ねぇ、大好きっていって

深智

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クリスマスの夜に1

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 目を閉じててもなんとなく、ひよの悪戦苦闘が見えた。不器用だから尚更かな、何時だって何事にも一生懸命で、そこが凄く愛しいんだけどね。

「出来たぁ! 遼ちゃん! 目、開けて!」

 左手首に、ミサンガ……かな? 細くて、少しかわい目の色だ。上目遣いのひよが、恥ずかしそうに言った。

「これなら普段は腕時計に隠れる……でしょ?」

 ああ、わざと目立たないように。控え目さ加減がまたひよりらしくてますます堪らず抱きしめた。

「あのね、あのね。あたし何をあげたらいいかわかんなくて。一生懸命考えたんだよ。それで……」

 なんだか、腕の中で必死に話すひよが可愛くて可愛くて。

「ああ、ひよが一生懸命考えてくれたの、分かるよ」

 胸がいっぱいで、それぐらいしか言えなくて、頬ずりした。滑らかで柔らかな感触が、心を掴む。

 俺は、ひよがいてくれたらそれだけでいいんだよ。

 くすぐたそうにしているひよの顔を覗き込んだ。首を傾げて俺を見てる。その顔を見て、少し聞きたくなった。

「それにしても、かわいい色だな」

 俺の質問にひよは、眉を下げてチャームポイントとも言える困った顔をして俺を見上げていた。その顔から、だいたいの想像はついた。恐らく、当初の予定とは違う色になったんじゃないか?

「あ、あのね……」

 なんか言い訳しようとしてるぞ。吹き出しそうになるのを必死に堪える。

 ぶきっちょなのに、一生懸命作ったんだろうなぁ。その姿を思い浮かべるだけで胸が熱くなる。

「えっとね」

 いいんだよ、ひよ。ひよの気持ちだけで、嬉しいんだ。

 何かしゃべろうとしていたひよの唇を、塞いだ。重ねた唇から舌を入れ、口内をゆっくりと舐める。

「……ンん……」

 鼻から抜けるひよの声。沢山絡め合った舌をそのまま、唇からそっと離してみるとひよが名残惜しむように吸ってきた。どこかくすぐったい感じがする。ひよが、キスうまくなってて。

 もう一度抱きしめて、頬に手を添えてキスをする。そのまま手を髪の中へ滑らせて優しく梳くと、ひよがくすぐったそうに震えた。

 ひよを、離したくないな。

 ヤバいな。どうしたらいい。

 こんな風に触れ合うのは、卒業までお預けになる。

「ひよ」
「ん……」
「たくさん……〝なかよし〟しようか」

 ひよりがコクンと頷いた時だった。

Plululululu……

「電話……」
「うん、ママかな」

 ひよが膝の上で少し困惑顔。

「仕方ないよ、今夜はこうして過ごせる予定じゃなかったんだし。ほら、早く出ないとひまりさん心配する」

 そう言って俺はひよを膝から降ろした。ひよがサイドボードの上にあった電話を取る。

「パパ!?」

 ケンさん!?

 俺は目を丸くしてひよを見た。ひよも俺に目で何か言っている。どうしようどうしよう、といったところか。

 壁掛け時計を見ると、会は目下、宴たけなわ、といったところだろう、という時間だ。なに家に電話なんてしてきてんだよ、おじさん。電話は相手から見えないのに、ひよ、顔の前で小さく手を振り、あわあわしてる。

「え、ママ? あ、あのね、今いないの」

 ひまりさんのこと聞いてる? これはヤバイかも知れない。

「ママはね、えっと。おばさんに、忙しいから来てって呼ばれて手伝いに行って」

 ひよ、それ以上は言うな! と声を出さずに言ってみたけどひよはテンパって見ていない。

「今? ううん、大丈夫だよ、一人じゃなくて」

 あ、ちょっ待っ……!

「遼ちゃんが来てくれてるから――」

 俺が慌てて立ち上がるのと、ひよが耳から離した電話からケンさんの悲鳴とも雄叫びとも取れる絶叫が聞こえたのはほぼ同時。

「なにいぃいぃいいい―――――っ!?」って言っていたんだと思うが。

「あ、大丈夫だって、パパ。だって、遼ちゃんだよ? やだ、パパ、どうしてそんなこと言うの?」

 ひよが、俺をかばって一生懸命何か言っくれてるけど、無駄だろう。ああ、なんだって宴席の途中で電話なんてしてくんだよ!

