蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

61 嘘つきはねずみの始まり

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  綾詩野学園の理科室では、二人の男女がいた。

 男は学園の生物教師、会田。女は、この学園の生徒水瀬桃だ。

 「桃ちゃん」

会田は桃を親しげにそう呼んだ。色男で女に苦労しないせいか、噂が耐えない男だ。

一方、桃は高校生だと言うのに、身長が150cmにも満たなく、それによく同級生からも、幼児体型で胸も成長していない。

 からからと、ハムスターが回し車を回している。

「補習を始めるよ」

桃は小さく悲鳴をあげた。そして、恐怖した顔をハムスターだけが見ていた。


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「……ねえ!平井達も遊んでないで手伝ってよ!」

みのりは飾り用の花を作りながらそう言った。

「うるせぇ!飾り付けなんて女の仕事だろ?」

そう言って、平井とほか数名はカードゲームに勤しんでいた。

「もう!」
「まあまあ。平井君達を待っていたら、夕方までに出来ないよ」

なずなはぷんぷんと怒るみのりを宥めた。あと、三日で文化祭。準備は佳境に入っていた。

「そうよね。ところで!田中?あんたさっきから手が止まってるよ!」

同じ飾り付けを作る蛍は、なずな達を尻目にスマホを操作する。

「……付喪神つくもがみに頼み事だよ」
「蛍くん。神様にお願いしても、飾り付けは出来ないよ?」
「いや、付喪神はそういうのじゃ……」

蛍は言いかけたが、目の前に大量の花紙を渡されそれどころでは無くなった。

(……この二人、キスしたんだよね。そのわりに全然発展しないのはなんでよ?)

みのりは、前と変わらない二人の様子を見て呆れ返るしかない。

ところで蛍の妖力で、こんな飾り付けより豪華なものは出来るのだが……。

「それにしても可愛いよね。そのぬいぐるみ」
「そうなのよ。近くの雑貨屋で、御利益がありそうで買っちゃった。お地蔵さんぬいぐるみ」

ぬいぐるみと言っても、手のひらサイズだが、それをなずなが机に置いていた。

蛍は、ぬいぐるみを見て腰を抜かしそうになった。よりによって、地蔵菩薩のぬいぐるみなんてあるのか……。

蛍はそのぬいぐるみの……地蔵菩薩の正体は……。

「……羽山さん」

小さな女生徒が、大きな箱を運んでくる。

「輪っかの飾りって、これくらいでいいかな?」
「うん。ありがとう。水瀬さんのグループって、美亜達だよね?あいつら、ちゃんとやった?」

美亜というのは普段、目立つ生徒で平井達と仲が良く、授業態度もよくない。

ひねくれているのか、文化祭もつまらないと言っていた。

「え……っと」
「大丈夫。あいつらには言わないよ」

桃はちらちらと後ろを見ている。みのりがちらりと見ると、美亜とほか2人がらひそひそと話をしているのが見えた。

しかも、こちらの様子を伺っているようだ。

「まあいいや。とりあえず、これはあとで飾り付けるね」

美亜達の様子はなずなも見ていたようだ。

桃はちらりと蛍の方を見る。

「た、田中君……」
「何?」

桃が蛍に手紙のようなものを渡して、また元の席に戻って言った。

「水瀬さん、美亜達に何か言われてるみたいね。あれじゃ、可哀想よ」

花を作る手を止めてなずなが言った。

「……下らない」

蛍は手紙を読むと机の隅に置く。

「え……蛍くん。それ……」

「ん?ただの戯言が書かれているだけだ」

そう言って、蛍はなずなに微笑んだ。

すぐにチャイムが鳴る。生徒たちのほとんどは作業の手を止める。

そして、一部のものは鞄を持って出ていく。学校は終わりで、あとは自由に作業していい事になっていた。

帰って行く者は、大半が塾や家庭の事情があるものだった。

平井達はあっという間にいなくなり、美亜達もいない。

「さて……」

蛍が立ち上がる。

「え?蛍くんも用事あるの?」
「うーん。用事というか、ちょっとだけ野暮用がある。すぐに戻るよ」

なずなは、何故か蛍が楽しそうに見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




  校舎裏は静かなものだ。確かにここなら、静かに話が出来る。

 そして、その相手は桃。その後ろはさっきこそこそと教室で話していた3人だ。

話の内容の割には浮かない顔で、ずっと俯いている。
桃は、後ろの3人に急かされているようにも見えた。

 蛍は、その様子ににやりと笑った。

「あ……あの手紙に書かれてたとおり……」
「悪いけどさ」

大きなため息をつく蛍。そして、桃の言葉を遮るように言った。

「こういうのバカみたいじゃない?わざわざ、嘘つく為にここに呼んだの?」

桃はくちをぱくぱくさせながなら、俯いていた。ほかの3人も動揺するように、お互いの顔を見ている。

「……ちょっと桃は本気なんだから、そんな言い方」

桃がビックリして、そう言った子を見ている。

「なるほど、君が主犯格か」

蛍はにやりと笑う。

「なんの話し……?」
「まあいいや。どちらにしたって茶番劇に付き合う義務は無い……またね。楽しかったよ」

桃以外の3人は猿のようにきーきーわめいていたが、蛍は無視をしてその場を去るのだった。




 
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