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盈月
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しおりを挟む「ほら、瑠璃行くよ!」
昼休みになり、私は彼女の腕を引いて屋上への階段を駆け上がった。
「…………」
瑠璃は黙ってついてくる。
見えてくる屋上への扉。それをくぐり、二人で光の中へと飛び込んだ。
「ほら、急がないと。焦げる」
ひりひりとした直射日光。目を閉じた少女を急かし、勢いよくパラソルの下へ駆け込む。
「はぁ、疲れた」
「急ぎすぎ」
ボソッとした声。
「だって、日焼けしたくないんだもん」
私はそれに、笑顔で返した。
彼女と友達になってはや幾日。瑠璃は、予想以上に友好的だった。
きちんと会話が成り立つし、時には彼女からも声をかけてくれる。屋上の鍵も返してくれて、こうして昼休みごとに連れ出す私に、文句も言わずに着いてきてくれる。そして、ちゃんと私を見てくれる。
そんな中で、彼女との時間は私にとって安らぎになっていった。
瑠璃の隣は居心地がいい。彼女に対しては素直で居られるから。偽っても見透かされる。嘘はつけない。つかなくていい。だから、本当の自分で居られる。
それに、優越感もあった。私は、こんな気難しい子に認められたんだ。友達なんだ。すごいだろ。そんな、優越感。
「ねぇ瑠璃」
「なに?」
「んーん、なんでもない」
「…………」
瑠璃が小説から目を離して、恨みがましくこっちを見てくる。それを私は素知らぬ顔で受け流す。こんな何気ないやり取りも出来るようになった。
私達、友達になれたんだ。
しみじみ感じる。
「あのさ、瑠璃」
「静かにして。人が来た」
「えっ?」
今度こそ何か話そうとした時、静かな声に制された。静寂に響く風音。そこに人の気配は混ざっていない。
「ねぇ、気のせいじゃーー」
足音が聞こえた。
ーー本当に居た。
慌てて口を押さえる。こんな所に居るのが見つかったら、合鍵の事がばれてしまう。そうしたら、二人きりのひと時が奪われ、場合によっては前に瑠璃が言っていた軽犯罪法だかに引っかかる。そしたらーー。
ガチャガチャガチャ
扉が揺れる。息を殺した。心臓がうるさい。その音すら消したい。
「なんだ、ちゃんと鍵かかってるじゃないか。まったく、声がするとかありえないよな」
遠ざかる足音。きちんと鍵を閉めておいたことに救われた。
「はぁ」
完全に気配が立ち去って、私は盛大に息を吐き出す。
「緊張した~」
まだ鼓動はうるさい。それでもさっき程は不快ではない。
「緊張しすぎ」
隣の声はいつもと同じ。傍らの少女には焦った気配が微塵も見当たらない。
「だって、見つかったら犯罪もんかもよ」
「別に気にしない。それに、巴なら上手い言い訳くらい考えてるでしょ?」
「んー、まぁね。でも心配じゃん、それが通用するかとか」
ま、通す自信はあるけど。
「大丈夫でしょ、巴なら。それに、もし無理でもわたしがやるから心配ない」
こっちを向く目、感情を映さない瞳。それは何故だか心強い。
「なら、安心しとくね」
視線を外して空を仰ぐ。風が私の頬を撫でる。なんだか気持ちは晴れやかだ。
ーー……ところで、瑠璃が説得ってどうやるんだろ?
不意に浮かんだ疑問。考えつくのは怖い想像。
暴力で脅す瑠璃。言葉で脅す瑠璃。だんまりで貫き通す瑠璃……。
心強いのは気のせいだったかもしれない。
ーー見つかった時は自分でなんとかしよう。
心の内で決意した。
「巴、チャイムが鳴ってる。帰ろ」
声がして、隣の少女が立ち上がる。私の耳には何も聞こえない。でも、腕時計は大体そんな時間を指している。
「あ、待ってよ」
私の事なんてお構いなしに立ち去る姿。彼女は既に、扉のそばまで行ってしまっている。
「待ってって言ってるでしょ」
叫んで、その背中に勢いよく飛びついた。
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