26 / 56
葛藤
しおりを挟む
「手筈は整ったぜ。今日、実行する。成功すりゃニュースで観られるぜ。楽しみにしてろや」
男の、楽しくてたまらない、という卑下た笑い声が武の耳に電話を通して聞こえる。不気味な薄笑いを顔に貼り付けているであろう男の姿が脳裏に浮かんだ。
武は慎重に小声で言う。
「足は着かないんだろうな、田崎」
「心配ねーよ。うちで金借りまくって火だるまになってるヤローだ。取り立てから逃れる為に死にもの狂いで思い切りやってくれんだろ」
ククククと笑う田崎に武が吐き捨てるように言った。
「そういうヤツは文字通り火だるまにでもなればいい」
おお怖っ、とわざとらしい言葉を放つ田崎が続ける。
「相変わらず血も涙もねーな。世間サマでいう真っ当なお偉いさんの方が俺達みてーな裏の人間のよりよっぽど怖ぇ」
見透かしたような田崎の言葉だった。不快感を表すように、武はフンと鼻を鳴らす。
田崎は人間の欲から生まれる潜在的な弱さに巣食う天才だ。うかうかしていると、利用しているつもりが足元を掬われかねない。
油断のならない男だと思うと同時に、武は自分がもう決して後戻りの出来ない、喰うか食われるかの魑魅魍魎とした獣道にハマっている事を再認識した。
通話を終え受話器を置いた武は椅子から立ち上がり社長室の窓から見えるビル街を見渡した。
眼下には、豆粒のような車や人。一瞬でも気を緩めればまっ逆さまだ。
険しい表情のまま暫く窓の外に拡がる景色を眺めていた武が執務再開の為にデスクの椅子に戻った時だった。
机上の電話が受信を知らせる音を鳴らした。
また田崎か? と訝りながら取ると、津田商事専務取締役である御幸右京の社用車備え付け電話だった。
秘書が御幸を代わる旨を伝えた。
何だ?
「ああ、すまない」
武は御幸が電話に出ると慇懃な物言いで対応する。
「御幸専務、いかがなされましたか」
神経を研ぎ澄ます武の声には警戒する心情が滲む。
「唐突に申し訳ない。今どうしても君に告げておきたい事があったのものでね」
御幸の言葉に何も思い当たる事が無く、武は怪訝な表情を浮かべ黙って耳を傾けた。
「中丸姫花は、生きていると、君に伝えたかったのだ」
電撃に貫かれたようなショックだった。
何故今、彼女の話を。それより何より、彼女が、生きていただと?
武は、声も出なかった。ドクドクと脈打つ心臓から送り出される激流と化した血液が全身を駆け巡る。
俺が、殺した筈の姫花が。
電話の向こうにいる御幸には、武の動揺が伝わっているかは分からなかった。ただ黙する武の感情を置き去りにし、御幸は声も口調も変わる事のない感情の読めないトーンで静かに続けた。
「生きている、とは言っても、彼女の命の灯火はもう間もなく消え入りそうなのでね。君に彼女の本当の気持ちを、彼女に変わって伝えておこうと思ったのだ」
姫花の、本当の気持ちだと?
「御幸専務は、なんの話をされてらっしゃるのか。私には皆目見当がつきませんね」
カラカラに渇いた喉から掠れた声を絞り出し、シラを切るのが精一杯だった武に御幸はフッと笑った。
「君からの返答は期待していない。ただ君の耳に入れておきたい事を、これから私が一方的に話すだけだ。私の、欺瞞、もしくは自己満足かもしれないがね」
武は疑念を膨らませながら、黙り込む。御幸は、言葉通り一方的に話しを続けた。
「彼女、芸妓・姫扇が最期の最期まで愛した男は津田武、ただ一人。そう、彼女は最期の恋を、君に捧げた。君は何を勘違いしていたのか知らないが、彼女が愛していたのは私ではないのだよ」
だから、彼女は瀕死の身体でお腹の赤ん坊を守り通した。愛する男の子供だから。それが例え、自分を命を奪おうとした男であっても!
