最強少女のおすそわけ

雫月

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第二章 魔法学園の日常編

第26話 エインベルの儀召喚

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「……それでね、ミオ姉とトール兄まで変装するって言い出しちゃってさ。もうめちゃくちゃだったんだよ~……」

「……みんなおもしろいね。」

「…………」

 その日の午後。教室内は生徒たちの雑談で賑わっていた。その中には自分の席で笑い話をするリケアと、笑わないがちゃんと話を聞いてくれているユグリシアと、席に座ったまま眠りかけているシエルの姿があった。

「……ちょっとシエル?ねえ聞いてる!?」

「んぁ!?なにリケア!?き、聞いてるよ!?いやーまったくその通りだね!うん。」

 風に揺れる綿毛のように頭が左右に揺れていたシエルは、リケアに起こされる声で目が覚め、椅子から落ちそうになるのをこらえた。

「絶対聞いてないじゃん。寝てたでしょ?」

「あはは……。実技で魔力使い果たしちゃってさ。まぁ眠いのなんのって。」

 笑いながら話すシエルは大きなあくびが出た。窓からは午後の陽射しが降り注ぎ、彼の眠気を再び後押しする。

「あー……俺もリッツと一緒に寝てこようかなー。」

 実技の授業を終え、昼食を済ませた生徒たちはこれから午後の学科に入るところだ。だがシエルの頭は半分夢の中に入っていて、程よいまどろみを満喫していた。

「よーし!じゃあ次の授業始めるぞー。みんな席戻れー。」

 そこへ担任のサイネスが教室に入ってきた。
 昼食後の授業というのはどうしても眠くなってしまうものだが、それを見越してサイネスは声をやや強めに発するように心がけている。
 そのおかげで、眠る寸前だったシエル他数名の生徒が夢から引き返すこととなった。

「……ねえシエル。リッツは?」

 眠い目を擦りながら教本を開くシエルの横から、ユグリシアが小声でそう話しかけてきた。

「あー、たぶん校舎の屋上かな。魔法使った後はいつもそこで寝てるんだ。」

「……見に行かなくていいの?」

「いいのいいの。「心配いらねぇからあっち行ってろ」っていつも追い返されるだけだから。しばらくすると戻ってくるよ。」

 ヒソヒソと話す二人の会話に、後ろにいるリケアも机に身を乗り出して入ってきた。

「そうそう。その時のリッツってばやたら機嫌悪いからほっといて大丈夫。むしろ近づかない方がいいかもね。」

「……そうなんだ。」

 そう呟いたユグリシアは、無表情のままスッと上を見上げる。

「ん?どうかした?」

「……少し前に、ナッキ先生が様子を見てくるわって、言ってたよ。」

「え?ナッキ姉が……?」

「こりゃ生きて帰ってこれないかも……?」

 ナッキの授業を勝手に抜け出したリッツが怒られている姿が容易に想像できる。リケアとシエルは青ざめた顔を互いに見合せた。

「で、でもほら、リッツは体調が悪いしナッキ先生もそんなに怒らない……よね?」

「そう思うんだけど、ナッキ姉はどこか抜けてるとこあるからなぁ……。」

 教本を立てその陰でコソコソと話す二人だが、授業が始まり静かになった教室でその声は教壇にいるサイネスまで丸聞こえだった。

「こら二人とも。なにおしゃべりしてんだ?授業に集中しろ。」

「は、は~い……。」

 サイネスに注意を受け身を小さくするシエルとリケア。

(……気になって集中できない……)

 再開した授業をよそに、二人は心配そうな表情で天井を見つめていた。



───────────────



「……っ痛ぅ……。くそっ、毎度ながら鬱陶しいな……。」

 一方、校舎の屋上で一人寝転がっていたリッツだったが、激しい頭痛に悩まされていた彼はそうぼやきながら半身を起こす。

(早ぇとこ何とかしねぇとな……。)

