蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

45 獲物

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「うおぉぉぉぉ!」

 三吉は雄叫びを上げると、10匹の餓鬼を纏めて投げ飛ばす。

「……相変わらずの馬鹿力ね」

 梔子くちなしは感心しようにそう言った。

「で……あっちは」

 横目でちらりと土帝を見る。

 土帝はまさに、餓鬼達に囲まれている。そして、一斉に餓鬼達が飛び上がり襲いかかる。

「破魔矢……乱射!!」

 光に包まれた矢が、四方八方に放たれる。矢は餓鬼の体を貫いて、餓鬼は光ともに消えていく。

「……やるじゃない」

 そう言いながら、梔子も周りの餓鬼達に、蛇のハク、黒猫のコクを仕掛ける。

「……さて、私のハニーは?」

 続いて蛍は、前からやって来た餓鬼を蓑火の燃やし尽くす。しかし、餓鬼が後ろからやって来た。

「僕が分からないとでも思った?刀輪処とうりんしょ

 輪っかになった刃が複数現れたかと思うと、餓鬼達をバラバラに刻んでいく。

「素敵よ。ダーリン」

 しかし、餓鬼は倒せど倒せどやって来る。

「坊ちゃん、次から次へと鬱陶しい」
「これじゃあ、埒が明かない。街ではもっと被害がある筈だ」

 土帝の言う通りだ。何人か人間の負傷者が出ている。

「……お、おい」

 地面から翔一が這い出てくる。翔一はしょうけらという妖怪で、壁や天井、地面という場所に隠れる事が出来る。

「なんだ?又三郎はどうした?」
「いや、なんか嫌な予感がするって……そんな事より蛍!俺、さっき聞いたんだ……」

 蛍は、翔一から全ての黒幕が鬼八だと知ったのだった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 静かに近寄る気配……なずなとガラムは息を飲み、又三郎は臨戦態勢を整えた時だった。

「へ……餓鬼どもめ。さっさと殺られたか」

 反対側の扉からから男がやって来る。男は一見普通だが、醸し出すオーラは不気味でおどろおどろしい。

 又三郎は元より、なずなとガラムにもそれが鬼だと気付く。

「まあいいか……獲物は……いるみたいだな」

 鬼はこちら側にゆっくり近づく。

「シャー!!」

 又三郎は前に立ち、唸り始め鬼を威嚇する。

「……三本の尾……猫しょうか」
「……てめえの狙いはなんだ?」

 又三郎には、すぐに鬼の狙いが分かった。飛び上がって、右前腕に噛み付く。

「てめっ!」

 鬼は、右腕を振り払い、又三郎を薙ぎ払う。

 しかし、又三郎もすぐに受身を取り、体を翻して着地をする。

「この野郎……」

 噛み付いたのは瞬間であったが、それでも鬼の腕に傷つける事は出来たらしい。

 鬼の右腕からは血が滴り落ちていた、。

「さっき、三吉の野郎も見掛けたが、てめえもあいつの仲間だな?」

 (やっぱりな……となると、狙いは)

「吉永の娘さん、ここは俺にまさかせてあんた達は一旦ここを出な!」

 その言葉でなずなは立ち上がり、ガラムの腕を引っ張る。

「ガラム!行くよ!」
「わ、分かった」

 なずなはすぐにガラムの手が震えているのが分かった。それを安心させるよう優しく握り返す。

 扉を開けた瞬間だ。大きな壁にぶつかる。その壁を見上げると、なずなは恐怖で顔を青く染めた。

「よお……久しぶりじゃねえか……」

 後退り、後ろに転倒しそうになるのを何とか堪えたなずな。

「親父!!」
「新八……こんな小娘1人、なにをてこずってやがる?……うん?猫しょうか……」

 まずい……又三郎は、さすがに分が悪いと感じた。

「おいっ!小娘、大人しく着いて来い」

 鬼八が、なずなの手を掴もうとする。

「いやぁっ!」
「ぺんぺん!」

 鬼八が無理やりなずなを引っ張り、乱暴に扉を開けた。
  又三郎は直ぐに追いかけようとするも、新八が立ちはだかり妨げられる。

「……てめぇ、何でここにいやがる?」

  なずなはその顔を知っていた。さっきまで会っていた男……シュンスケだった。

「……うるせえ。そいつを離せ」
「ふんっ」

 鬼八はなずなをシュンスケの方へ投げるように、差し出した。

 なずなはよろめいて、シュンスケに抱きつく形で倒れそうになる。それをシュンスケに支えられた。

「……あっ」

 なずなはそのまま、無理やり顎を掴まれ、上を向かされる。

「……てめぇ」

 シュンスケは無表情でなずなを見下ろす。

「蛍くん……助けて」
「…………っ?!」

 なずなは小さなでそう呟いたのだった。シュンスケは、振り払うようになずなを放すと、なずなはその場に崩れるように座り込んだ。

「何もかも、忘れちまったと言うのかよ」

 シュンスケは震えた声でそう言って、その場を去る。





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