最後に御幸は言う。
「彼女は、君もよく知るだろう場所にいる。恵三叔父が巨額の出資をした、あのホスピス・幸陽園だ」
黙っていた武が、静かに口を開いた。
「専務、もう、遅い。遅いんですよ、全て」
もう、後戻りなど出来ない。
武は苦悶の表情を浮かべ、目を閉じた。
窓ガラスに雫が当たり始めた。曇天からポツリポツリと落ちた雨粒が大きく強くなり始めていた。
秘書課の部屋の奥にある社長室の扉が勢い良く開き、パソコンに向かう数人の女性秘書が驚き振り向いた。
「社長、どちらへ!?」
コートに袖を通しながら出て行こうとしていた武に担当秘書が立ち上がり声を掛けた。
「私用で出掛ける! この後のスケジュールは副社長に代行してもらえ! 私にしか出来ないものは明日以降だ!」
「社長!」
秘書が止めるのも聞かず、武は立ち去った。
†††
バスルームから出てきたみちるは、バスタオルを籠から取り出し身体を拭く。白い身体が洗面所の大きな鏡に映っていた。
豊かな膨らみをみせる胸元にポツンと赤いアザのような印が見える。みちるは目を逸らし髪を拭き始めた。
これは、メイクで隠さなきゃ。
バスタオルを洗濯機に放り込み、簡単な部屋着を身につけ、洗面室のドアを開けた。リビングはシンと静まり返っている。星児は出掛けたようだった。
みちるは寝室の方へ行くと音を立てないようそっとドアを開けた。ベッドには、先ほどと変わらず布団を頭から被った保の姿があった。みちるは静かにドアを閉めた。
明らかに、いつもと様子が違う。
保の優しい「おはよう」の声が聞けない。目は覚ましている筈なのに。
保さん、どうしたんだろ。
寂しさと不安に襲われうつ向いていたみちるだったが、喉の疼痛を堪え、顔を上げた。
そうだ、ブランチ、美味しいもの作って保さんに声掛けてみよう、うん、それがいい!
みちるは小さくガッツポーズを作り、キッチンに入って行った。
みちるが起きた直後、自分を見て心配そうにしていた気配も、今ドアを開け、中を伺っていた気配も、保には痛いほど伝わっていた。
ごめん、みちる。今は、ダメなんだ。
保は布団の中で、両手で顔を覆った。
『みちるの父親は、群司武だ』
こんな事実を、星児はいつから背負っていたのだろう。これほどの重い真実を、星児は墓場まで持って行こうとしていた。
保は、生前の麗子に言われた言葉を思い出す。
『だからアナタは星児を越えられないのよ』
はは、と布団の中で乾いた笑いを漏らした。
そんな事、分かっているつもりだった。しかし昨夜、保はどう足掻いても詰める事など出来ない星児と自分との歴然とした〝差〟を思い知らされた。
『星児は、その真実を知ってどう思ったんだよ』
『どうも思わねーよ』
『どうも思わねぇ? あの、憎んでも憎みきれないあの男、群司武の血がみちるの中に流れてんだぞ』
保が震えるような声を絞り出してそう言っても、星児の涼しい目元が動く事は無かった。
みちるは悪くない。そんな事は頭では分かってる。
保の頭をもたげるのは、全てを奪われ、背負わなくても良い運命を科されたあの日の記憶だ。
みちるはその元凶の男の血を引いている。
みちるを見たらおぞましいあの記憶が甦ってしまうかもしれない。
運命の神は、やはり悪魔なのだ!