 ここ最近になって彼の頭痛は悪化する一方だった。魔法を使った日は痛みが邪魔して何もすることができず、医者に処方された痛み止めの薬も全く効果がない。

「……はぁ~。どうすっかな~……」

 空をボーッと眺めるリッツは重いため息を吐く。するとその間近から彼を心配する声が聞こえた。

「あらあら。ずいぶん痛そうね。わたしで良ければ診てあげましょうか?」

「なんだよ、心配いらねぇからあっち行ってろ……って、うおっ!?ビックリした!」

 流れで適当に返事をしていたリッツは、驚きのあまり飛び起きた。

「あらごめんなさい。驚かせちゃったみたいね?」

 声のする方を向くと、笑顔を見せるナッキがいつの間にか立っていた。てっきりリケアあたりが来たのだと思っていただけに、いつも冷静なリッツもさすがに慌てた様子だ。

「サイネス先生にいつもここにいるって聞いたのよ。リッツ君はおサボりの達人なんですって?」

「……へっ、そうかもな。それで?俺に説教でもしにきたのか?」

「いいえ違うわ。体調が良くない事について、あなたとお話したいなと思って来たのよ。」

「そうかい。悪ぃけどよ、今はそんな気分じゃねぇんだ。今度にしてくれねぇか?」

 物腰やわらかなナッキの態度にも、リッツは無愛想な返事を返すだけだった。
 まだ痛む頭を手で押さえながらこの場を去ろうとしたリッツだったが、立ち上がった際に目眩を感じ足元がふらついた。

「あらあら。魔法を使った影響から来る頭痛は良くない傾向ね。まあ、『エインベルの儀召喚』をまだ済ませてないから当然そうなるかしらね?」

「……っ!?」

 ナッキの言葉にリッツの顔色が変わる。

「……おい先生、アンタなんでそれを知ってんだ……!?」

「フフ……。お話、してくれる気になったかしら?」

「…………」

 睨み付けるリッツに対し、ナッキはにこやかな表情を崩さなかった。





「……リッツ・フォージング。ウィングロード領のファナリア王国出身で、今のご実家は【そよ風の翼亭】、で合ってたかしら?」

「…………!どうなってんだよ、こりゃ……。」

 驚きの表情を見せるリッツをよそに、ナッキは分厚い魔導書を開き見ながらリッツのプロフィールを読み上げた。

「あら、これくらいは当然よ。先生として、生徒さんの事をよく知っとかなきゃ。」

 ナッキが手にしている魔導書には、この学園の生徒全員の情報が書かれているのだという。彼女が学園に来る前に魔法書庫の資料を元に自分で製作したらしい。

「そこは大した問題じゃねぇ。なんで俺の召喚のことまで知ってんだって聞いてんだよ。」

「意外だったかしら?」

「その名前を知ってるヤツなんてほとんどいねぇハズ……」

 リッツがそう言いかけたところで、彼は授業を抜け出す前に聞こえた『天聖』という言葉を思い出した。

「……チッ、そういうことか。」

 魔法の知識の宝庫ともいわれている『天聖術士』なら古代召喚魔法の名前を知っていてもおかしくはない。
 納得とも諦めともつかない表情のリッツを見たナッキは、軽く微笑み魔導書をパタンと閉じる。すると重たそうな魔導書は手のひらサイズまで小さくなり、彼女の胸ポケットにすっぽりと収まった。

「そういうことね。少し付け加えると、神殿騎士団は魔法書庫の守護と管理が本職だから魔導書や文献も熟知しているのよ。その中にあなたたち召喚士一族の事も記録として残っていたわ。」

「…………」

 黙り込むリッツの表情が少しずつ険しくなっていく。次にナッキが何を聞こうとしているのかを察したようだ。

「確か文献によると、『エインベルの儀召喚』はわたしたちデュロエルフの覚醒と同じく秘めた能力を開花させる儀式と書いてあったわ。」

「…………」

「幼少の頃に必ずしなくてはいけない儀式を、あなたはまだできていない。何か理由があるのかしら……?」

 それはリッツにとって触れてはいけない事だった。ナッキもその事を理解した上で、あえて言葉を口にしたのだ。
 それを裏付けるようにリッツは反射的にナッキの胸ぐらを力一杯掴んでいた。

