23 / 158
盈月
15
しおりを挟む
『放課後、話がある。体育館裏に来てくれ』
『りょ~か~い?』
既読とともに届いた返事。一気に気分は重くなる。円満に解決させてくれよ。そう、幼馴染みに願うしかなかった。あいつに言われてやめようと思った。ここ何日かいじめをしていない。でも駄目だ、限界だ。俺は、強くなんなきゃいけねぇ。このままじゃいけねぇんだ。知ってるだろ? 分かってるだろ? だから、邪魔しないでくれよ、巴。
じめっとして冷たい壁に背中を預け、あいつを待つ。早く来て欲しいのに来て欲しくない。もやもやとしていて、苛つくような、泣き出したいようなすごく変な気分だった。
「やっほー賢太郎! 待った?」
声と共に飛び込んできたのはいつも通りの幼馴染み。
「ちょっとな。……なんだよ、このカレカノみてぇなやりとりは」
心とは裏腹に普通に話す事ができた。そして、言葉に縋る事で、やらなきゃならないことから意識を離せた。
「いいじゃん、別に。私と賢太郎の仲だし。にしても二人きりなんていつぶりだろう。 結構久しぶりだよね?」
「んー、そうだな。高校入ってからあんま話せてねぇし。男女で居ると周りがうるせぇんだもん」
薄暗さを行き交う日常という光。このままくだらない会話だけをして、帰れたら幸せだろうな。そんな思いに駆られてくる。
「そうなんだよね。まったく面倒くさい」
やれやれといった風なリアクションを取る彼女。このままで居たいなら、何もやらなきゃいいというのは分かっている。でも、俺はもういじめを止められない。だから、巴を引かせなきゃいけねぇ。
「私は本当は、賢太郎ともっと居たいんだけどね」
俺は、いつもよりどこか饒舌な巴から目を逸らした。合わせていられない。これ以上いつもの関係に浸ったら、決心がつかなくなる。だからーー。
「こんなこと話しにきたんじゃねぇってことは分かってんだろ?」
息を吸い込み、ドスの効いた声で一気に吐き出した。そうしないと言えない気がした。
「そうだね。私は出来ればこのまま続けたいけど」
巴は悲しそうな顔で呟く。どくんと心臓が跳ねた。なんとか形を保っている決意が、大きく揺らいだ。
「そりゃあ無理だな。お前が俺の邪魔しないってんなら話は別だけどよ」
崩れそうなそれを必死に補強する。きっと、崩れたらもう建て直せない。
「悪いけど、それはできない」
「なんでだよ。頼むから手を引いてくれよ」
聞きたくない拒否の言葉に蓋するように懇願を重ねた。邪魔をするなら、俺はこいつをなんとしてでも退けなきゃいけない。でも俺は、巴を傷つけたくなんてない。
「無理。私は賢太郎を止めたいから。分かってるんでしょ? いじめをしても何も変わらないって、やめなきゃいけないって」
「…………」
それは耳に痛い言葉だった。ずっと感じてはいた。いじめをしても、支配しきれない強者はいること。転校生を怯えさせたところで俺が強くなれたとは思えないこと。俺が無駄な足掻きをしていること……いじめで強くなれるなんてただの妄想だってこと。
「賢太郎が怖いのも知ってるし、トラウマが残ってるのも知ってる。生まれた時から付き合いだもん。全部そばで見てきた。全部知ってる。だから、いじめをする事であんたが安心できるならってずっと何も言わないできた。でも、こないだ感じたの、このままだと賢太郎は壊れちゃうって、狂っちゃうって。だからーー」
「うるせぇ。巴に何が分かんだよ。そりゃあ知ってるよ、いじめは悪いことだし、何が変わる訳でもねぇ。でもな、やらなきゃ怖ぇんだよ。やってる間は強さに酔えんだよ。もうやめられねぇんだ。俺はいじめに依存してなきゃ自分を保てねぇんだよ」
巴の声を遮って叫ぶ。畳み掛けるような言葉に何かが切れた。俺がどれだけ怖えぇか知らないくせに、いじめの快感を知らないくせに……。溢れる声を全てぶつけた。そして同時に、自分の気持ちを認識する。
"俺はいじめをやめられねぇ"
「だから、これで最終勧告だ。もう何もすんな。そうじゃなきゃ俺はどんな手を使ってもお前を了承させなきゃいけなくなる」
心は半分固まった。これで拒否されたら、躊躇わなくはないが、巴を殴ることはできる。こいつは俺の為に動いてくれている。分かっている。でも、分かった上で俺は覚悟を決めた。
『りょ~か~い?』
既読とともに届いた返事。一気に気分は重くなる。円満に解決させてくれよ。そう、幼馴染みに願うしかなかった。あいつに言われてやめようと思った。ここ何日かいじめをしていない。でも駄目だ、限界だ。俺は、強くなんなきゃいけねぇ。このままじゃいけねぇんだ。知ってるだろ? 分かってるだろ? だから、邪魔しないでくれよ、巴。
じめっとして冷たい壁に背中を預け、あいつを待つ。早く来て欲しいのに来て欲しくない。もやもやとしていて、苛つくような、泣き出したいようなすごく変な気分だった。
「やっほー賢太郎! 待った?」
声と共に飛び込んできたのはいつも通りの幼馴染み。
「ちょっとな。……なんだよ、このカレカノみてぇなやりとりは」
心とは裏腹に普通に話す事ができた。そして、言葉に縋る事で、やらなきゃならないことから意識を離せた。
「いいじゃん、別に。私と賢太郎の仲だし。にしても二人きりなんていつぶりだろう。 結構久しぶりだよね?」
「んー、そうだな。高校入ってからあんま話せてねぇし。男女で居ると周りがうるせぇんだもん」
薄暗さを行き交う日常という光。このままくだらない会話だけをして、帰れたら幸せだろうな。そんな思いに駆られてくる。
「そうなんだよね。まったく面倒くさい」
