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11猫
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家までは目と鼻の先という距離まで来ていたが、滉は煙草がない事を思い出してハンドルを右に切った。
県道沿いのコンビニの駐車場に入ると端のスペースに車を停めた。
煙草を買い求めて外に出て来た滉は、スマホを見、メッセージが入っていた事に気付いた。
『今夜は帰らないから、滉、よろしく』
滉は小さく肩を竦めた。
「なにを〝よろしく〟なんだかな」
何だかんだ言って、楊は女とまともな付き合い方をしている。
確実に、真っ当な人生から逸脱し始めている自分とは大違いだ。
ため息を吐いた滉はスマホをジーンズのポケットにしまった。
車のところまで戻ると、乗り込む前に煙草を一本取り出し咥えた。
ライターで火を点けて煙を吐き出した時だった。
滉の視線が、一点で止まる。
バス停に停まったバスから乗客が二人だけ降りた。一人が、あまりにもよく知る女だった。
「美夕?」
滉は煙草を咥えて見つめる。
大きな荷物を持って降りてきた美夕だったが、最初に降りた老婆に礼を言われながら手にしていた荷物を返していた。
老婆は何度も振り向きながら頭を下げ、住宅街へと消えて行った。
老婆の姿が見えなくなるまで見送った美夕は、家のない逆方角、山へと歩き出した。
アイツ、いつもここから歩いて帰って来ていたのか。
滉は車に寄りかかり、腕を組んで考える。
自宅に一番近い最寄りのバス停はここだが、あまり賢いやり方とは思えない。
この辺りは治安が悪いのだ。
特に、ここから屋敷までの道のりは、山の中に続く道を10分ほど歩かなければいけない。
いくら父の所有する山とはいえ、樹々が鬱蒼と茂る森の中だ。安心などできない。
三浦に話してバス停まで迎えを寄越してもらうようにするか。
滉は身を起こして空を見上げる。
今日はまだ暗くなる前に帰れるだろうから、俺が声を掛ける事もないだろう。
咥え煙草で車のドアを開けようとした滉の動きが止まった。
「美夕、どこに行くつもりだ?」
美夕の歩く方角が、反れた。
見るからに物騒な、見通しの効かない公園の中へと向かっている。
目を凝らしていた滉は、ああ、と唸った。
美夕の先を、明らかに素行の悪そうな二人の男子高校生が歩いている。うち一人が、小さな子猫を手にしていた。
抱く、のではなく、掴むように。時折振り回している。
男子高校生が公園に入って行った後に美夕も続いて入って行った。
まさか、美夕のヤツ。
「ったく! アイツ馬鹿じゃねーの!」
煙草を地面に叩き付けて足で揉み消した滉は、ガードレールを飛び越え、道路向こうの公園に向かって走り出した。
恐怖で心臓が今にも破裂しそうだった。けれど、これから何が起こるのか想像できた時、放ってなどいられなかった。
案の定、美夕の目の前で、見るからに粗暴な高校生たちはどこかから見つけてきたのであろう小さな子猫を地面に叩きつけた。
笑いながら。
ぞっとする光景に、足が竦み、逃げ出したかったが、美夕は勇気を振り絞って声を上げた。
「やめてっ! そんなことしないで! その子、離してあげて!」
放ってはおけなかった。
子猫が、自分と重なった。
弱くて抵抗できない子を寄ってたかって――!
助けなきゃ!
その気持ちが、恐怖に克ってしまったのだ。
美夕の声に驚いた高校生たちは振り向き、顔を見合わせた。
「なんだ、おねえさん。この猫の代わりに俺たちと遊んでくれんの?」
子猫の細い足を掴んで持っていた高校生がニヤッと笑い、美夕に品定めするような視線を送った。
「可愛いおねえさんだから、俺らと遊んでくれるなら、この猫解放してやるぜ」
だらしない笑いを浮かべながら彼らは子猫をまるで物のようにぶらぶらと揺らしながら美夕に見せた。
美夕はゴクリを固唾を呑み込み、頷いた。
子猫を解放してもらうには、今はそう答えるしか方法はなかった。
子猫を逃がして、自分は隙を見て逃げればいい!
「わかったから! だから子猫を逃がして! あっ、落としちゃダメ! そっと置いて!」
「はーい」
ふざけた声で返事をした高校生は、美夕の目の前で猫を放り投げた。
なんてこと!