保が布団の中で頭を抱えた時だった。
「保さん」
柔らかな、優しい声と、そっと背中に触れた手の感触に、保はビクッと震えた。
「あ、ごめんなさい、寝てた、かな? あの、ね」
何かを言い掛けたみちるの、背中に触れていた優しい手を、振り向いた保はやや乱暴に払ってしまった。
驚きと困惑と、微かな怯えの色が挿したみちるの顔がそこにあった。保の胸にズキンと痛みが走る。
やはり、彼女はたまらなく愛しいのに。
「ごめん、今は、放っておいてくれ」
保は再び背中を向けた。
「はい、ごめんね。私、もう少ししたら出掛けるね」
小さな声で言ったみちるが、保からゆっくりと離れながら遠慮がちに続けた。
「保さん、お腹、空いてるでしょ? 保さんの大好きなポーチドエッグ、今日は上手に出来たの。私が出掛けたら、食べてね」
パタン、とドアが閉まる音がした。
『保、あの男に、人生狂わされたのは俺達だけじゃねーよ?』
昨夜、茫然自失になった保に星児は言った。
『この事実を知って受けるショックは、俺達よりもみちるの方がデカイんじゃね? 今の時点でみちるは津田武の事は知らない。けど、自分の父親がどんな男か、っていう真実はみちるにはあまりにも酷だろ。俺は、この真実はみちるは知る必要はねーと思ってる。でもよ、もしも仮に、アイツが知っちまったとしてもその時に、アイツが生まれてきた、生きているだけでいいんだ、っていう〝信心〟みてーなもん、アイツの中に刻み込んでやりたくないか?』
保は胸に張り裂けるような強烈な痛みを覚えた。
『保がどう思おうと俺は知ったこっちゃねーよ。たださ、お前がそんなに動揺しちまったっつぅ事の方が、俺はショックだな。お前のみちるに対する感情って、そんな程度のモンだったってワケか』
吐き捨てるように言い放った星児の目には、蔑みの色が滲んで見えた。星児の瞳は暗に、〝そんなヤツにはみちるに触れる資格はない〟と言っているようだった。
違う、俺は!
保は、ガバッと起き上がった。
俺は!
『みちるが誰の血を引いてようと関係なくねーか? あんな男、みちるの父親なんかじゃねぇよ。みちるはマジで』
あのペンダントと同じ、天使みたいだ。
みちるの笑顔が脳裏に映る。決して消えない、愛らしく柔らかで愛しい笑顔。一生守ってやりたいと思う笑顔。
どんなに抱き締めたって足りない。
これ程の愛が、あんな男のせいで消えるのか。
消える筈がない!
保はベッドから立ち上がった。
男の、楽しくてたまらない、という卑下た笑い声が武の耳に電話を通して聞こえる。不気味な薄笑いを顔に貼り付けているであろう男の姿が脳裏に浮かんだ。
武は慎重に小声で言う。
「足は着かないんだろうな、田崎」
「心配ねーよ。うちで金借りまくって火だるまになってるヤローだ。取り立てから逃れる為に死にもの狂いで思い切りやってくれんだろ」
ククククと笑う田崎に武が吐き捨てるように言った。
「そういうヤツは文字通り火だるまにでもなればいい」
おお怖っ、とわざとらしい言葉を放つ田崎が続ける。
「相変わらず血も涙もねーな。世間サマでいう真っ当なお偉いさんの方が俺達みてーな裏の人間のよりよっぽど怖ぇ」
見透かしたような田崎の言葉だった。不快感を表すように、武はフンと鼻を鳴らす。
田崎は人間の欲から生まれる潜在的な弱さに巣食う天才だ。うかうかしていると、利用しているつもりが足元を掬われかねない。
油断のならない男だと思うと同時に、武は自分がもう決して後戻りの出来ない、喰うか食われるかの魑魅魍魎とした獣道にハマっている事を再認識した。
通話を終え受話器を置いた武は椅子から立ち上がり社長室の窓から見えるビル街を見渡した。
眼下には、豆粒のような車や人。一瞬でも気を緩めればまっ逆さまだ。
険しい表情のまま暫く窓の外に拡がる景色を眺めていた武が執務再開の為にデスクの椅子に戻った時だった。
机上の電話が受信を知らせる音を鳴らした。
また田崎か? と訝りながら取ると、津田商事専務取締役である御幸右京の社用車備え付け電話だった。
秘書が御幸を代わる旨を伝えた。
何だ?
