パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

5

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――あぁ、疲れた。

帰り道。人気の無い暗闇を車のライトで切り裂き、ため息をつく。

結局、佐々木警部に仕事を貰ったせいで、いつもと同じ時間まで帰ることができなかった。

「まったく……」

高校からの腐れ縁なせいなのか、武田といると、時々学生みたいに、はしゃいでしまうことがある。

失敗しない為には、あのヘラヘラ野郎と関わらなければいいんだろうけど、離れられないのが腐れ縁ってやつなのだ。

「はぁ」

げんなりする。あいつのことを考えると更に疲れが増した気がした。

「ただ~いま」

吐息のように挨拶を吐きだす。なんか眠たい、すぐ寝たい。

「おかえり、帰ってきたんだ」

返った声に少し驚く。慌ててそっちを見ると、瑠璃は一心に本を読んでいた。

「目、悪くするぞ」

電気をつける。薄暗かった部屋は一気に白さを増した。

「っ……」

瑠璃は腕で目を覆い、光を避けるようにソファーに顔をうずめる。

――多分まだ、光が苦手なんだろうな。

いつ帰ってきても、彼女が灯りをつけていたことは一度も無かった。

『闇が落ち着く』

その感覚は、多分今でも瑠璃の中に巣食っている。

――なんとかしてやれないかな。

そう考えてから、ゆっくりと首を振った。焦るな、時間をかけて少しずつだろ? 言い聞かせる。おれはいつも慌てすぎている。

そのまま、思考を振り払うようにして自室へ向かうが、途中で思いついてキッチンを覗いた。そこは使われた形跡が無く、ゴミ箱にはコンビニ弁当のゴミが数多く突っ込まれている。

「…………」

おれは何も言わずに自室へと向かった。
 

「瑠璃」

箸を進めながら呼びかけた。

「ん?」

返ってくるのは生返事。少女にとってはおれより野菜炒めのほうが重要なようだ。

――案外、大食漢だよなぁ。

小柄な身体に似合わず、彼女はよく食べる。既にコンビニ弁当を食べているらしいのに、俺の夕食である野菜炒めはどんどんと無くなっていった。

「なに?」

満足したのか、黒い瞳がこちらを向く。

「いや、料理を習うつもり無いかなって。今回みたいに、おれが長く家空けることもあるし、コンビニ弁当じゃバランス悪いしさ」

「いい、別に気にしないから。ごちそうさま」

彼女は、興味の欠片も見せないで立ち上がる。

「おやすみ」

自室へ向かうのは拒絶かな。せっかく久しぶりに帰ってきたんだし、もう少し気にしてくれても良いのに。おれを蔑ろにする態度に毎回、地味に心は傷ついていた。

「瑠璃、遊園地とかどっか出かけないか?」

引き止めるための悪あがき。

「行かない」

返ってきた鈴の音は、予想通りの答えを紡いだ。

 
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