猫の元へ走ろうとした美夕の腕が掴まれた。
「俺らと遊んでくれるんだろー?」
薄笑いを浮かべた男たちは、もはや高校生などではない。獣そのものだった。
美夕は草むらに引きずり込まれ、押し倒された。
「いや……んぐっ」
叫ぼうとした美夕の口に、男の一人が外したネクタイが詰め込まれた。
「いくら人が来ねー場所っつったって、声出されちゃあ困るもんなァ」
美夕は涙を流して首を振り、身を捩ったが、強い力で押さえつけられ、抵抗などできなかった。
二人の男は笑いながら美夕の服を引き裂いた。
「んん――っ!」
叫ぼうにも声が出ない。
どうしてこんなことに。
子猫は?
美夕は、自分自身がとてつもないピンチに陥っていながらも、自分が助けたかった子猫の身を案じていたが。
「んんっ、んうっ」
男の手が、露わにされてしまった美夕の乳房を乱暴に鷲掴みにした。
「うわ、この女、童顔のくせにすげえおっぱいでけぇ! つーか、乳首立ってる!」
「ということは、こっちはどうだ?」
男たちの笑い声が美夕を恐怖のどん底に突き落とす。
懸命に力を込めて閉じていた足はいとも簡単に全開にされ、美夕は首を振った。
「濡れてるぜー」
「うわ、マジか」
男の手がショーツの脇から乱暴に侵入し、ビクンと躰を震わせた美夕は腰を浮かせた。
指が容赦なく美夕のナカを掻き回す。
指が動くたびに溢れ出る粘液が卑猥な音を立てた。
「んうんっ、んん―――っ」
浮かせた腰が、跳ねる。
「喜んでんじゃねーの?」
男たちのギャハハと笑う声に、美夕は千切れそうなくらいに首を振った。
出せない声で必死に叫び、無駄と分かっていても全身を捩じらせて抵抗を試みた時だった。
美夕の半身が解放された。
「なっ!?」
男が振り返る。
美夕の涙で曇る視界に、あまりにもよく知る男が長い脚を振り上げて立っていた。
正確には、振り上げたのではなく、振り下ろしたところだった。
美夕を襲う男の一人に、かかと落としをお見舞いしたのだ。
一人の男が頭を抱えて悶絶する。
「な、なんだテメェ!」
美夕のもう半身も解放された。
掛かっていこうとした男は、あっけなく滉に倒される。
滉は倒れた二人を見下ろし、睨み付けた。
金色に近い髪に、片耳ピアスの男は、金狼のようだった。
滉は低い声で静かに言った。
「殺されたくなかったら、消えろ」
県道沿いのコンビニの駐車場に入ると端のスペースに車を停めた。
煙草を買い求めて外に出て来た滉は、スマホを見、メッセージが入っていた事に気付いた。
『今夜は帰らないから、滉、よろしく』
滉は小さく肩を竦めた。
「なにを〝よろしく〟なんだかな」
何だかんだ言って、楊は女とまともな付き合い方をしている。
確実に、真っ当な人生から逸脱し始めている自分とは大違いだ。
ため息を吐いた滉はスマホをジーンズのポケットにしまった。
車のところまで戻ると、乗り込む前に煙草を一本取り出し咥えた。
ライターで火を点けて煙を吐き出した時だった。
滉の視線が、一点で止まる。
バス停に停まったバスから乗客が二人だけ降りた。一人が、あまりにもよく知る女だった。
「美夕?」
滉は煙草を咥えて見つめる。
大きな荷物を持って降りてきた美夕だったが、最初に降りた老婆に礼を言われながら手にしていた荷物を返していた。
老婆は何度も振り向きながら頭を下げ、住宅街へと消えて行った。
老婆の姿が見えなくなるまで見送った美夕は、家のない逆方角、山へと歩き出した。
アイツ、いつもここから歩いて帰って来ていたのか。
滉は車に寄りかかり、腕を組んで考える。
自宅に一番近い最寄りのバス停はここだが、あまり賢いやり方とは思えない。
この辺りは治安が悪いのだ。
特に、ここから屋敷までの道のりは、山の中に続く道を10分ほど歩かなければいけない。
いくら父の所有する山とはいえ、樹々が鬱蒼と茂る森の中だ。安心などできない。
三浦に話してバス停まで迎えを寄越してもらうようにするか。
滉は身を起こして空を見上げる。
今日はまだ暗くなる前に帰れるだろうから、俺が声を掛ける事もないだろう。
咥え煙草で車のドアを開けようとした滉の動きが止まった。
「美夕、どこに行くつもりだ?」
美夕の歩く方角が、反れた。
見るからに物騒な、見通しの効かない公園の中へと向かっている。
目を凝らしていた滉は、ああ、と唸った。
美夕の先を、明らかに素行の悪そうな二人の男子高校生が歩いている。うち一人が、小さな子猫を手にしていた。
抱く、のではなく、掴むように。時折振り回している。
男子高校生が公園に入って行った後に美夕も続いて入って行った。
まさか、美夕のヤツ。
「ったく! アイツ馬鹿じゃねーの!」
煙草を地面に叩き付けて足で揉み消した滉は、ガードレールを飛び越え、道路向こうの公園に向かって走り出した。
恐怖で心臓が今にも破裂しそうだった。けれど、これから何が起こるのか想像できた時、放ってなどいられなかった。
案の定、美夕の目の前で、見るからに粗暴な高校生たちはどこかから見つけてきたのであろう小さな子猫を地面に叩きつけた。
笑いながら。
ぞっとする光景に、足が竦み、逃げ出したかったが、美夕は勇気を振り絞って声を上げた。
「やめてっ! そんなことしないで! その子、離してあげて!」
放ってはおけなかった。
子猫が、自分と重なった。
弱くて抵抗できない子を寄ってたかって――!
