この夏をキミと【完結】

深智

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決戦3

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 たーかしー、やきゅういこーぜー。
 えー? ぼ、ぼく……きょうは……。
 おとこなら、やるときめたらやるんだよ!
 だって……やきゅうはあつしくんがむりやり……。
 なんだとー!
 うわぁ! いたいよぉ!
 キャー! 篤君、うちの貴史ちゃんに何て事するの!


 貴史はマウンド上で目をつむった。右手でロージンバッグを跳ねさせる。彼の瞼の裏にはほんの少し前の光景が拡がった。

 皆が守備位置に付き、マウンドはバッテリーだけとなっていた。篤が貴史にゆっくりと確認するかのように言った。

「いいか貴史。お前の立ち上がりは俺が必ずフォローしてやる。思い切り腕振っていけよ!」

 貴史の胸元を軽く拳で小突いた篤はマスクを被りながら戻って行った。

――また……‘サンキュ’を言い忘れたな。

 そう一人、心の中でふと笑った貴史の心は驚く程凪いでいた。

 試合開始のサイレンが球場全体を包み込み、貴史は手にしていたロージンを足元に落とした。

――篤の夢は甲子園。でも僕の夢は――

 一日も長くキミと野球をすること! ――貴史は目を開けた。まっすぐ見つめるその先には――篤。

――行くよ、篤!

 ボールを握り締めた右手を左手のグラブの中に入れた貴史はプレートに右足を置き、両腕を思い切り上げた。

 ワインドアップ! ――ミットを構え、貴史の放つ球を待つ篤は心の中で叫んでいた。貴史はワインドアップだと細かなコントロールが利かないのだ。

――確かに腕振れって言ったけどよぉ!

 どこに放り込まれても対応できるよう篤はミットを真ん中に構える。

――俺知らねー!

 ぱぁーん、という乾いた音。篤の手に今まで感じた事のない振動が伝わっていた。マジかよ、と篤はマウンド上の貴史を見る。

 貴史は。踏み切りの反対の足が前に出た状態のまま――つまり、球を放った反動で出た軸足をそのままに、打者を睨みつけていた。篤と目が合うて右手の人差し指をビシッと向けた。唇が動く。

<ぜ・っ・こ・う・ちょ・う・だ・よ>

 篤は熱くなる胸をグッと堪えた。

――貴史――!

「結構球はえーな」

 バッターボックスに立つ一番打者の声に彼はハッと我に返る。

「ど真ん中とはね」

 貴史に球を返しながら篤は答えた。

「アンタは初打席初球は九割がた見送ってくれるみたいだから敢えてな」

 ど真ん中は想定外だけどな、とキャッチャーマスクの下で苦笑していた。

 二球目。篤のサインに貴史は首を縦に振らない。まだ初回、先頭バッターだ、と篤は肚を括った。

――もう好きにしろ。ホームラン以外なら許す!

 ミットを真ん中に構えた篤に貴史はようやく頷いた――。



 結果は、三球三振。篤はミットに収まった白球を見つめた。そしておもむろに審判を振り向く。

「タイム、お願いします」

 マウンド上に内野陣まで集まってきていた。貴史が明らかに憮然とした表情を浮かべていた。

「何か用?」
「いや……」
「僕が先頭打者を三振に切って取ったら何か問題でも?」

 内野手達が皆、顔を見合わせた。

「いや……熱でもあんのかな……と」

 貴史はス――ッと息を吸い込んだ。

「持ち場に戻れ――!」

 その声に全員が背筋を伸ばし、ニッと笑った。

「よっしゃー! やるぞー!」

 それぞれ拳を突き上げながら持ち場に戻って行く中、貴史が篤に声を掛けた。

「今日は凄く調子がいいんだよ」

 そう言いウィンクした貴史の顔を篤は右手でガシッと挟み、

「よし!」と笑った。

 バッターボックス手前でフィールドに向かい両手を拡げた篤が声を張り上げた。

「しまってこ―――!」

 野手全員それに応え両手を挙げ、オォ―――ッという野太い声が青い空の下響き渡った。




 一番バッターの坂牧がベンチに戻ると仲間の一人が声を掛けた。

「お前がストレート空振りすんの初めて見たな。なんか変化でもしたのかよ?」
「いや……予想以上に伸びた……」

 四番バッターの北田が準備を始めていた。

「確か……あそこの市原は‘立ち上がり難あり’のはずだったよな」

 北田はバッティンググローブをはめながら不敵に笑った。

「市原がいいピッチャーなのは前から知ってる。けど慌てる事ない。明らかにオーバーペースだ。九回まであんなピッチングは出来ないさ」

 そんな話しをしているうちに、キン! と金属音が聞こえ、三遊間を抜ける白球が見えた。二番バッター、竹谷が塁に出ていた。

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