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ジレンマ
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「宮部さーん、このゴミ、おねがーい」
「うん」
「掃除、もう終わりにしちゃうから、それ捨てて教室戻ってきたらそのまま帰っていいよ。あ、ごめん、私らは先帰っちゃうけど、いい?」
「うん、いいよ。バイバイ」
お掃除当番の同じグループの子達は、あたしの前にゴミ箱を置き、ヒラヒラと手を振ると帰って行った。ふう、とため息をつき、あたしはよいしょとゴミ箱を持って廊下に出た。
窓から差す夕焼けのオレンジ色は廊下を暖かい色に染めていた。
茉奈ちゃんに見つかったらまた怒られそう……。
『ひよりはどうしてはっきりとモノが言えないの!? イヤな時はイヤだってちゃんと言わなきゃ!』
言えないんだもん。ムリなんだもん。
「重いよー……」
ブリキ仕立ての大きなゴミ箱は、ちょっと重い。本当は、1人で持つのはキツイんだけどな。ちょっと泣きそうになっていた時だった。
「ひよりちゃんはいつもこんな役回り?」
頭上から、聞き覚えのある声が降ってきた。顔を上げると。
「えっと、高橋……先輩?」
「あ、名前覚えてくれてたんだ、嬉しいな」
そう言いながら先輩は、あたしの手から重いこのゴミ箱を取り、軽々と片手で持った。
「あ、すみませんっ」
あたしが慌てて言うと先輩は「いいよ」と先輩は、あの日と同じ、明るくて人懐こそうな笑顔を見せてくれた。
日焼けした顔に白い歯を見た時、あたしの胸がトクンと鳴った。ほんの少しだけ、遼ちゃんとイメージが重なった。
ユニフォーム、着てるからかな。
「練習、ですよね? いいんですか?」
申し訳なくなっちゃって、遠慮がちに聞いてみる。
「大丈夫だよ。もうシーズン終わってるからスローなんだ」
「そう、なんですか?」
遼ちゃんはいつでも全力だったよね。どうしても、遼ちゃんを重ねちゃう。遼ちゃんとは違う、なんて思っちゃう。
「ひよりちゃん、考えてくれた?」
「え?」
「付き合って、っていう話」
「……えっ!?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「言ったよね、俺、マジだからって」
えっと……えっと……。
あたしが困っていると、顔の前に影ができた。先輩が屈んだ。
ここは、渡り廊下の先。あんまり人が来ないところ。
「ひよりちゃん、マジかわいい……」
先輩の顔が、ゆっくりと近付いて――。
「ひより――――!」
向こうから茉奈ちゃんの呼ぶ声がして、パタパタと走ってくる足音が一緒に聞こえた。
「コレ、ゴミ捨て場に捨ててきてあげるから待ってて」
何事もなかったかのようにあたしからスッと離れた先輩は、ゴミ箱持って走って行った。
「ひより、探したよー! 何してんの、こんなとこで」
「あの、えっと」
説明しようとオロオロした時。
「ひよりちゃん、はい。良かった、友達来たね。じゃあ俺は練習行くから」
先輩はあたしの頭を優しく撫でて、またね、と笑って走りさった。
「ひより、高橋先輩と知り合いなの?」
茉奈ちゃんが先輩の後ろ姿を見ながらあたしに聞いた。
「ううん。知り合い、とかではなくて、なんか、あたし、からかわれてるかも?」
「え?」
「付き合って……とか……」
今あった事、も、よく分かんないーー。
「ええ!? すごいじゃん!!」
あたしの戸惑いもよそに、茉奈ちゃんが凄い勢いでまくし立てる。
「だって! 野球部の新キャプテンだよっ! エースだよっ! ほらっ! 体育祭の時に平田センセとゴール前で競い合った先輩だよ! めっちゃカッコイイじゃん!」
茉奈ちゃんは興奮気味。でもね、あたしの頭に浮かぶのは遼ちゃんだけなんだもん。
「ひよりは好きな人とかいるの?」
ドキッ!
