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第三十四話

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「…っ」

「早くっ…西村っ…私はいいから…あんただけでも…っ」

藍沢が俺のみでの避難を促す。

だが、俺はすぐにその場から動けないでいた。

まさか藍沢が自らを犠牲にして、俺を逃す選択をするとは思わなかったからだ。

藍沢のことだから、切羽詰まればすぐに本性を表す。

そう思っていたが、実際は違った。

藍沢は死を覚悟で、俺を逃そうとした。

「…っ」

「何してるの!?西村っ!!早くっ」

藍沢が悲鳴のような声をあげる。

俺はなんだか無性に腹が立ってきた。

なんだよ。

なんだよそれ。

お前が…

お前が俺に助けを求めれば…

自分の命を優先してさえいれば俺はお前を見捨てることが出来たのに…

『ガルルルウウ!!ガウッ!!』

「西村ぁっ!!!!」

一匹のブラック・ウルフがマジかまで迫っていた。

藍沢が俺の名前を呼ぶ。

「くそがぁあああ!!!」

次の瞬間、俺は大声で感情を発露させ、思いっきり拳を抜いた。

パァン!!!

「へ…?」

乾いた音がなってブラック・ウルフが弾け飛んだ。

一瞬時が止まる。

藍沢がポカンと口を開け、ブラック・ウルフたちも俺を警戒するように動きを止めた。

「なんっ、で!!!お前は…!自分を犠牲にしようとした…!?お前のその選択のせいで、俺は…!」

「にし…むら…?」

俺は気付けば藍沢に激昂していた。

藍沢が自分を犠牲にするという善人の面を見せたことに……俺はなぜか無性に腹が立った。

俺の中で藍沢は悪人だった。

悪人でなければならなかった。

なのに…

「くそおおおお!!!」

表現しようのない苛立ちが湧き上がってくる。

「死ねぇええええ!!!」

『ギャウン!?』

『ギャン!?』

俺は八つ当たりをするように、ブラック・ウルフたちとの距離を詰め、容赦ない蹴りや拳を放っていく。

レベルアップによって強化された俺の一撃は、一瞬にしてブラック・ウルフたちを屠っていく。

「うおおおおおお!!!」

俺は血がべっとりと身体中に付着するのにも構わず、ブラック・ウルフたちを殺し続けた。

そして、一分足らずの時間で、数十匹の群れを全滅させた。
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