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第三十七話
しおりを挟む何者かが敷いた人避けの結界魔法をディスペルで解除した俺は、エレナとともに前方に感じる『魔力の気配』に向けて歩き始めた。
「何この気配…モンスター、でもないみたい…なんなのこれ…」
その異様な気配を感じ取ったエレナが困惑している。
「さて、なんだろうな…俺にもよくわからない」
感じたこともないような、異常な気配。
ただわかるのは、その気配の主が莫大な魔力を秘めていると言うことだけだ。
「気をつけろ…警戒しながら慎重に進むんだ」
「そ、そうね…」
俺とエレナは武器をかまえながらゆっくりと進んでいく。
進んでいくごとに、気配との距離がどんどん縮まっていく。
やがて…
「あっ」
エレナが小さく声を漏らした。
彼女の指差す方向に、数人の人影があった。
「あれは…」
俺は大きく目を見開いた。
なぜなら、その数人の人影というのが…全員、紫色の肌と禍々しいツノを持つ者たちだったからだ。
「嘘でしょ…なんで魔族がこんなところに…」
エレナが呆然と口にした。
魔族。
それは、体内に莫大な魔力を秘めた者たちのこと。
魔族の特徴として、紫色の皮膚と額にツノを持つというのがあるが、前方にいる者たちは、その特徴に完璧に一致する。
つまり彼らは魔族と見て間違いないだろう。
問題は、魔族がなぜこんな場所にいるのかということだ。
「魔族領から出てきたのか…?」
「おそらく、そうなんでしょうね…」
史実では、500年前、魔族は大陸の覇権をめぐって人族と争い、敗れている。
その時に結んだ条約で、魔族は決して魔族領から出てはならないというものがあったはずだが…
彼らがもし本物の魔族だとすると、その条約が破られてしまったことになる。
「見て、アルト…魔族だけじゃない…人間がいる…」
「本当だ…くそ、魔族に捕らえられたのか…」
よくみると、齢10ほどの一人の少女が、魔族に囲まれている。
ピンク色の髪を持つその美しい少女は、気を失っているのか、木にもたれかかったままぐったりとしている。
「助けなきゃ!」
エレナが飛び出して行こうとするが、俺は腕を取って止める。
「待て…変だぞ」
「何が…?」
「さっきまで感じていた『魔力の気配』が、あの少女から放たれている…」
「え…あ、本当だ…」
エレナも気づいたようだ。
俺たちがたどってきた『魔力の気配』。
それがあろうことか、魔族ではなくあの少女から放たれていたのだ。
「魔族の存在を掻き消すほどの魔力の気配って…どういうこと?あの子は魔族なの…?」
エレナが困惑し、首を傾げる。
俺も、あの少女が何者なのか、全く検討がつかなかった。
ただ、少なくともただの人間ではないことがわかる。
「魔族…ではないんだろうな。皮膚の色は普通だし、ツノもない…だが、人間からあそこまでの魔力の気配が放たれるわけもない…あいつは一体…」
俺たちが影から様子を伺う中…
不意に魔族の一人が動いた。
ズブリ。
「「…!」」
徐に、少女の胸に手を突き刺したのだ。
「う…」
目を閉じている少女が呻き声を漏らし、顔を顰める。
普通であれば、致命傷。
あそこまで胸を深く貫かれては助からないだろう。
だが、信じられないことに、魔族が少女の胸から手を引き抜いても、少女は生きていた。
嘘のように胸に空いた穴が塞がっていく。
そして、少女の胸を貫いた魔族の手には、紫色の石が握られていた。
「あれは…魔石…?」
「に見えるな」
少女の体から魔族が取り出したものは魔石に酷似していた。
魔族は互いに何ごとか会話し、魔石を地面に落とした。
そして、全員で魔石に手を翳した。
魔力の気配。
あの魔石に向かって、微量の魔力を放出しているのだ。
「一体何をしているんだ…?」
俺が魔族たちの奇妙な行動に首を傾げる中、信じられないことが起こった。
「「…!!」」
なんと、少女の体から取り出された魔石が変形し、手足が生え始めたのだ。
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