舞姫〜巡り逢い〜

友秋

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 麗子を連れて東京に移り住んだ桑名は、パッタリ姿を見せなくなった。麗子からの連絡は、手紙という形で疎らとはいえ細々と続いたのだが、星児が中学を卒業する頃には完全に途絶え、音信不通となった。遂には、所在すら分からなくなった。

「俺、高校辞めて東京行くわ」

 牧師に隠れて煙草を吸う為に、島の外れにある埠頭跡に来た星児は一緒にいた保に言った。

 波止場に打ち寄せる波が、白い花を散らす。温暖な島に秋が訪れた事を教える風が吹いていた。麗子が島を去ってからちょうど五年の月日が経とうとしていた。

「東京なんて行ったとこで、どうすんだよ。宛てもねーのにさ」

 引いては寄せる波が打ち付ける岸壁に座り、西に続く地平線を眺め、保が聞いた。傾く太陽が少しずつその地平線に近付いていた。

「慎ちゃんが東京にいるんだよ」
「慎ちゃんが? いつの間に星児そんな事」
「先生が電話で慎ちゃんと話してるのを立ち聞きして、コッチからかけたのが分かってたからこっそり先生の電話帳拝借した」

 煙草の煙を吐き出しながら、星児はキシシと笑った。保は飽きれながら星児を見た。星児の悪知恵は、昔から天下一品だった。

「慎ちゃん、最初は困ってたけどよ。昨日やっと、来ていい、って言ってくれた」

 再び煙草をくわえて煙に目を細めた星児を、保は黙って見据える。

「ここにいたってラチが開かねーんだよ。郡司のヤローの事もちっとも分からねーし。何より麗子だ」

 郡司武。自分達の大事な故郷を焼き払い、家族を殺した憎き敵だ。いつか、郡司を見つけてやろうという怒りが二人の中に消えない炎として燃えていた。

 星児は煙の向こうに広がる海と空を睨んでいた。暫しの沈黙の後、星児は煙草を口から外してフーッと煙を吐き出した。

「とりあえずよ、俺は勉強嫌ぇだからガッコなんてもんに未練はねぇ。でもよ保、お前は俺とは違う。お前は頭もいいし〝勉強〟が出来るんだ。それは俺にはねぇ大事な武器なワケ。俺とお前は二人で一人前なんだよ」

 まだ十六歳だというのに星児の中にはその時既に、自分達の先にある未来の青写真が出来ていたのだ。しかしそれは、麗子を見つけてしまった事で少々の遠回りを余儀なくされる。



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