蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

56 妙な依頼

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 『次のニュースです』

 テレビの中から、キャスターが次から次へニュースを伝えていた。

 その様子を蛍は、三吉が作った肉玉のお好み焼きを頬張りながら見ている。

『俳優の鈴木一成さんが、路上で倒れているのを近所の住人が発見。住人は救急隊を呼びました。病院に搬送された鈴木さんは『蜘蛛だ。蜘蛛に襲われた』とうわ言のように言っているようです……』


「……鈴木一成?ちょっと前に聞いた事ある名だな」

三吉は蛍の何倍もの量のお好み焼きを頬張っていた。

「ああ。なんかドラマに出ていたな」

蜘蛛に襲われたというのはなんかの比喩だろうか?それとも……。

事件に関して考えているのに、どうしても夕方の事を考えてしまう。

何故、こんなにも戸惑っているのかが分からない。

唇同士がただくっついているだけ。

それがは人間にとって、とても重要なことなど、まだ蛍は知る由はない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 宿題と予習は出来た。あとは、余暇の時間だ。
久しぶりにこんな余裕が出来た。

 今は怖いものなどないと、土帝は余裕の表情だ。パソコンを開き、写真フォルダを開く。

 フォルダはいくつか種類に別れており、特別と書かれたファイルを開く。


大量に100以上に及ぶ写真。そこに映るのはただ1人……。

「なずな……」

画面の中の唇に触れる。

「宗治さん、宗治さん」

ノック音と自分を呼ぶ声は、家政婦の沙都子だ。

土帝はパソコンを閉じて、返事をしてから戸を開ける。

「はい。沙都子さん。何でしょう?」

沙都子はまだ30代で独身だが若く見え、人によっては20代前半に間違われる程だ。

少しぽっちゃりしているが、働き者でよく動いている。数人いる家政婦の中で、母千代のお気に入りである。


「……お客様なんですが」
「客?どんな……?」
「それが……」

「どうもどうも!」

いきなり、大きな声で後ろから声がしたせいか、沙都子が腰を抜かしている。

「ちょっとあなた!まだ入っていいなんて言ってないでしょ!」

すごい剣幕で沙都子が客人に捲し立てた。

「えー。俺客だよ?久しぶり、土帝君!」
「……誰だ?お前は」

土帝は、沙都子を助けながらそう言った。

「翔一だよ!田島翔一。ほら、蛍の友達の……」
「……ああ。あの時の……分かった。帰れ」
「ちょっ!そりゃあないっしょ?いい話を持ってきたんだよ!」

しかし、もはや完全に土帝は翔一を蔑んだ目で見ていた。

「ああ!もう!蛍と同じだな!上がらせて貰うぜ!おばさん、お茶くれよ」

翔一はどかどかと部屋に入って、部屋のど真ん中で胡座をかく。

「おばっ……?!」
「沙都子さん。すまない。すぐに追い出すから」

沙都子はぷりぷりと怒って、台所の方へ向かって行く。

「おい。貴様……」
「ん?なあなあ、それどころか、あんたなずなちゃんとねんごろかい?」
「何?!」

土帝は顔を赤く染めた。

「ちげえのかい?」
「それを知ってどうする?」

土帝は、翔一と顔を合わせないように机に向かって座る。

「へっ。聞くところによるとなずなちゃんは蛍とはかなりいい仲見てぇだな。俺が見ただけでも、なんと言うか夫婦みていだ。この間の事件だって……」
「黙れ!!」

土帝は、思い切り振り返り怒鳴り上げた。

「お、おい。そう怒るなよ……。お前に頼みがあるんだよ……。まあ、ちょっとした幽霊退治って所。それに蛍だって妖怪さえいなくなりゃ、人間界にいる意味無いしよ」


確かにそうだ。この間、ちらりとだけだが、三吉という鬼に聞いた。

蛍は地獄の妖怪達を牽制または討伐する為に来ていると……。ここ最近、頻発する妖怪騒動さえ鎮圧出来れば、人間界ここにいる筋合いはない。

それになずなだって、一時的に惹かれているだけだ。

「……明日、引き受けよう」
「そう来なくっちゃ」

翔一はにやりと笑ったのだった。



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