「ああ、すまない」
武は御幸が電話に出ると慇懃な物言いで対応する。
「御幸専務、いかがなされましたか」
神経を研ぎ澄ます武の声には警戒する心情が滲む。
「唐突に申し訳ない。今どうしても君に告げておきたい事があったのものでね」
御幸の言葉に何も思い当たる事が無く、武は怪訝な表情を浮かべ黙って耳を傾けた。
「中丸姫花は、生きていると、君に伝えたかったのだ」
電撃に貫かれたようなショックだった。
何故今、彼女の話を。それより何より、彼女が、生きていただと?
武は、声も出なかった。ドクドクと脈打つ心臓から送り出される激流と化した血液が全身を駆け巡る。
俺が、殺した筈の姫花が。
電話の向こうにいる御幸には、武の動揺が伝わっているかは分からなかった。ただ黙する武の感情を置き去りにし、御幸は声も口調も変わる事のない感情の読めないトーンで静かに続けた。
「生きている、とは言っても、彼女の命の灯火はもう間もなく消え入りそうなのでね。君に彼女の本当の気持ちを、彼女に変わって伝えておこうと思ったのだ」
姫花の、本当の気持ちだと?
「御幸専務は、なんの話をされてらっしゃるのか。私には皆目見当がつきませんね」
カラカラに渇いた喉から掠れた声を絞り出し、シラを切るのが精一杯だった武に御幸はフッと笑った。
「君からの返答は期待していない。ただ君の耳に入れておきたい事を、これから私が一方的に話すだけだ。私の、欺瞞、もしくは自己満足かもしれないがね」
武は疑念を膨らませながら、黙り込む。御幸は、言葉通り一方的に話しを続けた。
「彼女、芸妓・姫扇が最期の最期まで愛した男は津田武、ただ一人。そう、彼女は最期の恋を、君に捧げた。君は何を勘違いしていたのか知らないが、彼女が愛していたのは私ではないのだよ」
だから、彼女は瀕死の身体でお腹の赤ん坊を守り通した。愛する男の子供だから。それが例え、自分を命を奪おうとした男であっても!
最後に御幸は言う。
「彼女は、君もよく知るだろう場所にいる。恵三叔父が巨額の出資をした、あのホスピス・幸陽園だ」
黙っていた武が、静かに口を開いた。
「専務、もう、遅い。遅いんですよ、全て」
もう、後戻りなど出来ない。
武は苦悶の表情を浮かべ、目を閉じた。
窓ガラスに雫が当たり始めた。曇天からポツリポツリと落ちた雨粒が大きく強くなり始めていた。
秘書課の部屋の奥にある社長室の扉が勢い良く開き、パソコンに向かう数人の女性秘書が驚き振り向いた。
「社長、どちらへ!?」
コートに袖を通しながら出て行こうとしていた武に担当秘書が立ち上がり声を掛けた。
「私用で出掛ける! この後のスケジュールは副社長に代行してもらえ! 私にしか出来ないものは明日以降だ!」
「社長!」
秘書が止めるのも聞かず、武は立ち去った。
†††
バスルームから出てきたみちるは、バスタオルを籠から取り出し身体を拭く。白い身体が洗面所の大きな鏡に映っていた。
豊かな膨らみをみせる胸元にポツンと赤いアザのような印が見える。みちるは目を逸らし髪を拭き始めた。
これは、メイクで隠さなきゃ。
バスタオルを洗濯機に放り込み、簡単な部屋着を身につけ、洗面室のドアを開けた。リビングはシンと静まり返っている。星児は出掛けたようだった。
みちるは寝室の方へ行くと音を立てないようそっとドアを開けた。ベッドには、先ほどと変わらず布団を頭から被った保の姿があった。みちるは静かにドアを閉めた。
明らかに、いつもと様子が違う。
保の優しい「おはよう」の声が聞けない。目は覚ましている筈なのに。
保さん、どうしたんだろ。
寂しさと不安に襲われうつ向いていたみちるだったが、喉の疼痛を堪え、顔を上げた。
そうだ、ブランチ、美味しいもの作って保さんに声掛けてみよう、うん、それがいい!