「あ、あのね……」
言いかけて、茉奈ちゃんが遼ちゃんを好き、という事を思い出してしまい、言葉を呑み込んだ。
――言えないです。
「いない、よ」
「そっかぁ、じゃあ真剣に考えてみなよー」
この事は胸にわだかまりとしてずーっと残っていく。
あたしは、遼ちゃんが好き。遼ちゃんだけが好き。なのに、言えなくなっちゃったよ。
遼ちゃん、今、すごく会いたいよ。
「うん」
「掃除、もう終わりにしちゃうから、それ捨てて教室戻ってきたらそのまま帰っていいよ。あ、ごめん、私らは先帰っちゃうけど、いい?」
「うん、いいよ。バイバイ」
お掃除当番の同じグループの子達は、あたしの前にゴミ箱を置き、ヒラヒラと手を振ると帰って行った。ふう、とため息をつき、あたしはよいしょとゴミ箱を持って廊下に出た。
窓から差す夕焼けのオレンジ色は廊下を暖かい色に染めていた。
茉奈ちゃんに見つかったらまた怒られそう……。
『ひよりはどうしてはっきりとモノが言えないの!? イヤな時はイヤだってちゃんと言わなきゃ!』
言えないんだもん。ムリなんだもん。
「重いよー……」
ブリキ仕立ての大きなゴミ箱は、ちょっと重い。本当は、1人で持つのはキツイんだけどな。ちょっと泣きそうになっていた時だった。
「ひよりちゃんはいつもこんな役回り?」
頭上から、聞き覚えのある声が降ってきた。顔を上げると。
「えっと、高橋……先輩?」
「あ、名前覚えてくれてたんだ、嬉しいな」
そう言いながら先輩は、あたしの手から重いこのゴミ箱を取り、軽々と片手で持った。
「あ、すみませんっ」
あたしが慌てて言うと先輩は「いいよ」と先輩は、あの日と同じ、明るくて人懐こそうな笑顔を見せてくれた。
日焼けした顔に白い歯を見た時、あたしの胸がトクンと鳴った。ほんの少しだけ、遼ちゃんとイメージが重なった。
ユニフォーム、着てるからかな。
「練習、ですよね? いいんですか?」
申し訳なくなっちゃって、遠慮がちに聞いてみる。
「大丈夫だよ。もうシーズン終わってるからスローなんだ」
「そう、なんですか?」
遼ちゃんはいつでも全力だったよね。どうしても、遼ちゃんを重ねちゃう。遼ちゃんとは違う、なんて思っちゃう。
「ひよりちゃん、考えてくれた?」
「え?」
「付き合って、っていう話」
「……えっ!?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「言ったよね、俺、マジだからって」
えっと……えっと……。
あたしが困っていると、顔の前に影ができた。先輩が屈んだ。
ここは、渡り廊下の先。あんまり人が来ないところ。
「ひよりちゃん、マジかわいい……」
先輩の顔が、ゆっくりと近付いて――。
「ひより――――!」
向こうから茉奈ちゃんの呼ぶ声がして、パタパタと走ってくる足音が一緒に聞こえた。
「コレ、ゴミ捨て場に捨ててきてあげるから待ってて」
何事もなかったかのようにあたしからスッと離れた先輩は、ゴミ箱持って走って行った。
「ひより、探したよー! 何してんの、こんなとこで」
「あの、えっと」
説明しようとオロオロした時。
「ひよりちゃん、はい。良かった、友達来たね。じゃあ俺は練習行くから」
先輩はあたしの頭を優しく撫でて、またね、と笑って走りさった。
「ひより、高橋先輩と知り合いなの?」
茉奈ちゃんが先輩の後ろ姿を見ながらあたしに聞いた。
「ううん。知り合い、とかではなくて、なんか、あたし、からかわれてるかも?」
「え?」
「付き合って……とか……」
今あった事、も、よく分かんないーー。
「ええ!? すごいじゃん!!」
あたしの戸惑いもよそに、茉奈ちゃんが凄い勢いでまくし立てる。
「だって! 野球部の新キャプテンだよっ! エースだよっ! ほらっ! 体育祭の時に平田センセとゴール前で競い合った先輩だよ! めっちゃカッコイイじゃん!」
茉奈ちゃんは興奮気味。でもね、あたしの頭に浮かぶのは遼ちゃんだけなんだもん。
「ひよりは好きな人とかいるの?」
ドキッ!
「あ、あのね……」
言いかけて、茉奈ちゃんが遼ちゃんを好き、という事を思い出してしまい、言葉を呑み込んだ。
――言えないです。
「いない、よ」
「そっかぁ、じゃあ真剣に考えてみなよー」
この事は胸にわだかまりとしてずーっと残っていく。
あたしは、遼ちゃんが好き。遼ちゃんだけが好き。なのに、言えなくなっちゃったよ。
遼ちゃん、今、すごく会いたいよ。
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