溺れる月【完結】

友秋

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5じわりと濡れる

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「んんっ、ん」

 目を閉じて唇を引き結ぶ美夕を見、貴臣が笑った。

「我慢しないで声を出せばいい」
「が、我慢なんてしてな……っあ、あ、やっ」

 美夕の躰がブルッと震えた。

「貴臣兄さん、もう入れちゃって!
お願い! んんっ、ん」

 足を大きく拡げた体勢のまま美夕は背中を弓なりに反らせた。

 白い乳房が大きく揺れる。

 楊が入れたバイブを元に戻す為に濡らす、という名目で貴臣は美夕の蜜を呼ぶ。

「ん、くっぅ」

 美夕は堪らずシーツを噛みしめた。貴臣はフッと笑う。

「強情だな」

 美夕は頭を振った。

 口を開けば嬌声となる。

 嫌なのに。

 嫌なのに、エクスタシーに達する躰がいやだった。

「んあぁっ」

 貴臣は、人差し指と中指を膣の中に入れたまま、親指でマメを捏ね、美夕は堪らずシーツを口から離してしまった。

「いや、あっ、あっ」

 感じ始めるともう止まらない。

 手を伸ばし、貴臣の腕を掴んだが、払われる。

 貴臣は空いた手で乳房をも弄り始めた。

 乳房を揉む腕を掴み、美夕は怒りの声を上げる。

「貴臣兄さん! 入れて終わりにする気ないの!? 元に戻すなんて嘘なの!? いやよっ、やめ……、あああっん」

 貴臣は、仰向けの美夕の上に被さるようになって見下ろし、笑みを見せた。

 涼し気で妖艶な、ドキリとするほど美しい顔は、見つめ合う者に何も言わせない力を持つ。

 美夕は、真っすぐに見据えられてゴクリと固唾を呑んで固まってしまった。

「ああ、ちゃんと元に戻してやる。ただ、明日から学会で出張になるからもう一回だけヤッておこうと思ったんだよ」
「お兄さ……っ、ああっ」

 抗う隙もなかった。

 美夕は腰を抱かれたと思った次の瞬間、そのまま貫かれて仰け反った。

「あっ、あっ、や、あんっ、」

 奥を何度も突き上げられて、美夕の躰が揺れた。

「美夕」

 貴臣が、美夕の手を握り、躰を抱き寄せた。

 口元が、何か言っていたように動いたが、美夕には分からなかった。

 貴臣は、見つめていた美夕の顔に近づけたが、そのままスッと脇に逸れ、首筋にキスをした。

 吐息が掛かり、美夕は首を竦めた。

 繋がったまま、暫しそのまま抱きしめられた。

 極まれに、束の間、甘い香りを予感させる空気を、貴臣は美夕の中に残した。

 それが、美夕を困惑させていた。

 美夕を逃げられなくさせる一因となっているのかもしれなかった。

 わたしは、このままこの家から逃げたらいけない気がする。

 母の残した謎も、分からないままではきっと後悔すると思うから。




 美夕の背中に貴臣の広く硬い胸板がピタリと密着していた。

 背後から手を回す貴臣は、美夕の目の前で、5センチ強のいびつな楕円形にコードが付いたバイブをいじってみせた。

 一見いびつな楕円形に見えたバイブだが、よく見るとスクリューの羽根のような丸い突起が付いている。

「パッと見、元からこんな形と思わせる作りになっているだろ。でもこの突起はコードを引いて取り出した瞬間飛び出る仕組みになっている。俺も最初は気付かなかった。だから昼間はそのまま美夕のナカに戻したんだ」

 ああだから……、と美夕は思い出す。

 だから、一度出した事を楊が気付いたのだ。楊の言動に合点がいった。

「しかも、手抜かりがない事に、仕組みに気付いても、突起を元に戻す方法が分かりにくい作りになっている」

 美夕が困った顔をしてバイブを見つめていると、貴臣はベッドサイドのテーブルから針金のクリップを取り出した。

「ここをよく見てみろ」

 貴臣はコードの付いた部分を美夕に見せた。

 美夕は「あ」と声を上げた。

 よく見ないとコードが出ている脇に気付けないくらいに小さな穴があった。

 貴臣は指先を使って器用にクリップを伸ばし、先端をその穴に押し入れた。

 次の瞬間、カチという音がして、羽がパタッと折りたたまれ、バイブは綺麗な楕円形となった。

「ご丁寧にタイマー機能も付いてるな。
とんでもない時に震え出しただろう」

 美夕は恥ずかしい体験を思い出して俯いた。貴臣は苦笑いした。

「タイマーの解除方法もだいたい分かったが、そこまでやるのはマズイだろう。
それだけは我慢しろ」

 美夕は羞恥に身体を染めながら、頷くしかなかった。

「それにしてもこんなもの……ヤバい連中とも付き合いのある滉が見つけて来たんだろうな」

 バイブを手の中にギュッと握りしめた貴臣は吐き捨てるように呟いた。

「美夕、力を抜け。入れるぞ」

 足を大きく広げた間に、貴臣がバイブを入れる。

「んぅ、んっ」

 奥に到達したのを感じ、唇を噛みしめた美夕に貴臣がククッと笑った。

「もう必要以上に濡らす必要ないんだけどな」

 美夕の全身がかぁっと熱くなった。

「そんな言い方しないで!」

 首を振った美夕の身体が、ギュッと抱きしめられた。

 いつから。

 乱暴に抱かれる日を重ねて来たが、いつからか、こんな抱き方をするようになった。

 美夕の胸が苦しくなる。

 何も言えずにいる美夕の耳元で、貴臣が静かに聞いた。

「滉も楊も今夜はいないんだろう」

 美夕は静かに頷いた。

「滉君も、楊君も、今夜は彼女さんの家に泊まる日だったから」

 美夕の身体を抱く腕に、微かに力が籠った。

「美夕は朝までここにいればいい」

 美夕は、どう答えていいか分からない。

 戸惑う美夕の首筋に、甘い吐息が掛かった。

 フルッと震えた美夕に貴臣は静かに言う。

「もうバイブは出さないから、ヤらないよ」

 だから、傍にいろ。

 美夕の身体を抱いたまま、貴臣は横になった。

 乳房を揉む手が、優しい。

 じわりと濡れる感覚に、鼓動が少しだけ逸り、美夕はそっと息を吐いて目を閉じた。

 暫くして貴臣の静かな寝息が聞こえてきた。

 背中に当たる胸が、穏やかな隆起を繰り返していた。



 自分は、監禁されているわけではない。

 逃げようと思えばいつだって逃げられる。

 でも、逃げない。

 この家に巣食う憎悪の渦を知らなければ、自分は救われない気がするから。

 そして、母が何故ここに来たのか。

 知らなければいけないのだと思うから。



 
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