この夏をキミと【完結】

深智

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再始動2

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 雨上がりの放課後のグラウンドは、ところどころに水たまりが出来、少しだけ西に傾いた日の光を反射してキラキラと光っていた。野球部の部員達は水たまりを避け、二人一組になってキャッチボールを始めていた。

「雨、あがってよかっただろー!」
「ちっともよくないって! あっちいよ!」

 キャッチボールとはいえ、普通の声では会話が不可能なくらいの距離を取る遠投だ。篤と貴史はお互い声を張り上げていた。

「暑いとかいってんじゃねー! 夏はこれからだろっ!」

 篤の声と比例して投げる球も次第に強くなる。その原因は。

「僕はこの雨上がりの蒸し暑さが一番苦手なんだよーっ!」

 キャッチボールを始めた頃から続くこの、貴史のセリフにあった。

「そのヘタレセリフ、次に吐いたらお前のトレーニングメニューにランニングあと二十キロ追加してやる!」
「えー! マジー!?」
「安心しろー! 一緒に走ってやるからー!」
「おー! さすがはキャプテン!」
「俺はチャリだよっ!」
「あぁ!?」

 キャッチボールをしながら篤はだんだんと距離を詰めていく。球を受けながら、貴史は思う。

 あんな事を言ってもその時になれば篤はちゃんと一緒に走るんだろうな。

 小学校の時から、センスはあっても少しばかり根性が足りないが為にチームに迷惑ばかりかけていた貴史に篤はいつも付き合って一緒に怒られ、罰則のように課せられたキツイトレーニングにも必ずついてきた。

 貴史は、グラブに快音を響かせて収まる球をグッと握って篤を見た。

〝今しかない〟貴重な時間を、どうしても、できうる限り篤と一緒に過ごしたかったから。

「もう肩できたろ。そろそろ座るか?」

 グラウンド脇にある簡素なブルペンらしきマウンドを篤が肩越しに親指で指した。公立高校の為、立派な設備はないが投球練習のできる場所は設置されていた。

 パァン!とキャッチャーミットが乾いた音をたて、重い球が飛び込んだ。ミットに収まった球を篤は眺め、手に取ると貴史に投げる。球を受けた左手が少ししびれていた。

 絶好調じゃねーか。篤は心の中で呟いていた。神経の細やかな貴史は、下手な時に褒めたりするとガタガタと調子を崩したりする。こういう言葉はここぞという時にかけることにしていた。付き合いも十年目になる。貴史の心の動向は言葉にしてもらわなくとも篤にはわかるようになっていた。

 篤はミットを構えてマウンドに立つ貴史を見た。

 190センチ近い長身に、長い手足。貴史がマウンドに立った瞬間、空気が変わるのが分かる。そこ立つだけで打者に威圧感を与えられる雰囲気を持っていた。

 ゆったりとしたモーションから繰り出される速球は、打者にはかなり打ちにくい。緩急も自在で速球ストレートとほぼ同じ腕の振りでチェンジアップを投げられた。おまけにイケメンときている。まるで某球団の有名なピッチャーのようだった。

 あとは、エースとしての自覚さえ持ってくれたら、と篤は内心で苦笑いしながら球を返球した。

 中学三年の時、貴史にいくつかのスカウトがきていたのを篤は知っていた。成績も自分と違い抜群に良く、行く高校なんていくらでもあったろうに。篤は貴史を見て時々思った。

 自分は、175センチそこそこの身長とポジションはキャッチャーだ。よほどの打撃センスを持ち合わせていない限り注目されることはない。そんな事はわかっている。

 ただがむしゃらに一生懸命やっていれば、きっといつかはかならずプロになれる。そう信じてやってこられた中学時代とは違う。

 自分はいったいどこに向かっているのだろう。時折頭をよぎる想い、迷い。篤はグッと奥歯を噛みしめ、頭の中を覆い始めた想いを振り切った。今は、無心に白球を追うだけだ。

「あつしー、だまってないでさー、どう?」
「まあまあだよっ!」

 篤は今言える精一杯の褒め言葉を返した。

「まあまあ、か。篤はなかなか、いいっ! とは言わないなぁ」

 貴史は不満そうにマウンドを足で削って調整する。それを眺める篤は、ばぁか、現時点での最上の褒め言葉だよ、というセリフを胸の内にしまい込んだ。

 褒め言葉は大事な時に、ここぞという時に言うんだよ。


 グラウンドではノックをする監督の怒鳴り声が響いていた。大会の始まりと梅雨明けはすぐそこまで来ていた――。



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