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第十話

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勝てない。

俺は本能的にそう理解した。

唐突の遭遇に一瞬呆然としたものの、頭の中は思いの外冷静で、俺は取るべき行動を瞬時に実行した。

「逃げろっ…!ミカ…!走るんだ…!」

俺は金属バットを獣のモンスターたちに向かって構えながら叫んだ。

「走れ…!ここは俺に任せろ…!」

二人で走ったところで逃げ切れないだろう。

目の前のモンスターの走力はどう見たって俺やミカを超越している。

なら俺がここに残って囮になる。

上手くすればミカだけでも逃げられるかもしれない。

「お、お兄ちゃんは…!?」

ミカが俺の服を引っ張る。

俺はそんなミカを強引に突き飛ばした。

「いいから…!俺は後から向かう…!今は一人で逃げるんだ…っ!」

「う、うぅえええええん…!」

ミカは泣き声を上げながら逃げていった。

よし、これでいい。

「こいよ」

俺はバットを構えて、獣のモンスターに対峙する。

不思議と恐怖はなかった。

俺が犠牲になることでミカが助かるなら、それでいいと思った。

「そう簡単に俺を喰えると思うなよ、犬どもが…!うおおおおおおお!!!」

雄叫びをあげ、半ばやけくそで突っ込んでいく。

「らぁ!!」

振りかぶった金属バットを、眼前のモンスターに向けて振り下ろした。

サッ!

ガァン!!

「ぐっ!?」

バットが当たる直前、獣のモンスターは地面を蹴って移動し、目の前から消えた。

俺の攻撃は空を切り、地面に当たって鈍い音を立てる。

「なっ…!?」

俺はモンスターの瞬発力に目を見開く。

じぃいいんと地面から振動が伝わってきて、手が痺れる。

『グルルルゥウウ!!!』

『ガウガウガウガウ!』

『ガァッ!』

攻撃を完全に外した俺は、無防備だった。

これは死んだな。

そう思ったのだが、なぜかモンスターたちは俺に攻撃を加えようとはしなかった。

「ちょ…嘘だろ…!?」

まるで俺なんて見えていないかのように疾駆して、逃げたミカに迫る。

「待て…っ!!やめろおおおおお!!!」

俺は叫び声を上げて追いかけるが、瞬発力、走力、共にモンスターの方が上回っていた。

その結果、モンスターと俺の距離はどんどん離れていき、あっという間にミカに辿り着かれた。

「きゃあああああああ!?!?」

ミカの鋭い悲鳴が響き渡る。

「やめろおおおおおおおお!!!!」

俺は絶叫し、地面を蹴って走るがもはや手遅れだった。

モンスターはその前足で小さいミカを地面に押さえつけ、三匹で寄ってたかってミカを喰い荒らした。

「くそおおおおおおお!!!」

ようやく追いついた俺は、ミカに群がる獣モンスターたちに金属バットを何度も何度も打ちつける。

ドガ!

ガキ!

鈍い音が響き、何度目かの殴打で一匹の頭蓋が完全に破壊された。

『…』

致命傷を受けたモンスターは地面に倒れ、完全に沈黙する。

「おおおおおおおおっ!!!!」

一匹を倒し切った俺は、力を振り絞って次のモンスターに攻撃を加える。

なぜかはわからないが、俺がいくら攻撃してもモンスターたちはひたすらミカを貪り、俺のことはまるで認識していないかのようだった。

俺は絶叫しながら、何度も何度も、数え切れないぐらいモンスターに金属バットを振り下ろした。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

そして気がつけば、全てのモンスターを倒していた。

目の前に転がった頭蓋の潰れたモンスターの死骸。

そして、食い荒らされ、目の当てられない姿になったミカの死体。

「あ…あぁ…」

助けられなかった。

俺は無力感に、膝をつく。

カランカランと手から離れたバットが転がって音を立てた。

「ごめん…ミカ…ごめん…」

血溜まりの中に膝をつき、俺は虚な瞳で空を見上げているミカに何度も何度も懺悔するのだった。



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