落日の眩耀

麻生 凪

文字の大きさ
上 下
3 / 6

赤い花

しおりを挟む
    何度も同じ夢を見ているうちに、私には願望が芽生え始めていた。疑問も生じたが、それは大したことではなかった。自身の中で解決はされている。

 夢冒頭のあの景観、見覚えがある。確かに以前から記憶している風景だ。そうだ、あれはこどもの頃に遊んだ裏山。冬になると、険しく細い山道は枯れ葉で埋め尽くされ、道の窪みに貯まった枯れ葉の中に飛び込んで、遊んだ記憶がある。
 小一時間程かけて登って行くと、山の頂きに着く。逢魔が時、そこから見える海に沈む夕日が、こどもながらに素晴らしく思えたものだ。多分、デフォルメされたその景色が夢に出てくるのであろう。だが、裏山には地蔵はないし民家などなかった。白樺が自生する環境でもない。しかし、それこそが夢の夢たる証し。全ては脳の記憶が、クロスオーバーして創られた世界なのだと納得はできる。安易ではあるが疑問は解決された。

 願望というのは、あの平屋の家には何があるのか見てみたい。そしてあの女性は、私に何を話したのか、はっきり聞いてみたいというものだ。その願望を意識して夢に挑むのだが、白樺を越した頃には、いつもすっかり忘れてしまっていた。

 今夜こそ、夢を進ませなければならぬ。
 謎が解けさえすれば、こんな夢は見なくてすむはずだ。

 ―――‐‐…

 落日の山道、見た夢の足跡を辿るかのようにゆっくり進む。一本の白樺、ここからだ。右掌の甲をつねりながら、次の場面に向かう。
 地蔵が見えた。顔つきを確認する。歪んだ顔、よし。無意識ではなく、はっきりとした意識の中で手入れされた小道を進む。崖の手前に平屋が見えた。不安はない。
 初めて平屋の玄関に辿り着く。ここからが、新しいステージとなる。
 綺麗だな。
 玄関ドア上部には、切り抜きの四角い枠にステンドグラスの細工が施され、室内の灯りが漏れている。ガラス細工の赤い花。見たことはあるがなんという名前だったか思い出せない。というよりも、その花の名をしらぬ。
 
 私は、ゆっくりとドアを開けた。
しおりを挟む

処理中です...