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決戦4
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言わんこっちゃない! とマスクを顔の上にあげていた篤が貴史を睨む。貴史は、と言うと。マウンド上で小さく舌を出していた。
――余裕じゃねーかよ。
篤はキュッと唇を噛みしめ気合を入れ直した。
――こっからは俺が一瞬も気が抜けねーんだよ。……とは言っても変なとこでタイム取ってアイツのタイミング狂わせちまったのは俺だしな。
マスクを被り座り直した彼は一塁ランナ―を睨みつけ、心中で誓う。
――ちゃんと取り返してやるぜ!
ゆったりとしたモーションが特徴の貴史のピッチングは、ランナーが出ると途端にその弱点を露呈する。
とにかく走られるのだ。三番打者の笠原が左バッターボックスに入り構えた時、篤は一塁ランナーを目の端に入れた。二塁手の倉元がジリジリとセカンドベースにじり寄っているのも確認した。
――貴史、外せ!
貴史が投球動作の入ったと同時に一塁ランナーが走り出した。外角へ外させた球を篤はキャッチするやいなやセカンドへ送球した。絶妙なタイミングでベースカバーに入った倉元がそれをキャッチ。落ち着いてランナーにタッチし――
「アウトー!」
親指を立てた拳を突きだした塁審の声が響き、スタンドがワァッと湧いた。
篤が思い切りよくガッツポーズ。その様子に貴史が笑った。
北田はヘルメットを手に取ると、ベンチに座りパソコンでスコアを入力している三年の男子マネージャーに視線を向けた。
「吉田」
マネージャーはメガネの顔を北田に向けた。
「あの緒方ってキャッチャー。盗塁阻止率とか分かるか」
吉田は再びパソコンに視線を落とし、言う。
「うちにしてみりゃほぼノーマークのキャッチャーだ。阻止率とか算出なんかしていないが……今大会に限って言えばあそこは相手校に盗塁を許した記録はないな」
「盗塁させてない? あのピッチャーでか」
ふうん、と呟いた北田は少し思案していたが、
「あの俊足自慢の竹谷が刺されるんだからな。結構楽しい試合になりそうじゃね?」
そう言うとクククと楽しそうに笑い、グラウンドに視線を移した。
三番の笠原は気を取り直してバッターボックスに入った。
「やるじゃねーか」
「どうも」
声を掛けられた篤は前を向いたまま答えた。当然だ、と心の中でもう一言。
繊細な貴史のペースを守る為、牽制の練習はほとんどさせてこなかった。その分、篤の肩に掛かる荷が倍増しようとも。
貴史の能力を最大限まで引き出すのは、自分の役目。それが、貴史を野球に引き込んだ自分の責任。
――俺が貴史をフォローしなくてどうする。
ミットを構え、マスクの向こうから貴史を見る篤は、ふぅ、と小さくため息をついた。マウンド上のエースは相変わらず、自分が出すサインには納得しない。
打たれても折れない不屈の精神――。今日の貴史は今までの貴史とは違う。篤はクッと笑った。
分かった、やってみろ。今日のお前ならイケる! ……けど……と、篤は少しばかりアウトサイドにミットを構える。
――ど真ん中は勘弁してくれ。
ネクストバッターサークルでバット片手に片膝を突きフィールドを眺める北田をチラリと見やった篤。
――初回からお目にかかりたくはねーからな。
すぱーん、と乾いた音を篤のミットが立てる。
「ストライーク!」
笠原のバットは僅かにボールの下、空を切っていた。
飛ばしすぎじゃねーの……。苦笑いする篤の左手に軽く走る痺れ。ボールを右手に握った彼の中にゾクゾクするような感覚が貫いていた。
球速と、打者が体感する球の速度は違う。初速と、バッターの元を通過しミットに収まる時の速度、つまり終速の差が小さければ小さい程速く感じる。それが伸びのあるストレートとなるのだ。ここだ、と思って当てに行ったバットが空を切る。通過した球は振られたバットの上。伸びた球はまるで浮かび上がったかのように。
そんな球、理屈では知っていた篤だが、受けたのは初めてだった。こんな大一番で――痺れにも似た武者震い。返す球に力が籠った。
何にしても、と片膝を突きミットを構えながら篤は改めてバッターボックスに立つ三番打者、笠原を見上げた。
――この回は必ずコイツでチェンジにしなけりゃなんねーんだよ。ちったぁ、俺のリードに従ってもらうぜ。
ミットを軽く叩きながら笠原に視線を走らせた。立つ位置、バットの握りを伺い、どんな球を待っているのか予測する。そして、貴史の意志を尊重しつつ上手くリードする方法を探らなければならなかった。
――さぁ、どうすっかな。
持てる頭脳をフル回転させる篤の胸が、この始まったばかりのゲームにゾクゾクするような興奮と期待に満ちていった。
――余裕じゃねーかよ。
篤はキュッと唇を噛みしめ気合を入れ直した。
――こっからは俺が一瞬も気が抜けねーんだよ。……とは言っても変なとこでタイム取ってアイツのタイミング狂わせちまったのは俺だしな。
マスクを被り座り直した彼は一塁ランナ―を睨みつけ、心中で誓う。
――ちゃんと取り返してやるぜ!
