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第百話
しおりを挟む「あっ…!」
「あなたは…!」
俺の背後でディンの姿を見た二人が驚きの声をあげる。
「ディンさん…でしたかしら…?」
「あ、あなたがどうしてここにいるんですか…!?」
「ん?僕がここにいておかしいかい?」
ディンはいまだに俺を睨みながら言った。
「君たちは帝国魔道士団の入団のためにここへきたんだろう?だとしたら現役団員の僕がここにいてもなんらおかしいことはないと思うが?」
その通りだった。
俺たち3人は今日、帝国魔道士団の入団のためにここへきた。
『俺、卒業したら帝国魔道士団に入ろうと思ってるんだが』
半年前、ふとした会話の中で進路を尋ねられたときに俺はヴィクトリアとシスティに対してそう宣言した。
これは随分前から決まっていたことだった。
エレナいわく、帝国魔道士団には、それぞれの魔法の道を極めたエキスパートたちが数多く存在しているという。
俺が魔法使いとして成長するには、そんな帝国魔道士団に入団するのが手っ取り早いと思ったのだ。
『あなたがそういうのでしたら私も…』
「わ、私も…!!アリウスくんが帝国魔道士団に入るなら…一緒に目指したい…!』
元々俺と同じ道を歩むことを決めていたらいい二人は、俺が帝国魔道士団を目指していることを知ると驚きながらも、一緒の道を進むと言ってくれた。
…そしてあれから半年後の今日。
俺たちは3人ともが帝国魔術学院を卒業し、帝国魔導師団に入団するためにここにいる。
「あんたがここにいることは納得だけど…でもなんで急に殴りかかってくるんだよ」
俺は意味不明な奇襲を仕掛けてきたディンに小言の一つをいう。
ディンの一撃には殺気こそなかったものの、それなりの威力の一撃だった。
素人がまともに食らえば気絶ぐらいはあり得たはずだ。
「ふん…僕はこれでも負けず嫌いでね…この間のことを根に持っているんだ…アリウス・エラトール。君のことは色々と調べさせてもらった。クラウス王子と繋がりがあるっていうそうじゃないか」
「…さあ、どうでしょう」
どうやらもう俺とクラウス王子のことについても調べられているらしい。
これが帝国魔道士団の情報収集能力ということか。
もうすでに俺の出自などもある程度バレているだろうし、色々と隠したところで無駄なのだろう。
「本当にいけすかないやつだ、君は。いいかい。僕は絶対にやられっぱなしでは終わらない。帝国魔道士団の一員としてのプライドがある。必ずリベンジをするから覚悟しておけよ」
「…はぁ。わかりましたよ」
厄介な男の恨みを買ってしまったようだ。
俺は今後何かとディンに突っ掛かられたりしないかと考え、ため息を吐く。
「おい、ディン。いつまでお喋りに興じている。早くそいつらをこちらまで連れて来い」
「ディン。お前に勝ったってやつの顔を俺たちにも見せてくれよ」
不意にディンの背後からそんな声が聞こえてきた。
部屋の奥に壁を背にして立っている四人の男女。
ディンと同等か、それ以上の強者の気配を感じる。
おそらく四人ともが帝国魔道士団の団員なのだろう。
「随分豪華な出迎えですね」
まさか帝国魔道士団5人で新人候補の3人を出迎えとは。
想定外の事態に、俺は内心驚きを隠せない。
「ふん…まぁとりあえず来なよ」
ディンに連れられて、俺たちは室内に足を踏み入れる。
「これが今年の学院のトップの生徒か…」
「ふむ…なんだか軟そうな連中だ」
「えー、本当にこの子たちに団員が務まるかなー?」
「い、いきなりそんなこと言うのは失礼だよ3人とも…!!これから仲間になるかもしれないのに…」
室内に入ってきた俺たちを見た四人が、そんな感想を漏らす。
四人のうち3人が、すでに俺たちを舐めたような顔でジロジロと見てくる。
「軟そうな連中とは失礼ですわね。私たちはこれまで、魔法に関して努力を怠ってきませんでしたし、自信もありますわ。軽んじてもらっては困ります」
「そ、そうですよ…!!これでも私たち、学院のトップスリーなんですから…!」
そんな彼らに対して、ヴィクトリアとシスティが負けじと言い返す。
たとえ相手が帝国最高峰の魔法使いの集団だったとしても言われっぱなしは癪に触ると言うことだろう。
帝国魔術学院の卒業生の中で、帝国魔道士団への入団の申請権が与えられるのは、上位上位10人以内に入った生徒のみ。
中でも俺たちは、卒業試験において一位から三位までを独占した、いわば卒業生のトップだ。
システィとヴィクトリアにもそれなりのプライドがあり、馬鹿にされたままにはしておけないのだ。
「はっ…トップスリーね…」
「ペーパーテストの点数と実践は違うんだ。あまり生意気な口を叩くな」
「言うわねぇ、あなたたち。あまり大きく出ると後で痛い目見るわよ」
「あのあのっ…この3人はこんなこと言ってるけど…実は優しい人たちなので…勘違いしないでっ…」
言い返したシスティとヴィクトリアに対して、挑戦的な瞳を向ける3人。
そんな中、一番端に立った小柄な女性だけが、おどおどしながら刺々しい3人を擁護する。
仮にも帝国トップの魔法組織の団員とは思えないほどに気弱そうな人だった。
「こんな人もいるんだな」
「あうぅうう…」
俺が珍しげにその女性を観察すると、女性は恥ずかしかったのか顔を赤くして俯いた。
「おい、それで…ディンに勝ったってやつはどいつなんだ?」
そんな中、最も大柄な男が、俺たち3人を眺めて回して聞いてきたのだった。
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