パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

134

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予想をしていなかった事態に、脳は一瞬停止する。しかし、身体は呆けずに開いた扉を勢いよく引き戻した。

「なに閉めようとしてんだよ」

だが、一瞬早く足がドアの間に挟まれた。男が無理に乗り込んでくる。

「何しに来たの」

後ろ手で鍵を締める男から目を離さないようにして後ずさる。

「随分な言い草だな、兄に向かって。自分の家に帰ってきて何が悪い」

そう、たしかに彼は六歳年上の私の兄ーー篠崎昌平だ。だが、こんな男を私は知らない。

不機嫌そうで楽しそうな喋り方、立ち姿、父とそっくりな声、それらを全て知っている。だが、彼は私の知っている兄ではない。

「悪いでしょ。兄貴は勘当されてるんだから」

嘲るように言った。多分、笑い方はそっくりだ。共通点を見つけて嫌になる。彼はもう他人なのに。

「兄貴か……昔はお兄ちゃんって呼んでくれてたのにな」

片時も外されることのない視線は、私を警戒している。油断なんてしてくれない。兄は、私がどんな人間なのかを誰よりも知っている。






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