みちるは小さくガッツポーズを作り、キッチンに入って行った。
みちるが起きた直後、自分を見て心配そうにしていた気配も、今ドアを開け、中を伺っていた気配も、保には痛いほど伝わっていた。
ごめん、みちる。今は、ダメなんだ。
保は布団の中で、両手で顔を覆った。
『みちるの父親は、群司武だ』
こんな事実を、星児はいつから背負っていたのだろう。これほどの重い真実を、星児は墓場まで持って行こうとしていた。
保は、生前の麗子に言われた言葉を思い出す。
『だからアナタは星児を越えられないのよ』
はは、と布団の中で乾いた笑いを漏らした。
そんな事、分かっているつもりだった。しかし昨夜、保はどう足掻いても詰める事など出来ない星児と自分との歴然とした〝差〟を思い知らされた。
『星児は、その真実を知ってどう思ったんだよ』
『どうも思わねーよ』
『どうも思わねぇ? あの、憎んでも憎みきれないあの男、群司武の血がみちるの中に流れてんだぞ』
保が震えるような声を絞り出してそう言っても、星児の涼しい目元が動く事は無かった。
みちるは悪くない。そんな事は頭では分かってる。
保の頭をもたげるのは、全てを奪われ、背負わなくても良い運命を科されたあの日の記憶だ。
みちるはその元凶の男の血を引いている。
みちるを見たらおぞましいあの記憶が甦ってしまうかもしれない。
運命の神は、やはり悪魔なのだ!
保が布団の中で頭を抱えた時だった。
「保さん」
柔らかな、優しい声と、そっと背中に触れた手の感触に、保はビクッと震えた。
「あ、ごめんなさい、寝てた、かな? あの、ね」
何かを言い掛けたみちるの、背中に触れていた優しい手を、振り向いた保はやや乱暴に払ってしまった。
驚きと困惑と、微かな怯えの色が挿したみちるの顔がそこにあった。保の胸にズキンと痛みが走る。
やはり、彼女はたまらなく愛しいのに。
「ごめん、今は、放っておいてくれ」
保は再び背中を向けた。
「はい、ごめんね。私、もう少ししたら出掛けるね」
小さな声で言ったみちるが、保からゆっくりと離れながら遠慮がちに続けた。
「保さん、お腹、空いてるでしょ? 保さんの大好きなポーチドエッグ、今日は上手に出来たの。私が出掛けたら、食べてね」
パタン、とドアが閉まる音がした。
『保、あの男に、人生狂わされたのは俺達だけじゃねーよ?』
昨夜、茫然自失になった保に星児は言った。
『この事実を知って受けるショックは、俺達よりもみちるの方がデカイんじゃね? 今の時点でみちるは津田武の事は知らない。けど、自分の父親がどんな男か、っていう真実はみちるにはあまりにも酷だろ。俺は、この真実はみちるは知る必要はねーと思ってる。でもよ、もしも仮に、アイツが知っちまったとしてもその時に、アイツが生まれてきた、生きているだけでいいんだ、っていう〝信心〟みてーなもん、アイツの中に刻み込んでやりたくないか?』
保は胸に張り裂けるような強烈な痛みを覚えた。
『保がどう思おうと俺は知ったこっちゃねーよ。たださ、お前がそんなに動揺しちまったっつぅ事の方が、俺はショックだな。お前のみちるに対する感情って、そんな程度のモンだったってワケか』
吐き捨てるように言い放った星児の目には、蔑みの色が滲んで見えた。星児の瞳は暗に、〝そんなヤツにはみちるに触れる資格はない〟と言っているようだった。
違う、俺は!
保は、ガバッと起き上がった。
俺は!
『みちるが誰の血を引いてようと関係なくねーか? あんな男、みちるの父親なんかじゃねぇよ。みちるはマジで』
あのペンダントと同じ、天使みたいだ。
みちるの笑顔が脳裏に映る。決して消えない、愛らしく柔らかで愛しい笑顔。一生守ってやりたいと思う笑顔。
どんなに抱き締めたって足りない。
これ程の愛が、あんな男のせいで消えるのか。
消える筈がない!
保はベッドから立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる