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第十二話
しおりを挟む「どうする、ガイズ。無能のアルトを追放したら、アイリスが出て行ってしまったぞ…あの女はこのギルドの要だったというのに…」
アイリスがアルトを追ってギルド『青銅の鎧』を出て行ってから三日後。
ギルマスはガイズを執務室に呼んで今後のことについて相談していた。
アイリスは、街の冒険者の中でも一、二を争うほどの戦闘力の持ち主であり、『青銅の鎧』の主力だった。
これまで『青銅の鎧』は数々の高難易度の依頼をこなしてきたが、それらはアイリスがいたことによるものが大きい。
故にアイリスの唐突の脱退は、これからのギルド運営に大きく支障をきたすものだった。
「我がギルドにはまだまだ優秀なメンバーがいるが…しかしアイリスが出て行ったのは本当に痛手だ…どうすればいい?知恵を貸してくれ、ガイズ」
「ええ、すでに対策は考えています」
弱気になっているギルマスに、ガイズは自身げな声で言った。
「何か知恵があるのか…?」
ギルマスが期待の眼差しをガイズに向ける。
ガイズは自信満々の様子でいった。
「他のギルドから強いものを引き抜けばいいのです」
「他のギルドから…?」
「ええ。例えば、最近売り出し中の女戦士ミリアなんてどうでしょう?」
「ミリアか…確かにあの女をうちのギルドに招き入れられれば、アイリスが抜けて空いた穴を補填できるかもしれん…だが、あいつの雇い主の緋色の剣士は相当の給料をミリアに支払っているはずだ…そう簡単に引き抜けるのか?」
「もちろん、すぐには無理でしょう。ですが、我々のギルドが偉大な功績を打ち立てて、貴族の後ろ盾が出来たとなれば、どうでしょうね」
「貴族の後ろ盾…?」
「ええ。これを見てください」
ガイズがある書類をギルマスに渡した。
ギルマスは書類に目を通す。
「これは一体…?」
「貴族家アルトリアからの依頼書です」
「アルトリアからの!?」
ギルマスが大声を上げた。
貴族家アルトリアといえば、この辺りで最も有力な貴族であり、その資産や影響力は計りしれない。
噂ではこの国の王室とも繋がりがあるという。
そんな有名貴族から、なぜ『青銅の鎧』に依頼が…?
「ギルド青銅の鎧の名前は、はすでに貴族家の間でも有名になっているということです。つい先日、どうしても達成しなくてはならない依頼があるということで、我がギルドにオファーが来たのです。これを達成すれば、莫大な報酬金を獲得し、さらに貴族界とのコネクションも得られます。一石二鳥とはこのことです」
「きょ、巨額の資金…貴族とのコネクション…」
ギルマスがごくりと喉を鳴らす。
「ギルマス。アイリスが抜けたのは確かに痛手です。しかし、我々にこうしてチャンスが舞い込んできました。これを追い風に一気に成り上がるのです。なんとしてでもこの依頼を達成し、アルトリア家とのつながりを持つ。そうすれば、勝ち馬に乗りに来た強い冒険者がいくらでも我がギルドに集うことでしょう!」
「天才だ!!お前は天才だガイズ!!」
ギルマスが手放しにガイズを褒める。
「やはりお前を手元に置いておいてよかった!お前のいう通りだ!!もうアイリスなんてどうでもいい!この依頼を必ず達成して、我がギルドは一気にこの街のトップに躍り出る!」
「ええ!我らにならそれが可能です!!」
興奮するギルマスをガイズが煽てる。
それから2人は、アルトリア家から巨額の資金を得たら、ギルドホームを一等地に移転しようだとか、煌びやかな装飾品を揃えようなどといった取らぬ狸の皮算用を始めるのであった。
足元では、ギルドの崩壊がすでに始まっているとも知らずに。
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