「詮索が過ぎるぜ先生。いくらリケアの身内でもそれ以上踏み込めば俺はアンタをぶちのめすぜ……!」

「あらあら。何か事情があったのね。野暮な事を聞いてごめんなさい。」

 殺気のこもった鋭い目を向けるリッツ。しかしナッキは全く動じない。いつも通りのにこやかな笑顔を返し、彼に謝意を述べた。

「……チッ……。」

 一瞬熱くなったリッツはすぐに冷静さを取り戻し、掴んでいた手を離す。
 もし彼がナッキの立場なら、今の彼女と同じ事をしていただろう。自分を助けようとしてくれる事に対してありがたいとも思ったが、それでも人には言えない理由が彼にはあった。

「……悪ぃ。でも俺は……」

 複雑な表情のまま顔を伏せるリッツに、「無理に話さなくていいのよ」とナッキは優しい言葉をかける。
 その時、強い風が吹き二人の髪を大きく揺らした。

「事情はさておき、リッツ君にひとつだけ忠告しておくわ。このまま儀式をしないでいると、あなたの命までも危ないわよ?」

「……!」

 悩みの一番深いとことを言い当てられ、リッツは愕然とした表情で拳を震わせる。それを見たナッキの表情も、決して冗談事ではないと言わんばかりに険しくなった。

「自分でも気づいてるって顔ね。体が痛むのはその前兆というのも分かってるわよね?今からでも遅くないから儀式をするべきだとわたしは思うわ。」

「…………」

「やり方を忘れたのなら、魔法書庫で調べてあげましょうか?」

「……っつ……!」

 再び黙り込むリッツを激しい頭痛が襲う。咄嗟にナッキが手を差しのべたが、彼はその手を払いのけた。

「……忘れたワケじゃねぇ。だがな、俺はこんなくだらねぇ儀式なんてするつもりはねぇんだよ!」

「リッツ君……?」

「俺がこの学園に入った理由は儀式をしなくてもこの体を治す方法を探すためだ。人の手は借りねぇ。俺が必ず見つけてやる……!」

 片手で頭を押さえつつ、リッツは怒りのこもった声で吠える。その様子からは、彼が抱える悩みの深さが伺えた。

「だからよ先生。詮索も手助けも金輪際なしだ。シエルたちにも言うんじゃねぇぞ。俺のことは放っておいてくれ。」

 リッツは重い足取りで歩き始め、ナッキとすれ違いざまに警告ともとれる言葉を残し、屋上を去っていった。

 『学園一の悪童』──。
 他の生徒の多くが彼をそう呼び、恐れられている。

「……あらあら。困ったわねー。」

 一筋縄ではいきそうにないと感じたナッキは、困り顔でため息をひとつ。
 しかしそれと同時に、リッツが去り際に見せた哀愁を感じさせる表情が、ナッキのおせっかい心を大いに揺さぶるものとなった。
 


───────────────



「あ、もしかしてあの人じゃない?」
「絶対そうだよ!ナッキ先生ー!こんにちはー!」

「はーい。こんにちは。」

「キャー!かわいいー!」

 廊下を歩くナッキは、多くの生徒たちから声をかけられていた。彼女が一人一人に笑顔で返事を返すと、女子生徒が歓喜の声をあげる。
 新しく入ってきた先生は『天聖』の称号を持っている、という噂は瞬く間に学園中に広がり、授業の合間の休み時間ですらこのような盛り上がりをみせていた。

カラ~ン、カラ~ン……

 と、ここで次の授業を報せる予鈴の鐘が鳴り響いた。

「はーい。それじゃあみんな教室に戻ってねー?」

 ナッキは手を叩き、生徒たちに移動するよう促す。彼女を一目見ようと集まった生徒たちからは残念そうな声があがるも、皆それぞれの教室へ戻りはじめた。

「……ふぅ。」

 騒がしかった廊下は一気に静かになり、ようやく一息つけたところでナッキは軽く息を吐く。
 元気溢れる生徒たちとの交流は嬉しかったのだが、今の彼女は頭を思い悩ませていた。

(さてと。これからどうしようかしら……。)

 リッツと会話した際に目診した限りでは、彼の状態はかなり危険なところまできているとナッキは判断していた。
 しかし当の本人は聞く耳を持ってくれない。何か良い手はないものかと思考を巡らせていた時、彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あ、いたいた!おーいナッキ先生ー!」

 手を振りながらこちらに走ってきたのはシエルとリケア、そしてユグリシアだった。
 先頭にいるシエルの息が上がっている。リッツの事を聞こうとナッキを探し回っていたようだ。

