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第一章 二人はコートを翔る星となる
交差する運命
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楓花との喧嘩?から三日がたち、冬の空はどこか重たく、翔(かける)の心も同じように沈んでいた。
学校では楓花(ふうか)と会わなかった。
意図的に避けているのか、それとも偶然なのか――翔には判断できない。
だから今日も、放課後の公園に立っていた。
ラケットを持ち、いつもの場所で。
(……来るわけねぇよな。あんな言い方、しちまって)
右手が汗ばんでいる。
冬なのに、嫌な汗だけが止まらない。
胸の奥が、ずっとひりついていた。
やがて、夕暮れ。
空がオレンジから紫へ変わる頃、かすかな気配がした。
「……翔」
振り向くと、楓花が立っていた。
三日前より少しだけ痩せたように見えた。
「楓花……」
声が震えた。
何から謝るべきなのかわからない。すると楓花は、静かにベンチへ歩き、座る。
翔も隣に腰を下ろした。二人の間に、冷たい空気が流れる。
「……あの日、翔に否定されたように感じたの。私達小さい頃から一緒でニコイチみたいな感じだったじゃん?佐志野南高もソフトテニス部あるし、中学のみんなや翔と離れて部活しに行くために福岡に行くってなんか違う気がしてさ。私の気持ち。翔なら分かるかなーって。」
「違う……違うんだ。俺はただ、楓花のためを――」
「夢の話、でしょ?」
楓花がかぶせるように言った。声は強くない。ただ、悲しいほど落ち着いていた。
「英西学園に行けって言われた時……ああ、翔は私とは違うんだって言われた気がしたんだー。」
「そんなわけねぇよ!」
自分でも驚くほど大きな声だった。
「俺は……お前が俺のせいで、夢を諦める姿を見るのが怖かったんだ。そのせいで全国行けなかったら……」
「翔が側にいたからだよ。」
楓花の言葉は、冬の夕暮れより静かで、刺さるように優しかった。
翔は息を呑む。
(なんでだ……なんでこんな大事なことを、俺はわかんなかったんだよ)
胸の奥がじんわりと熱くなり、言葉にならない想いが湧き上がった。
その時――楓花がふいに立ち上がる。
「少し……散歩しない?」
「お、おう」
ふたりは公園を出て、ゆっくりと歩き始めた。
冬の風が吹き抜け、木の枝が揺れる。夕暮れの街灯が一つ、また一つと灯り始める。
交差点が近づく。車が行き交い、信号は赤。
ふと、楓花が、翔に背を向けた。
その横顔は、どこか決意しているようで――表情がどこか翔には怖かった。
「翔。私ね……」
楓花の声が震えた。あの強い楓花が、こんな声を出すなんて。
「ほんとは……英西学園に行くの、怖かったんだ。全国に行けば行くほど、翔と離れていく気がして」
「楓花……」
「でも、それって……結局は私が翔とテニスをしたかっただけなんだよね。本当は中学生になった時から一緒にソフトテニスをして欲しかったなぁ。――ちゃんと。真面目に誘えばよかったなぁ。
逃げないで、翔と向き合いたかった……」
(違う。向き合っていなかったのは俺の方だ。楓花が上手くなって俺は置いていかれる気がして。
だからこそ、俺は……)
胸の中で言葉が溢れる。けれど声にできない。言えば何かが変わってしまいそうで。
信号が青に変わった。楓花が一歩、横断歩道へ踏み出す。
「あ、楓花、俺さ――」
その時だった。まるで空気が裂けるような、エンジン音。
右側の曲がり角から、スピードを落とさずに曲がってくる車。
ヘッドライトが、楓花の背中を白く染めた。
「えっ…」
楓花が息を漏らしたのも束の間。
(そんなことが――!!)
「楓花っ!!」
翔が叫んだ瞬間、
――キィィィィイイイイイッ!!!
