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盈月
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***
朝の教室。周りがポツポツと会話が繰り広げる中、私はせっせと言葉を紡ぐ。
「そこで先生が怒り出してさーー」
話題を見つけ、なんとかぎりぎり間を持たせる。共通点も少なく、反応も無いから、ネタ探しには毎回本当に苦労する。
だけど、目の前の少女は、そんな苦労を知ってか知らずか私の方を見てすらくれない。
ーーほんと、何やってんだろう。
ぬかに釘。豆腐にかすがい。暖簾に腕押し。
ゴールの見えない、もしかしたらゴールなんて無いかもしれない事柄に、一生懸命になる自分。そんな、らしくない自身に心底呆れる。
ーーでも、これも惚れた弱みって奴か。
感情とは裏腹に、やめたい気持ちは湧いてこない。高校生活全部使ってでも絶対に成し遂げる。そんな気持ちの方が強い。
「じゃ、私、もう席戻るね」
だけど、今日はやめる。疲れた。残りは明日。慣れはしても、無反応はやっぱり堪える。
「は~ぁ」
立ち上がり、歩き出す。彼女は読書体勢のまま微動だにしない。
ーーまったく……。
「で、私と友達になる気は起こった?」
呆れ半分に吐くいつもの台詞。
「うん」
どうせ答えは決まっている。
「そっか、じゃあまた……」
ーーえ?
「今なんて?」
驚きに、腰が折れんばかりの勢いで振り返った。今、とてつもない言葉を聞いた気がする。
「あなたと友達になることにした」
黒い瞳がこっちを向く。声は淡白。視線は平静。その物言いは何も変わらぬ彼女のそれ。
「なんで……」
だけどそれは、わたしにとって恋い焦がれた一言だった。こんなに早く手に入る筈のない遠い言葉。
ーーなんで? なんでいきなりーー。
「私に友達居ないと、弘さんが悲しい顔するから」
ーー……弘さん。あぁ、そっか。
前にも聞いた事ある名前。きっと、彼女にとって特別な人物。そして、その人の為に西山さんはわたしと友達になる。
興奮していた気持ちに冷たさが混ざった。
「なら、その辺の適当な子とでも友達になれば。それで弘さん喜ばせりゃいいじゃん。その方が楽だよ」
言わなきゃいい言葉が口から出る。友達になってくれるって言うんだから、おとなしく享受しておけばいい。黙って受け入れればいい。その筈なのに。
どんな理由でもいいから、友達になって欲しい。そう思っていたのに。
いざ、弘さんを喜ばせる道具にされると納得しない自分がいた。
「それもいいけど、あなたの方が楽だから」
意外にも、彼女は提案を拒否する。
「なんで? 結構面倒くさいよ、私」
「うん、面倒くさい。だけど楽。このクラスでは、多分あなたが一番私を理解してるから。間の取り方が上手いから。面倒くさくても不快にはならない」
「…………」
「だから、あなたにする」
「そっか……」
笑顔を浮かべて手を差し出す。
「じゃあ改めてよろしくね。……瑠璃」
軽く、ポンッとボールみたいに弾んだ声で、彼女の名前を呼んでみる。友達になったんだから、呼び捨てくらい許されるだろう。今の私は大胆だ。
「よろしく、巴」
瑠璃は、その掌をじっと見つめると、それを掴んで私の名を呼ぶ。
こっちを向く黒い瞳。そこにははっきり私の姿が映っていた。
朝の教室。周りがポツポツと会話が繰り広げる中、私はせっせと言葉を紡ぐ。
「そこで先生が怒り出してさーー」
話題を見つけ、なんとかぎりぎり間を持たせる。共通点も少なく、反応も無いから、ネタ探しには毎回本当に苦労する。
だけど、目の前の少女は、そんな苦労を知ってか知らずか私の方を見てすらくれない。
ーーほんと、何やってんだろう。
ぬかに釘。豆腐にかすがい。暖簾に腕押し。
ゴールの見えない、もしかしたらゴールなんて無いかもしれない事柄に、一生懸命になる自分。そんな、らしくない自身に心底呆れる。
ーーでも、これも惚れた弱みって奴か。
感情とは裏腹に、やめたい気持ちは湧いてこない。高校生活全部使ってでも絶対に成し遂げる。そんな気持ちの方が強い。
「じゃ、私、もう席戻るね」
だけど、今日はやめる。疲れた。残りは明日。慣れはしても、無反応はやっぱり堪える。
「は~ぁ」
立ち上がり、歩き出す。彼女は読書体勢のまま微動だにしない。
ーーまったく……。
「で、私と友達になる気は起こった?」
呆れ半分に吐くいつもの台詞。
「うん」
どうせ答えは決まっている。
「そっか、じゃあまた……」
ーーえ?
「今なんて?」
驚きに、腰が折れんばかりの勢いで振り返った。今、とてつもない言葉を聞いた気がする。
「あなたと友達になることにした」
黒い瞳がこっちを向く。声は淡白。視線は平静。その物言いは何も変わらぬ彼女のそれ。
「なんで……」
だけどそれは、わたしにとって恋い焦がれた一言だった。こんなに早く手に入る筈のない遠い言葉。
ーーなんで? なんでいきなりーー。
「私に友達居ないと、弘さんが悲しい顔するから」
ーー……弘さん。あぁ、そっか。
前にも聞いた事ある名前。きっと、彼女にとって特別な人物。そして、その人の為に西山さんはわたしと友達になる。
興奮していた気持ちに冷たさが混ざった。
「なら、その辺の適当な子とでも友達になれば。それで弘さん喜ばせりゃいいじゃん。その方が楽だよ」
言わなきゃいい言葉が口から出る。友達になってくれるって言うんだから、おとなしく享受しておけばいい。黙って受け入れればいい。その筈なのに。
どんな理由でもいいから、友達になって欲しい。そう思っていたのに。
いざ、弘さんを喜ばせる道具にされると納得しない自分がいた。
「それもいいけど、あなたの方が楽だから」
意外にも、彼女は提案を拒否する。
「なんで? 結構面倒くさいよ、私」
「うん、面倒くさい。だけど楽。このクラスでは、多分あなたが一番私を理解してるから。間の取り方が上手いから。面倒くさくても不快にはならない」
「…………」
「だから、あなたにする」
「そっか……」
笑顔を浮かべて手を差し出す。
「じゃあ改めてよろしくね。……瑠璃」
軽く、ポンッとボールみたいに弾んだ声で、彼女の名前を呼んでみる。友達になったんだから、呼び捨てくらい許されるだろう。今の私は大胆だ。
「よろしく、巴」
瑠璃は、その掌をじっと見つめると、それを掴んで私の名を呼ぶ。
こっちを向く黒い瞳。そこにははっきり私の姿が映っていた。
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