婚約破棄を受け入れた令嬢は、令嬢ではなかったから。

赤湶

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第二王子は兄を慕う。

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「第二王子ジル・ラ・ウベータ殿下のご到着です!!」

大人がほろ酔い加減で名酒ベルマリンを味わい、令嬢が最高級のスイーツに顔を綻ばせ、令息が上品さをどこかに追いやってかぶりつき肉を頬張っている会場に声が響く。

アルファーフ・フォン・ウベータの弟である、第二王子が遅れて到着した報せだった。

大人達は赤くなった頬を、令息達は肉を持った手をどうしたものかと焦るが、ちょうどリザファー妃と共に、会場に背を向けるようにしてノーティ公爵、妃の兄であるルビアナ侯爵と談笑していた国王陛下が振り返った。

「皆、気負うことはない。そのまま談笑を続けて構わぬ」

構わぬ、と言われても••••••と困惑する貴族達の後ろから、クスクスと笑い声が聞こえてくる。

「父上のおっしゃる通りです。すみません、皆さんの宴を邪魔してしまいましたね」

扉にもたれるようにして、第二王子、ジル・ラ・ウベータが母親そっくりの柔らかな笑みを浮かべていた。
足元にはいつの間にか、純白のカーペットが流されている。
気にしないで、と言っても貴族達からすればそうもいかないものである。
第二王子は国王陛下の元へ歩みを進め、挨拶を終えたところで改めて会場を振り返った。
「どうぞ皆さん、母上の夜会を楽しんでいってください」
ニコリ、と第二王子が微笑み、国王陛下とリザファー妃が頷くのを見て、ようやく貴族達もそれぞれに戻ることが許される。
同時にくるりと踵を返した第二王子は、そのまま早足にノーティ公爵令息と談笑している兄王子の元へと向かった。

「兄様!!お久しぶりです!!」

先程までとは打って変わって破顔した弟を、アルファーフは優しく迎える。
「たった1週間••••••いや、ジルと会うのは半月振りくらいか?そんなに久しぶりではないだろう?」

苦笑して弟の頭を撫でる様子を、周囲は微笑ましく見ていた。王族に限らず貴族にも骨肉の争いは普通に存在しているが、ことこの兄弟に限っては昔から本当に仲が良い。それは、アルファーフ殿下の様子がおかしくなってからも変わらなかった部分かもしれない。

「だって僕、兄様のことが心配だったんです••••••」
そう言って、しゅんと上目遣いでアルファーフを見上げたジルは、あっとセザールを見た。
「セザール義兄上もお久しぶりです!!」

この第二王子も当然のようにセザールをと呼んだ。何故、なのか分からないが••••••

「ジル殿下、お久しぶりです」

勢いに呑まれない辺りは流石、なのだろう。
セザールは穏やかに返す。

「ところで兄様、お身体はもう大丈夫なのですか??」

貴族達が聞き耳を立てていることに、この幼い王子は気が付かないのだろう。
元気いっぱいのよく通る声でアルファーフ殿下に話しかける。
アルファーフ殿下も気にならないのかに返事をした。
「そうだね、もう大事だよ」
「セザール義兄上に、ごめんなさいしましたか?」

(幼いって怖い••••••)

何処かの貴族はその無邪気さに震えながら、耳そば立ててしまうのを辞められない。

「そうだね••••••いっぱいしたよ」

心なしか、王太子殿下の目が遠くを見つめている。

(何があったのだろう••••••?)

貴族達はそれぞれに心配したり思うところがあったりと、忙しい。
ジル殿下は、さらに爆弾を落とした。

「あの女性に、お会いになるのですか?」
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