「あらあら。そんなに慌ててどうしたの?」

「ハァ、ハァ……。いや、リッツが教室に戻ってきたんだけどさ……」

「まあ。サボらずにちゃんと戻ったのね?偉いわ~。」

「あー、そうなんだけどそうじゃなくて……」

 次の授業があるので急ぐシエルだったが、相変わらずのんびりとした返事が返ってきた。
 会話のテンポが合わず、シエルの焦る気持ちが空回りする。

「あのね、リッツったら戻ってくるなり机に突っ伏したまま寝ちゃったんだよ。なーんかいつにも増して機嫌悪そうだったし、何かあったのかなーって。」

「う~ん。そうねぇ……。」

 見かねたリケアが代わりにサッと質問をする。ナッキの独特なテンポに合わすにはコツがあるようだ。しかしナッキからは「特に何もなかった」という返答しか返ってこなかった。

「そっかぁ。じゃあまだ体調が良くないのかもなー。」

「……そっとしてあげた方がいいと思う。」

 とりあえずリッツとナッキの間には何もなかったのを聞いたシエルは胸を撫で下ろす。ユグリシアの助言も正論なので、ひとまず様子を見ることとなった。

「……ナッキね……先生?大丈夫……?」

「え?」

 その中でリケアだけがナッキを心配そうに見つめていた。一瞬だけだが、その反応にナッキは驚いた表情を見せる。

「あ、気のせいだったらごめんね。なんか元気ないように見えたからさ。」

「……ありがとうリケア。大丈夫だから心配しないで?」

 普段通りに喋っていたつもりでも、きょうだいのリケアは些細な変化に気づいていた。
 その優しさに触れたナッキは思わず口元が緩み、リケアの頭を撫でた。

カラ~ン、カラ~ン……

 再び鐘の音が鳴り響いた。今度は授業の開始を合図する本鈴だ。

「あ、シエル。そろそろ教室戻ろう?次の授業始まっちゃうよ。」

「そうだね。それじゃナッキ先生。また後で。」

 慌ただしく走って教室へ戻るシエルたち。その姿を見送るナッキはクスッと笑みをこぼした。

「あらあら。元気がいいわね~。」

 静まり返った廊下をナッキはゆっくりと歩く。教室の中からは教師の声と時折生徒の笑い声が漏れてくる。

(……リッツ君はああ言ってたけど、リケアの大切なお友達なんだし、やっぱり見過ごせないわね。)

 リケアのおかげでナッキの心の中で決意が固まった。しかし問題はどのようにしてリッツを助けてあげればいいか。
 悩みが尽きない彼女はふと立ち止まり、廊下の窓から外を見る。
 校舎の3階からは広い校庭が一望でき、窓を開けるとそこから心地の良い風が校庭に咲く花の香りを乗せて入り、廊下を彩り豊かに包み込む。

「おぉ~懐かしいのう!昔から変わっとらんなここは!」

「シーッ!声が大きいっスよスレイブ様。今は授業中なんスよ?」

「分かっておるわガルフィド!じゃからこうして静かに昔を懐かしんでおるんじゃろうが!」

「えぇ~……?本気で言ってるんスか?それ……。」

 風が運んできたのは他にもあった。校庭から聞こえてきたのは二つの賑やかな声。

「……あら、スレイブ様?それにガルフィド……?」

 ナッキが窓から顔を覗かせると、異なる二つのギルドマスター、スレイブとガルフィドがこちらに向かって来るのが見えた。

「お!?誰かと思えばナッキではないか!そんな所で何をしとおるんじゃー!?」

「ちょっと!?静かにしてくださいっス!」

 するとナッキを見つけたスレイブが声を張り上げ手を振った。隣にいるガルフィドが耳を押さえながら注意するも、暖簾に腕押しのようだ。

「……あらあら。しょうがないわね~。」

 珍しい組み合わせな二人の来訪に、ナッキは驚きと苦笑いを見せつつ、窓から身を乗り出し校庭に向かって飛び降りた。

[浮遊魔法フアリアーゼ]