金属が悲鳴を上げ、タイヤが路面を削る音があたりに響きわたる。
世界がスローモーションになった。
楓花の身体が、軽く跳ねるように宙へ浮かび、ゆっくりスロープを滑るように道路へ倒れ込む。
翔は走っていた。
息ができない。心臓が痛い。ズクンズクンと鼓動が鳴り止まない。汗、汗、汗。
ただ一つの叫びだけが体中を支配する。
「楓花ああああああああああ!!」
膝をつき、震える手で楓花の肩に触れる。
「楓花……おい、楓花!楓花!楓花っ……!」
返事はない。
楓花のまぶたはわずかに震えているだけ。
街灯の白い光が、雪のように降り注いだ。
翔は必死に叫び続ける。自分の声が、空気の中でちぎれて消えていく。
その光景が――翔の世界から、二度と消えることはなかった。
これからも。
学校では楓花(ふうか)と会わなかった。
意図的に避けているのか、それとも偶然なのか――翔には判断できない。
だから今日も、放課後の公園に立っていた。
ラケットを持ち、いつもの場所で。
(……来るわけねぇよな。あんな言い方、しちまって)
右手が汗ばんでいる。
冬なのに、嫌な汗だけが止まらない。
胸の奥が、ずっとひりついていた。
やがて、夕暮れ。
空がオレンジから紫へ変わる頃、かすかな気配がした。
「……翔」
振り向くと、楓花が立っていた。
三日前より少しだけ痩せたように見えた。
「楓花……」
声が震えた。
何から謝るべきなのかわからない。すると楓花は、静かにベンチへ歩き、座る。
翔も隣に腰を下ろした。二人の間に、冷たい空気が流れる。
「……あの日、翔に否定されたように感じたの。私達小さい頃から一緒でニコイチみたいな感じだったじゃん?佐志野南高もソフトテニス部あるし、中学のみんなや翔と離れて部活しに行くために福岡に行くってなんか違う気がしてさ。私の気持ち。翔なら分かるかなーって。」
「違う……違うんだ。俺はただ、楓花のためを――」
「夢の話、でしょ?」
楓花がかぶせるように言った。声は強くない。ただ、悲しいほど落ち着いていた。
「英西学園に行けって言われた時……ああ、翔は私とは違うんだって言われた気がしたんだー。」
「そんなわけねぇよ!」
自分でも驚くほど大きな声だった。
「俺は……お前が俺のせいで、夢を諦める姿を見るのが怖かったんだ。そのせいで全国行けなかったら……」
「翔が側にいたからだよ。」
楓花の言葉は、冬の夕暮れより静かで、刺さるように優しかった。
翔は息を呑む。
(なんでだ……なんでこんな大事なことを、俺はわかんなかったんだよ)
胸の奥がじんわりと熱くなり、言葉にならない想いが湧き上がった。
その時――楓花がふいに立ち上がる。
「少し……散歩しない?」
「お、おう」
ふたりは公園を出て、ゆっくりと歩き始めた。
冬の風が吹き抜け、木の枝が揺れる。夕暮れの街灯が一つ、また一つと灯り始める。
交差点が近づく。車が行き交い、信号は赤。
ふと、楓花が、翔に背を向けた。
その横顔は、どこか決意しているようで――表情がどこか翔には怖かった。
「翔。私ね……」
楓花の声が震えた。あの強い楓花が、こんな声を出すなんて。
「ほんとは……英西学園に行くの、怖かったんだ。全国に行けば行くほど、翔と離れていく気がして」
「楓花……」
「でも、それって……結局は私が翔とテニスをしたかっただけなんだよね。本当は中学生になった時から一緒にソフトテニスをして欲しかったなぁ。――ちゃんと。真面目に誘えばよかったなぁ。
逃げないで、翔と向き合いたかった……」
(違う。向き合っていなかったのは俺の方だ。楓花が上手くなって俺は置いていかれる気がして。
だからこそ、俺は……)
胸の中で言葉が溢れる。けれど声にできない。言えば何かが変わってしまいそうで。
信号が青に変わった。楓花が一歩、横断歩道へ踏み出す。
「あ、楓花、俺さ――」
その時だった。まるで空気が裂けるような、エンジン音。
右側の曲がり角から、スピードを落とさずに曲がってくる車。
ヘッドライトが、楓花の背中を白く染めた。
「えっ…」
楓花が息を漏らしたのも束の間。
(そんなことが――!!)
「楓花っ!!」
翔が叫んだ瞬間、
――キィィィィイイイイイッ!!!
金属が悲鳴を上げ、タイヤが路面を削る音があたりに響きわたる。
世界がスローモーションになった。
楓花の身体が、軽く跳ねるように宙へ浮かび、ゆっくりスロープを滑るように道路へ倒れ込む。
翔は走っていた。
息ができない。心臓が痛い。ズクンズクンと鼓動が鳴り止まない。汗、汗、汗。
ただ一つの叫びだけが体中を支配する。
「楓花ああああああああああ!!」
膝をつき、震える手で楓花の肩に触れる。
「楓花……おい、楓花!楓花!楓花っ……!」
返事はない。
楓花のまぶたはわずかに震えているだけ。
街灯の白い光が、雪のように降り注いだ。
翔は必死に叫び続ける。自分の声が、空気の中でちぎれて消えていく。
その光景が――翔の世界から、二度と消えることはなかった。
これからも。
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