助けなきゃ!
その気持ちが、恐怖に克ってしまったのだ。
美夕の声に驚いた高校生たちは振り向き、顔を見合わせた。
「なんだ、おねえさん。この猫の代わりに俺たちと遊んでくれんの?」
子猫の細い足を掴んで持っていた高校生がニヤッと笑い、美夕に品定めするような視線を送った。
「可愛いおねえさんだから、俺らと遊んでくれるなら、この猫解放してやるぜ」
だらしない笑いを浮かべながら彼らは子猫をまるで物のようにぶらぶらと揺らしながら美夕に見せた。
美夕はゴクリを固唾を呑み込み、頷いた。
子猫を解放してもらうには、今はそう答えるしか方法はなかった。
子猫を逃がして、自分は隙を見て逃げればいい!
「わかったから! だから子猫を逃がして! あっ、落としちゃダメ! そっと置いて!」
「はーい」
ふざけた声で返事をした高校生は、美夕の目の前で猫を放り投げた。
なんてこと!
猫の元へ走ろうとした美夕の腕が掴まれた。
「俺らと遊んでくれるんだろー?」
薄笑いを浮かべた男たちは、もはや高校生などではない。獣そのものだった。
美夕は草むらに引きずり込まれ、押し倒された。
「いや……んぐっ」
叫ぼうとした美夕の口に、男の一人が外したネクタイが詰め込まれた。
「いくら人が来ねー場所っつったって、声出されちゃあ困るもんなァ」
美夕は涙を流して首を振り、身を捩ったが、強い力で押さえつけられ、抵抗などできなかった。
二人の男は笑いながら美夕の服を引き裂いた。
「んん――っ!」
叫ぼうにも声が出ない。
どうしてこんなことに。
子猫は?
美夕は、自分自身がとてつもないピンチに陥っていながらも、自分が助けたかった子猫の身を案じていたが。
「んんっ、んうっ」
男の手が、露わにされてしまった美夕の乳房を乱暴に鷲掴みにした。
「うわ、この女、童顔のくせにすげえおっぱいでけぇ! つーか、乳首立ってる!」
「ということは、こっちはどうだ?」
男たちの笑い声が美夕を恐怖のどん底に突き落とす。
懸命に力を込めて閉じていた足はいとも簡単に全開にされ、美夕は首を振った。
「濡れてるぜー」
「うわ、マジか」
男の手がショーツの脇から乱暴に侵入し、ビクンと躰を震わせた美夕は腰を浮かせた。
指が容赦なく美夕のナカを掻き回す。
指が動くたびに溢れ出る粘液が卑猥な音を立てた。
「んうんっ、んん―――っ」
浮かせた腰が、跳ねる。
「喜んでんじゃねーの?」
男たちのギャハハと笑う声に、美夕は千切れそうなくらいに首を振った。
出せない声で必死に叫び、無駄と分かっていても全身を捩じらせて抵抗を試みた時だった。
美夕の半身が解放された。
「なっ!?」
男が振り返る。
美夕の涙で曇る視界に、あまりにもよく知る男が長い脚を振り上げて立っていた。
正確には、振り上げたのではなく、振り下ろしたところだった。
美夕を襲う男の一人に、かかと落としをお見舞いしたのだ。
一人の男が頭を抱えて悶絶する。
「な、なんだテメェ!」
美夕のもう半身も解放された。
掛かっていこうとした男は、あっけなく滉に倒される。
滉は倒れた二人を見下ろし、睨み付けた。
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