端貴族の令息が思い、その隣では

(やっぱり殿下はセザール様と••••••?!)

と、あらぬ疑いを末端貴族の令嬢がかけている。
彼等を含めた元同期生達は特にパーティー会場にいたからこそ、普通に見える王太子殿下に驚きを隠せずにいた。
各人が色々と思うところがあるであろう中を、王太子殿下はにこやかに入場していく。

(そういえば、ガーカス伯爵令嬢はどうなったんだ?)

そう思っているのは某令息だけでは当然ない。
普通に考えればこんなに夜会に参加できる等、精神がおかしいのか、ガーカス伯爵令嬢が認められる何かがあったとしか思えないものだが、少なくともガーカス伯爵令嬢についてはしか耳に入らない。
不思議なことに、あらゆる貴族達があらゆる手段を使って確認しようとしても、何も得られないのである。

それ故に今後の情勢判断が出来ずに困り果てていた貴族達からすると、このタイミングでのの夜会は参加しない選択肢はない、くらいのものだった。

「国王陛下並びにリザファー妃のご入場にございます!!」

王太子殿下が王族用に用意されていた壇の下に到着するのを見計らい、続くのは国王陛下とその妃リザファー・メリラス・ウベータ。

その足元には国王の金糸に、並ぶ鮮やかな赤で薔薇を描いたカーペットが伸びる。
国王陛下の金髪と並ぶ鮮やかな赤髪の妃は、穏やかな笑みを浮かべて、その先に待つ王太子を見つめた。

会場の全ての者達が動きを止め、息を潜めて見守る中を進んだ2人は、王太子殿下の前を通り過ぎ、壇上の椅子に掛ける。

「国王陛下、リザファー妃殿下、王太子アルファーフ・フォン・ウベータよりご挨拶申し上げます」
そう述べて壇上へ礼を取る王太子アルファーフ・フォン・ウベータを、2人は穏やかに見下ろしていた。
「王太子アルファーフよ、よくぞ無事に帰還した」
国王陛下の言葉に、会場がざわめく。
で祝えずにおったが、改めてアルよ、卒業おめでとう」
「父上、ありがとうございます」
(そこはスルーしなくてよろしいのかしら••••••)
末端貴族の令嬢には、あえてあのを蒸し返す必要がわからない。

「アルファーフ」

柔らかな声がかかる。
「ささやかだけれど、本日の夜会は、わたくしからのお祝いと思ってちょうだいね」
「ありがとうございます」
リザファー・メリラス・ウベータ妃は、その苛烈な色合いの赤髪に反して穏やかな笑みを浮かべていた。
リザファー妃は、このような場に出てくることも、主催することも少ないルビアナ侯爵家出身の妃である。

リザファー妃が催し物を執り行うこと自体が珍しいことである上に、その理由も珍しいものであったため、今回の夜会が彼女主催であることに疑問を抱いていた貴族は少なくなかった。
確かに、彼女が主催すること自体がなのだろう。それだけのが、この夜会にはあった。

家族の挨拶が終わった国王陛下は、改めて会場を見渡す。
「本日は我が息子の祝いの場として、妃が執り行うものである。しかし、この場には息子と共に卒業を迎えた者達も揃っているようであるな」

国王陛下はニヤリと悪戯っぽく笑う。
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