 盛り上がる席を中座してまで電話してくる家族想いのケンさんを恨めしく思いながら、手で顔を覆って天井仰いだ時。

「遼ちゃん、パパが遼ちゃんに変われって……」

 ああ、やっぱ、その展開。すまなさそうに受話器を差し出すひよの頭をそっと撫でて、受け取ったそれを耳に当てた。

「お電話、変わりましたが」
「白々しい言い方すんじゃねぇ!」

 もう、ヤクザかなんかかよ、って突っ込みたくなるが、ここは抑えて深呼吸。ケンさんの次の言葉を待つ。

「お前、俺をハメたな!?」

 そう来たか。

「ハメたのは、うちのおケイさん。あの人には俺だってハメられたんだよ」
「しらばっくれるな!」

 ダメだ、完全に頭にキてる。何を言っても――、

「あ、ケンー! こんなとこにいたのね!」
「タバコなんて吸わないくせにこんなとこに来てるの?」
「まったく! 相変わらずこんな時も家に電話なんてしてるのね! 今夜はかわいい奥さんのことなんて忘れなさい!」

 電話の向こうから、数人の女性の声が。分かった分かった、とケンさんが軽くいなしてる。同級生の女性陣に取り囲まれた模様。その中の一人がとんでもないことを言った。

「今夜はね、おケイからケンを帰さなくていいからってお許しが出てるの~」
「は!?」

 耳を疑ったんだろうな、というケンさんの声はきゃははははっという笑い声にかき消された。聞こえた笑い声にキャピキャピ感はなく〝キャハハ〟というより、〝ギャハハ〟に近い。

 けど、同窓会というのはきっと時間をその当時に戻してくれるんだろうな。今ケンさんの周りにいる彼女達の気持ちは確実に女子高生。それと同時にケンさんの高校時代が存分にしのばれる。

 にしてもオカン、なんてことを。ここまで来るとおじさんに対して同情を禁じ得ない。

「あの頃ケンのこと好きだった子、どれだけいたと思う? なのに、あーんなかわいい奥さんもらっちゃって! 今夜は徹底的に呑むわよぉ!」
「ほら、電話なんて切って!」
「お前ら、ちょっと待て!」

 母さんの同級生だ。かなりの猛者達なんだろうな。バタバタしている物音がして、

「遼太! ひよに指一本でも触れてみろ! ただじゃおか」

 断末魔のようなケンさんの最後の言葉は途中で切れた。……ご愁傷さま。俺は、ツーツーという音が聞こえる受話器を元に戻した。

 昔から、母さんは完璧主義だ。やるとなったら徹底的。俺は手で顔を覆った。やり過ぎだよ。おじさんと俺の関係、これ以上こじらせてどうすんだ。

「遼ちゃん……」

 俺のシャツの裾をキュと掴むひよの不安そうな顔。その顔が、また堪らなくてスッと顎の下に指を掛けた。

「大丈夫だよ、おじさんも楽しくやってるみたいだし」

 楽しく……あながち間違ってもいないよな。思わず苦笑いしてしまった俺に、ひよは小首を傾げて何か言おうとした。

「遼ちゃ……」

 唇を、塞ぐ。なんだか、色んな意味で予想外のクリスマスになってしまった。そっと唇を外すと、ひよが「もっとキスして」のおねだり。俺はクスリと笑う。

「ひよ」
「きゃっ」

 抱き上げて、ソファーに一緒に倒れ込んだ。ひよが俺を見上げて言う。

「遼ちゃんたくさん〝なかよし〟してください」

 もちろん。もう一度キスを。

 おじさん、ごめん。指一本も触れない、のは無理。でも、守るとこは、守るからさ。

 俺、リアルに卒業までひよには指一本触れられなくなるから。今だけ。

「ひよ」

 抱き上げて、膝に乗せて、両手で頬を挟む。潤むような目が、まっすぐに俺を見てる。

「遼ちゃん、大好き」

 俺も。額をくっ付けて――、

「MerryXmas!」

 ひよが、くすぐったそうに肩をすくめて笑った。

「うん、MerryXmas、遼ちゃん」

 思いっきり鳴かせてやるから、かわいい声、聞かせて。
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