落日の眩耀

麻生 凪

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その日

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 三河湾スカイラインを一台のパトカーが疾走している。 時は正に落日を迎え、朱色に耀く太陽が、それぞれの万感の想いと共に水平線にその身を浸そうとしていた。
 


「主任、あれですね。少女殺しの犯人の車は」
  
 サイレンをけたたましく鳴らしながら、パトカーが国坂峠の駐車場に入って行く。フロントガラス越しには、犯人が車から慌てて飛び出して行くのが見えた。犯人の車の後ろにはぴたりと白いワゴン車が停まり、その運転手が後を追う。手には出刃包丁が握られていた。

「あれは確か、少女の父親です」

「そこのふたり、止まりなさいっ!」
 女性主任警官は声を張り上げながら走り寄る。

 追っていた男の手が犯人の肩を掴んだ。

「やめなさい!」

 逆光を浴びた女性警官の姿を確認した男は、一瞬動きが止まったが、直ぐに刃を掴んだ手を犯人の頭上にかざした。

 ドゴーン ゴーーー……
    
 銃声と共に、栖で微睡み始めた鳥たちが一斉に木々から飛び立つと、辺りは静寂に包まれた。
 すぐさま男の警官が犯人の身柄を確保し、手錠をかける。撃たれたワゴン車の男は、ぐったりとその身を地面に横たえていた。その視線は、真っ直ぐ歩み寄る女性警官に向けられている。
  
 側に寄り、しゃがみこんで男の顔を確認すると、視線は変わらず彼女が来た方向に向けられていた。

 振り返り、男の見つめる視線の先に目をやると道路標識が立っている。
 逆光の中、目を凝らす。

『県道    525号』とある。

 標識の周りには、季節外れの真っ赤な彼岸花が、ゆらゆらと西風に揺れていた。
    
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