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四話
しおりを挟むバァァーン!!!
「ナーーッツ!
おはよぉぉーーーッ!!」
昨日と同じく返事をしてないが
ジーナは扉開けながら勢いよく入ってきた
朝から平和だ‥
「おはよう、ジーナ」
「今日は明け方雨だったけど、
今は晴れてるからギリギリ
光で起きたんだね!」
「‥ねぇ、ジーナ?
私はこっちの世界のナツじゃないんだし
わざわざ毎朝起こしに来なくても
大丈夫だよ?」
「鍵が開いてるんだから
来るに決まってるじゃないか」
「ちょっとよく分からない」
今日から鍵を閉めて寝ようと決めた
扉の開け方が日に日に強くなってて
いつか壊されそうだから
漫画とかドラマで
異世界に行っちゃったとか
記憶喪失になっちゃったとかあると
生活には慣れた?って
聞かれるシーンがあると思うんだけど
私の場合はこっちの世界の生活を
全て分かっているから
慣れたも慣れないもない
普通に過ごしているだけ
ただ、ジーナもいてくれて
タリアもナロンも話してくれて
普通に満たされてる
人と会話するだけで
こんなに満たされると
思ったことなかったな
こんなこと思うってことは
あっちの世界のナツは
よっぽど暗かったのだろうか
‥生きる気力が湧いてこないって
話す人、相談する人、いなかったのかな
ふぅと1つため息をついた
モヤモヤと考えていても
こっちのナツにはやることがある
今日は新入隊の訓練の様子を
見回る仕事がある私は部屋を出た
どしゃあ!
広場に着いた瞬間、派手に転けたのは
新しく入ったトキワと言う男の子だ
「いってぇ!!」
しかも明け方の雨のせいで
顔や服が土でドロドロになってしまっていた
転けた姿勢から起き上がり
座った状態になった時、
「はっ、なにしてんだよ
うるせぇしどんくせぇ野郎だなぁ!」
シオンの声が聞こえてきた
腰に手を当て顔は少し上を向いているが
目線は座っているトキワを見下している
眉間に皺が寄っていてなんだか怖い
「あぁ?」
トキワは立ちあがりもせず
下からシオンを睨んでいた
なんだか火花が散ってるように見える
「どんくさい野郎は起き上がる時に
また滑ってこけるかもしれねぇなぁ、
はっ、気をつけろよ」
「あぁー、そうかもしれねぇなぁ
なら手を貸してくれてもいいぜ」
「テメェに貸す手はねぇよ」
「じゃあ、1人で立つか
おおっとー!」
と言いながら
トキワは泥だらけの服のまま
よろけながらシオンに飛びついた
どしゃあ!
2人でもつれながら転けた場所は
水溜りだった
ぐっちゃぐちゃになったまま
てめぇー!とか言いながら
取っ組み合いを始めた
そこにユナと言う女の子とダンが止めに入り
2人は文句を言いながらも
なんとか落ち着いた
「お前らー、いい加減にしろよなぁ
もうここは訓練校じゃねぇんだぞー」
ダンがトキワとシオンに向けて言う
「そうそう、
クビにでもなったら困るのは
あんた達でしょー?」
続けてユナがプリプリしながら言う
「こいつが先に吹っかけてきたんだ」
「てめぇがうるさいのが悪いんだ」
と、またケンカが始まりそうだったので
声をかけることにした。
「あんた達、こんなところにまで
ケンカするために来たの?」
「‥わっ!?」
私が来たことに気づいてなかったらしい
トキワとシオンはびっくりした後に
うわぁ‥って感じで視線を逸らした
「とりあえず他のみんなは訓練を続けて‥
てか、教官は誰なの?」
必ず付くはずの教官がいなかった事に
気づいた私は問いかけた
「ヤーナ教官なんですが、
ちょっとお腹の調子が悪いとかで
今トイレに行っています‥」
あぁ、ヤーナはお腹弱いんだよなぁ‥
そこにナロンが通りかかったので
呼び止める
「悪いけど、ヤーナが戻るまで
この子たち見ててくれない?」
手が空いてたらしいナロンは
いいよ、と返事をし
また私の頭をポンポンっとして
7人のところへ行った
新入隊は10人いるはずが、
私の横にいる渋い顔をして立っている
シオンとトキワを
合わせても9人しかいない
そういえば、1人は
成績優秀者で上官から声がかかって
今日の訓練は出られないって言ってたな
でも成績表で見た
首席の子ではなかったんだけど
どういうことなんだろう
そんなことを考えながら、
私はトキワとシオンを
建物の入り口近くにある
シャワー室へ連れて行く
予備の着替えを用意しておくから
2人でシャワーを浴びるよう伝え
シャワー室へ放り込んだ
まさか昨日自分が見惚れてた
シオンがこんな取っ組み合いする子とは
思ってもみなかった
確かに目つきは悪いけど‥
なんて考えてたら2人とも
シャワーと着替えを済ませ出てきた
とても分かりやすい仏頂面で
私がいるのに気づくと
「お前のせいだからな」
「テメェが先に言ったんだろが」
などコソコソと話しているのが聞こえてきた
この2人はきっと訓練校の時から
ケンカする関係だったのだろう
ケンカするほど仲が良いと言う言葉があるが
この2人にも当てはまるのだろうか
周りに迷惑をかけないこと、と
注意をし2人を訓練に戻した
戻した後、私も広場に行き
訓練の様子を見守る
討伐署と呼ばれているこの建物から
広場へ出る階段に腰掛けた
低めの階段だが
ここからは広場の様子がよく見える
ヤーナも戻ってきたみたいで
手が空いたナロンは私の横に座り、
「やっぱり10位以内と言うこともあって
みんな実力はあるなぁ」
と口角を上げて話しかけてきた
「確かにみんないい腕してる
実際に盗賊を見ても同じ力が出せたら
いいんだけど」
膝に肘をつき
顎を乗せた私の口から言葉が出た
ナツの言葉だろう
「だな」
全体を通して見ているはずだけど
ふと気づくとシオンを目で追っているのに
気づいた
見てしまうんだよなぁ‥と思いながら
見つめていると
隣から視線を感じた
振り向くとナロンの綺麗な黒色の目と合う
「なに?」
「いや、なんか‥
なんかいつもと違う気がして‥」
ドキッとして
反射的に目を逸らしてしまったが
ナロンの視線はずっと感じている
「化粧でも変えたのか?」
「まぁ、少し‥」
そう言って立ち上がり
そろそろ行くね、と伝え
足早にその場を離れた
悪いことをしているわけじゃないけど
なんとなく居づらくなった
バレたらバレたで
いいのかなって思う気持ちもあるけど
もし、もしナロンが
本当にこっちのナツを好きだったら
ナツはどこ?ってなるよね
‥!?
そうだよ‥
私がここにいるってことは
こっちのナツは
今どこにいるの?
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