ゆったりとしたモーションが特徴の貴史のピッチングは、ランナーが出ると途端にその弱点を露呈する。
とにかく走られるのだ。三番打者の笠原が左バッターボックスに入り構えた時、篤は一塁ランナーを目の端に入れた。二塁手の倉元がジリジリとセカンドベースにじり寄っているのも確認した。
――貴史、外せ!
貴史が投球動作の入ったと同時に一塁ランナーが走り出した。外角へ外させた球を篤はキャッチするやいなやセカンドへ送球した。絶妙なタイミングでベースカバーに入った倉元がそれをキャッチ。落ち着いてランナーにタッチし――
「アウトー!」
親指を立てた拳を突きだした塁審の声が響き、スタンドがワァッと湧いた。
篤が思い切りよくガッツポーズ。その様子に貴史が笑った。
北田はヘルメットを手に取ると、ベンチに座りパソコンでスコアを入力している三年の男子マネージャーに視線を向けた。
「吉田」
マネージャーはメガネの顔を北田に向けた。
「あの緒方ってキャッチャー。盗塁阻止率とか分かるか」
吉田は再びパソコンに視線を落とし、言う。
「うちにしてみりゃほぼノーマークのキャッチャーだ。阻止率とか算出なんかしていないが……今大会に限って言えばあそこは相手校に盗塁を許した記録はないな」
「盗塁させてない? あのピッチャーでか」
ふうん、と呟いた北田は少し思案していたが、
「あの俊足自慢の竹谷が刺されるんだからな。結構楽しい試合になりそうじゃね?」
そう言うとクククと楽しそうに笑い、グラウンドに視線を移した。
三番の笠原は気を取り直してバッターボックスに入った。
「やるじゃねーか」
「どうも」
声を掛けられた篤は前を向いたまま答えた。当然だ、と心の中でもう一言。
繊細な貴史のペースを守る為、牽制の練習はほとんどさせてこなかった。その分、篤の肩に掛かる荷が倍増しようとも。
貴史の能力を最大限まで引き出すのは、自分の役目。それが、貴史を野球に引き込んだ自分の責任。
――俺が貴史をフォローしなくてどうする。
ミットを構え、マスクの向こうから貴史を見る篤は、ふぅ、と小さくため息をついた。マウンド上のエースは相変わらず、自分が出すサインには納得しない。
打たれても折れない不屈の精神――。今日の貴史は今までの貴史とは違う。篤はクッと笑った。
分かった、やってみろ。今日のお前ならイケる! ……けど……と、篤は少しばかりアウトサイドにミットを構える。
――ど真ん中は勘弁してくれ。
ネクストバッターサークルでバット片手に片膝を突きフィールドを眺める北田をチラリと見やった篤。
――初回からお目にかかりたくはねーからな。
すぱーん、と乾いた音を篤のミットが立てる。
「ストライーク!」
笠原のバットは僅かにボールの下、空を切っていた。
飛ばしすぎじゃねーの……。苦笑いする篤の左手に軽く走る痺れ。ボールを右手に握った彼の中にゾクゾクするような感覚が貫いていた。
球速と、打者が体感する球の速度は違う。初速と、バッターの元を通過しミットに収まる時の速度、つまり終速の差が小さければ小さい程速く感じる。それが伸びのあるストレートとなるのだ。ここだ、と思って当てに行ったバットが空を切る。通過した球は振られたバットの上。伸びた球はまるで浮かび上がったかのように。
そんな球、理屈では知っていた篤だが、受けたのは初めてだった。こんな大一番で――痺れにも似た武者震い。返す球に力が籠った。
何にしても、と片膝を突きミットを構えながら篤は改めてバッターボックスに立つ三番打者、笠原を見上げた。
――この回は必ずコイツでチェンジにしなけりゃなんねーんだよ。ちったぁ、俺のリードに従ってもらうぜ。
ミットを軽く叩きながら笠原に視線を走らせた。立つ位置、バットの握りを伺い、どんな球を待っているのか予測する。そして、貴史の意志を尊重しつつ上手くリードする方法を探らなければならなかった。
――さぁ、どうすっかな。
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