パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

32

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「ただいま~」

「おかえり」

家に帰ると意外な音が鳴り響いていた。

「瑠璃、洗濯してるの?」

ちらりと洗面所を覗き込む。少女は、いつもの白いトレーナーにジーンズという格好で洗濯機の前に佇んでいた。

「うん」

顔だけがこちらを向く。

「何洗ってるの?」

「制服」

……制服? 洗濯機で? それって大丈夫なのか?

「ってか、なんで?」

「汚れたから」

まぁ、そうだろうな。それ以外無いだろうな。

って、そうじゃなくて、何して汚したんだよ、そんな洗濯したくなるくらい。

尋ねようと思ったおれよりも早く、瑠璃が言葉を紡いだ。

「黒タイツも破れたから買ってきて」

口を開いた状態で硬直する。発せなかった事を問う空気でも無いし、一度口を閉じて、改めて声を出した。

「こないだも破いてなかった? というか、それ履いてる子他に見ないんだけど、履かなきゃ駄目なの?」

「……駄目、わたしの趣味」

静かな声が放たれたその時、それに絡まり音楽が鳴った。

「あ、終わった」

瑠璃は蓋を開け、制服をハンガーにかけていく。

「いや、これじゃ駄目だろ、皺になる。ほらこうやってパンパンって広げてから干さないと」

彼女の手からセーラー服を奪い、実演してみせる。少女は無言で見ていたが、やがておれを真似する様にスカートを振るってみせた。

ーーなんか、可愛いな。

親が子に感じる感慨ってこんなもんなのかもしれない。瑠璃におれが何かを教えて、彼女がそれに倣う。おれが教えて瑠璃が成長していく。なんか、微笑ましくて幸せだ。

「ニマニマと気持ち悪い」

おれの感情を切り裂く声。

「気持ち悪いって……ひどいな」

苦笑して頭を掻く。でも、容赦ない言葉にもだいぶ慣れてきたのか、笑って流せた。

 「あ、そうだ。瑠璃、一緒にタイツ買いに行かない? 散歩がてら」

提案してみる。瑠璃と行きたい場所もあるし、ちょうど良い。

「やだ。面倒くさい」

言われると思った。

"面倒くさい"

口癖の様に吐かれる言葉。なんとかしないとな。あんまり良い口癖じゃないし。まぁ、今はいいや。今はひとまずーー。

「帰りに美味いラーメン屋さん連れてってやるからさ。どうだ?」

切り札を出した。彼女は何も変わらぬ無表情。でも、なんとなく提案に揺れてる気がした。あと一歩かな。

「行かないなら、家でカップラーメンな。おれはラーメン食ってくるから」

少女の瞳がバッとこっちを向いた。そしてーー。

「ずるい」

前にも聞いた台詞を吐いて玄関の方へ歩き出す。

ーー勝った。

最近、だいぶ瑠璃の扱いが上手くなってきた。なんか嬉しい。自然と笑みが口元に浮かんだ。

「ニヤニヤと気持ち悪い」

なんか、ボソッと冷たい言葉が聞こえた気がするけど、勝った代償として聞き流しておこう。

おれは、口笛を吹きながら玄関へ向かった。

 
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