 着地の際にナッキが魔法をかけると体が浮き上がるように減速し、二人の前に音もなく降り立った。

「お久しぶりですわスレイブ様。その節はリケアが大変お世話になりました。」

「ワッハッハ!礼なぞいらんと前にも言うたじゃろう!堅苦しい挨拶はせんでよい!」

 胸に手を当て深く頭を下げるナッキに対して、スレイブは大声をあげてふんぞり返る。

「ん、んん!」

 二人の会話を遮るようにガルフィドが大きく咳払いをした。声には出さないが、「お静かに」という顔でジロリと睨まれたスレイブは観念した様子で肩をすくめる。

「ウフフ。心遣い感謝するわガルフィド。神殿の復興は順調かしら?」

「はいッス。おかげさまで順調ッスね。ナッキさんに言われた通り『リケアさんの制服姿の写真』を条件にしたらフェリネスさん馬車馬のように頑張ってるッスよ。」

「まあ、それは良かったわ~。」

 和気あいあいと話すナッキとガルフィド。その横ではスレイブが呆れた表情で会話を聞いていた。

「あの取っ付きにくいフェリネスをこうも簡単に動かせるのはお主くらいじゃな。それにしても相変わらず当主を雑に扱うのう。」

「あら。ウチはいつもこうなんですよ~?」

 にっこりと笑顔で返すナッキに、ガルフィドはうんうんと頷き同意する。

「……で?お主は授業中じゃというのに一体何をしておったんじゃ?退屈すぎてサボっておるのか~?」

「そんなワケないっスよ。スレイブ様じゃないんスから。」

「いちいちうるさいの!冗談に決まっておろう!?」

 にひひと悪戯に笑うスレイブだったが、ガルフィドの他意のない率直な言葉に対してムキになって言い返す。

「わたしはちょうど授業がない時間でしたので、校内を見回っていたところです。」

「なんじゃつまらん。相変わらずマジメじゃの。」

 おちょくりがいがないと、スレイブはあからさまに不満な態度で頬をプクッと膨らませる。
 ちょっとした事ですぐ拗ねる彼女の性格はナッキもよく知っているため、気にせず話を進めた。

「フフッ、そういうお二人こそ、学園に何かご用事ですか?」

「おぉそうじゃ。今度の創立記念日のイベントの打ち合わせでこれからベッチェルに会いにな。」

「創立記念日……。そういえば四年に一度何か特別なイベントをやっていると聞きましたが……」

「そうっスよ。それが今年開催されるんス。」

 レズィアム魔法学園の創立記念日は、毎年春の時期に学園創立を祝う祝日に定められている。
 隣接するミレイドルの街では所狭しと出店が立ち並び、街全体を挙げて聖女ガルトとレズィアム公を讃え盛大に祝うという祭りのような行事が現在も続いている。
 それに加え、四年に一度ギルド連盟が主催する学園の生徒が主役の特別なイベントが学園で行われている。
 その内容は壮大な劇が行われたり競技大会があったりと様々で、過去には一般人も参加できるものもあり、毎回多くの人々が楽しみにしているのだとか。

「せっかくワシらが選ばれたのじゃ。いつにも増して派手な催し物をしたいと思うてのう!」

「そうっス!スレイブ様と一緒に一月かけて考えたこのイベントは絶対面白くなるはずっス!」

 今回の担当は魔法ギルドと冒険者ギルド。その代表として選出されたのが、目を輝かし子供のようにはしゃぐこの二人だった。

「……なるほど。それは面白そうですね。もし良ければわたしもご一緒してよろしいですか?」

 二人が言う『派手で面白いイベント』の概要を聞いたナッキは何か思いついたらしく、嬉々とした表情で助手を願い出た。

「お?話が早いのう。もとよりお主にも協力を願おうと思っておったところじゃ。」

「あらあら。それは光栄ですわ。それでは行きましょうか。」

 イベントの合否を決めるのは学園長のベッチェルだ。まだ許可が下りていないが、話が通った気になっているガルフィドとスレイブは熱く語り合いながら意気揚々と校舎の中へ進む。

(思わぬ形で舞台が整っちゃったわね。これも聖女様のお導きかしら……?)

 楽しそうな二人の後ろ姿を見るナッキはクスッと微笑み、その後に続いた。

(後は……が揃ってくれれば……)

 創立記念日は二週間後。その日までにリッツを助ける準備を整えなければならない。
 意固地なリッツと意外に負けず嫌いなナッキの戦いが、静かに幕を開けた。


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