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六十三話
しおりを挟む頬に風が当たり、草の匂いがする
痛くない、怖くない
静かに開いた私の目には
雲一つない夕方の空が広がっていた
少し暗さが目立ってきているが
まだ明るさは残っている
どうやら私は横になっているようだ
首を横に向けると
平原が広がっている
反対に首を向けると、少し先で
シオンが馬を撫でていた
その表情は何かを考えているのか
少し険しいように見える
ゆっくり身体を起こし周りを見渡すと
キトとライハはいなかった
「‥シオン?」
私がかけた声に反応し、
駆け寄ってきてくれた
「大丈夫ですか?
2回も倒れたんで、心配で‥
でも動かすの怖くて‥」
「そうなんだ‥」
立ち上がろうとするが
うまく力が入らない
「あっ、無理しないでください‥」
「2回も倒れて、心配かけてごめんね」
シオンに背中を支えられ
座ったまま、私は謝った
「いえ‥、どこか痛むところありますか?」
顔を見て大丈夫と伝えようとすると
突如頭が激痛に襲われた
私は両手で頭を押さえ、丸くなり
目をギュッと瞑る
頭の中にいろいろな記憶が入って来て
それが駆け巡っている
冷や汗が出るのを感じながら
その記憶がさっきまでの
こっちのナツの記憶と
私のここにくる直前の記憶だと分かった
「‥うっ」
吐き気がして、口元を押さえる
「ナツさん!」
シオンの声が聞こえたと思ったら、
頭痛は嘘のようになくなり吐き気も消えた
私はシオンに顔を向けると
今度こそ、大丈夫だと伝え
少し微笑んで見せた
「‥何度も呼んでたんですけど
返事もなくて‥、本当に大丈夫ですか?」
心配そうに眉間に皺を寄せた表情が見える
「何度も呼んでくれてたの?」
「はい‥
聞こえなかったですか?」
シオンの声は1回しか聞こえなかった
聞こえたと思ったら、治ったのだ
そして私は
無理矢理連れ去られそうになったことも
トラックにぶつかったことも思い出した
それに今まではこっちのナツが出てても
私自身もその風景を一緒に見れていたのに、
シギの話は全く記憶に残ってなかった
でも今キトとライハと話した
シギについての話も全部頭に入ってきた
その記憶が今の私に一気に入って来て
頭痛と吐き気がしたのだろうか‥
分からないけど、
私が次にやるべきことは分かった
「‥シギのこと、調べる」
「‥そう、ですね」
私は自分のことに必死で
シオンのことを見てあげられてなかった
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