この夏をキミと【完結】

深智

文字の大きさ
22 / 42

キミの瞳に映るもの

しおりを挟む
 ハアハアと息を切らせてたどり着いたのは、試合が行われている緑豊かなK公園内にあるスタジアムだった。

 短距離には自信あるけど長距離はだめだ。夏菜子は前屈みになると両手を膝に置き、息を整えた。木々の葉が夏の風に揺れていた。

 このスタジアムは高校から約二キロの距離にある。自転車なら十分と掛からない距離だったが、夏菜子は全速力でここまで走って来た。担任教諭がよりによって今日のホームルームを長引かせてしまい、プレイボールの時間に間に合わなくなってしまったのだ。

 緑の香りを含む空気を胸一杯に吸い込んだ夏菜子はゆっくりと体を起こし、スタンドへと続く階段を登り始めた。

『四番キャッチャー、緒方君!』

 アナウンスを聞いた夏菜子の疲れが一気に吹き飛んだ。今、歩くのもやっとなくらいヘトヘトだった足が、一気に階段を駆け上がる。

 パアッと視界が開けたその先に、バッターボックスへ向かう背番号2の広い背中が見えた。

――篤!

 夏菜子の胸が張り裂けそうなくらいにドキドキし始めた。ずっと見てきた背中なのに、今でもその姿を見るだけで堪らないくらいキュンとする。

 スコアボードは七回裏一死、ランナーは二、三塁だ。二点ビハンド。負けてる、と夏菜子の頬を汗が伝った。

――篤のホームランがみたい!

 なぜそう思ったかはわからない。ただ、夏菜子は今、ホームランがみられそう、そんな予感がしたのだ。

 今駆け上がってきた階段の前から一歩も動かず、両手を目の前で祈る形に組んだ。

 本当はこの場から逃げ出したいくらい、心臓が今にも飛び出していってしまいそうなくらいにドキドキしていた。

――どんなにドキドキしたって……篤の試合、もう見逃したりしない。最後まで全部、この目に焼き付けるんだ!

 身動きもせず、ただ一点を見つめていた。小さな頃からずっと追いかけてきたその背中を。

「あつし――――、打て―――――!」

 夏菜子の叫ぶような声は、盛り上がるるスタンドの応援団の声と同化した。




「か、夏菜子、足、はや……ついていけないよー……」

 フラフラになりながら階段を登ってきた真美は夏菜子の顔を見上げてギョッとした。

「やだっ、夏菜子何泣いてんの⁉」

 フィールドを見つめる夏菜子は大粒の涙を流していた。

「あ、篤が……」
「緒方がどうしたの! 空振り三振でもした!?」
「その反対よ!」

 慌ててハンカチで涙をぬぐいながら、夏菜子はフィールドを指さす。篤がガッツポーズをしながらダイヤモンドを走っていた。

「まさか……ホームラン?」

夏菜子が、どうだ、と言わんばかりの表情で頷いていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。 美人で聡明な長女。 利発で活発な次女。 病弱で温和な三女。 兄妹同然に育った第二王子。 時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。 誰もがそう思っていました。 サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。 客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...