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三十六話
しおりを挟むジーナの部屋から出た私は
シオンとよく会う図書室に向かっていた
もしかしたら
また会えるかも、と期待があったから
図書室に着き、中を覗くと
そこには誰もいない
自然とため息をつき
図書室に背を向けて1歩踏み出した時に
前からやってくるシオンが目に入った
「あっ、こんばんは」
シオンが挨拶してくれた
しかし、目は合わない
「こんばんは
どこか行くところ?」
「あー‥図書室に‥ちょっと」
「私もいいかな?」
「‥はい」
ちょっと迷ったようだが
返事をくれた
また大胆なこと言ったなとか
思いながらもシオンと2人で図書室に入る
するとシオンは迷うことなく
ある本棚まで歩いて行った
そこは「人体について」の本の列だった
私は気になって聞いてみることにした
「何か人体について
勉強でもしてるの?」
「‥まぁ、はい」
シオンはそう言って
取った本をペラペラめくり
目のページで手を止めた
「‥目?」
そこでハッとした
もしかして私の目が他の人と違うから
調べてくれてたんじゃないかって思って
「自意識過剰だったらごめん
私の目について、調べてくれてるの?」
「‥あっ、はい、本人の目の前で
こんなページあけてすんません
ただ、どんだけ見ても
ナツさんの目について載ってなくて
とりあえず数打ちゃ当たるだろうって‥
早く全部見たいんで」
胸が熱くなる
私は無意識に聞いた
「私の目、何が他の人と違うのか
教えてほしい‥」
「え?」
シオンは驚いた顔をして振り向いた
口元の小さな絆創膏が
少し剥がれそうなのが目に入る
「ナツさん、
自分のことなのに知らないんすか?」
あまりにも素直なその言葉に
ちょっとショックを受けた
「あぁ‥うん、
目は自分では見えないから‥」
なんとかショックを受けたことを
表情には出さないでそう答えられたと思う
「まぁ、そうっすよね」
本をパタンと閉じ
体ごと私の方を向いて
目をジッと見つめてくれた
久しぶりにキチンと目が合ってることに
場違いだけど胸が高鳴る
「ナツさんの目、たまになんすけど
黒目の下3分の1ぐらいの周りだけが
キラキラしてます」
たまにキラキラしてる‥?
黒目の下3分の1の周りだけ‥?
「今は?」
よく分からないが
今もそうなのか聞いてみた
「今はなってなくて、本当にたまに‥
そして少しの間だけっす
気づいてる人が他にもいるなんて
思ってなかったので、
びっくりしましたけど」
そのままシオンは続けた
「下3分の1なのであまり見えません
たぶん目を見開くと見えるって
盗賊たちが言ってたから
俺と同じもの見えたんだって思いました」
「全然知らなかった‥」
「ちなみに両目ではありません
俺が見えたときは右目だけでした」
「そのキラキラが、会って2、3回の
盗賊にも見えたってことなのかな?」
「たぶん、ですけど‥
前から調べてるんですけど
本には今のところ載ってないし
ずっとその事考えてたんで
それにしか思えなくて‥」
「ずっと?」
「‥あっ!?
いやっ、あのっ、
なんつーか、気になったら
そればっかりになっちゃうんで!」
ブンブン顔を横に振りながら
赤くなってるのが見えた
それを見てつられたのか、
私も顔が熱くなってきた
ふぅと息を吐き落ち着いたであろうシオンが
真剣な目で見てきた
「‥北東の警備が襲われたときの
的確な指示出しや手際の良さ‥
あの時のナツさんがカッコよくて
それから憧れになりました
ゲイルさんに手当てしてる時に
初めて目のキラキラに気づいて
何だろうってずっと気になって‥」
確かにあの時、包帯と水を渡してくれた
シオンが少しびっくりしているような顔を
していたのを見た記憶が思い出された
あの時に目がキラキラしたのに
気づいたんだろう
そんなことを思い出していると
シオンは私をまっすぐ見つめながら
顔にグッと力が入ったように見えた
あまりにも真剣な瞳に吸い込まれそうになる
胸は高鳴り、目が離せない私は
ある期待が頭をよぎった
告白されるかもしれない
聞こえてしまうのではないかと思うぐらいに
うるさい心臓の音を悟られないように
唾を飲み込み、次の言葉を待った
「俺が目のキラキラの原因を
見つけますから、
不安にならないでください」
真剣な表情を崩さないまま話すシオンの
言葉は本気だと伝わってくる
「じゃあ、俺
今日はこの本借りていきます
ナツさんはまだ図書室いますか?」
「あっ、うん‥
その本の貸し出し手続きやっておくよ」
「ありがとうございます、
失礼します」
図書室の扉が閉まり、シオンは去って行った
純粋に目の心配をしててくれてたのに、
勝手にドキドキして
もしかしたら告白されるんじゃないかとか
期待した私って、一体何なんだろうと
自分のことが恥ずかしくなり
その場にしゃがみ込んだ
何故、そんなことを
思ってしまったのだろうか‥
しばらくその場から動けなかった
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