やれやれといった風なリアクションを取る彼女。このままで居たいなら、何もやらなきゃいいというのは分かっている。でも、俺はもういじめを止められない。だから、巴を引かせなきゃいけねぇ。
「私は本当は、賢太郎ともっと居たいんだけどね」
俺は、いつもよりどこか饒舌な巴から目を逸らした。合わせていられない。これ以上いつもの関係に浸ったら、決心がつかなくなる。だからーー。
「こんなこと話しにきたんじゃねぇってことは分かってんだろ?」
息を吸い込み、ドスの効いた声で一気に吐き出した。そうしないと言えない気がした。
「そうだね。私は出来ればこのまま続けたいけど」
巴は悲しそうな顔で呟く。どくんと心臓が跳ねた。なんとか形を保っている決意が、大きく揺らいだ。
「そりゃあ無理だな。お前が俺の邪魔しないってんなら話は別だけどよ」
崩れそうなそれを必死に補強する。きっと、崩れたらもう建て直せない。
「悪いけど、それはできない」
「なんでだよ。頼むから手を引いてくれよ」
聞きたくない拒否の言葉に蓋するように懇願を重ねた。邪魔をするなら、俺はこいつをなんとしてでも退けなきゃいけない。でも俺は、巴を傷つけたくなんてない。
「無理。私は賢太郎を止めたいから。分かってるんでしょ? いじめをしても何も変わらないって、やめなきゃいけないって」
「…………」
それは耳に痛い言葉だった。ずっと感じてはいた。いじめをしても、支配しきれない強者はいること。転校生を怯えさせたところで俺が強くなれたとは思えないこと。俺が無駄な足掻きをしていること……いじめで強くなれるなんてただの妄想だってこと。
「賢太郎が怖いのも知ってるし、トラウマが残ってるのも知ってる。生まれた時から付き合いだもん。全部そばで見てきた。全部知ってる。だから、いじめをする事であんたが安心できるならってずっと何も言わないできた。でも、こないだ感じたの、このままだと賢太郎は壊れちゃうって、狂っちゃうって。だからーー」
「うるせぇ。巴に何が分かんだよ。そりゃあ知ってるよ、いじめは悪いことだし、何が変わる訳でもねぇ。でもな、やらなきゃ怖ぇんだよ。やってる間は強さに酔えんだよ。もうやめられねぇんだ。俺はいじめに依存してなきゃ自分を保てねぇんだよ」
巴の声を遮って叫ぶ。畳み掛けるような言葉に何かが切れた。俺がどれだけ怖えぇか知らないくせに、いじめの快感を知らないくせに……。溢れる声を全てぶつけた。そして同時に、自分の気持ちを認識する。
"俺はいじめをやめられねぇ"
「だから、これで最終勧告だ。もう何もすんな。そうじゃなきゃ俺はどんな手を使ってもお前を了承させなきゃいけなくなる」
心は半分固まった。これで拒否されたら、躊躇わなくはないが、巴を殴ることはできる。こいつは俺の為に動いてくれている。分かっている。でも、分かった上で俺は覚悟を決めた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。
涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。
その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。
親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。
家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。
その手紙はアリシアを激怒させる。
書きたいものを心のままに書いた話です。
毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。
本編終了しました。
本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。
本編を補足した感じになってます。@全4話
はらぺこ令嬢は侯爵様を満たしたい
有栖
ファンタジー
エルヴィラはいつもお腹を空かせている子供だった。あまりに大食いするので心配した両親が医者に連れていくと、それは彼女が持つ魔力量のせいだとわかる。彼女は多すぎる魔力を維持するため、いつも疲れるほど食べ続けていなければならなかった。しかしひとつだけ、有り余る魔力を放出する方法があった。料理だ。彼女が作る料理には、魔力がたっぷりこめられているのである。そんな彼女の元へある日、知らせが訪れる。
※食事の描写は普通の日本のお料理になっています
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
処刑を望んだ悪役令嬢ですが、幼なじみの騎士が手放してくれません
藤原遊
恋愛
「私は処刑される運命の悪役令嬢――そう信じて、死を望んでいた。
けれど、幼なじみの騎士は『この命に代えても守る』と離してくれなくて……?」
侯爵令嬢アメリアは、幼い頃から「悪役令嬢」として囁かれてきた。
その冷たい視線と噂の中で、彼女は静かに己の役目を受け入れていた――。
けれど、すべてを遠ざけようとする彼女の前に現れたのは、まっすぐに想いを示す幼なじみの騎士。
揺らぐ心と、重ねてきた日々。
運命に逆らえないはずの未来に、ほんの少しの希望が灯る。
切なく、温かく、甘やかに紡がれる悪役令嬢物語。
最後まで見届けていただければ幸いです。
※ 攻略対象の叔母である悪役令嬢に転生したけれど、なぜか攻略対象の甥に激重に愛されてます
にて、親世代の恋愛模様を描いてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる