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惹かれ合う心は
しおりを挟む稀代のキャバ嬢なんていうからどんな女かと思ったら。
普通の女のコだった。
*
「お疲れさま」
コンビニエンスストアの雑誌コーナーで凛花は優しく微笑んみながら入って来た龍吾に声をかけた。
朝の陽光に照らし出される凛花の白い肌は、柔らかな色を見せていた。龍吾は眩しそうに目を細める。
「今日はイヤな事はなかったか」
フフフと凛花が肩を竦めた。
イヤな事があったって、貴方に会えたら。
「今、全部忘れちゃった」
「なんだそれ」
龍吾がハハハと笑い、凛花の隣に立ち漫画雑誌を手に取った。
どちらが言う訳でもなく、自然とこのコンビニでこの時間に会うようになっていた。
凛花は運転手のような男を鈴蘭のオーナーである田崎に付けられていたが、「今日は歩いて帰りたい」と断り、来ていた。
頻度が増える事が危険である事はわかっていたが、警戒心が徐々に鈍くなっている事に凛花自身気付いていなかった。
「私は猫が好き」
「え、ネコ?」
コンビニを出た時、凛花がフッとそんな話しをし始めた。
凛花の視線の先を見ると、塀にヒョイと飛び乗りその上をしなやかに歩き去る猫の姿があった。
ああ、と龍吾は朝日に向かう猫の後ろ姿を見送った。
「猫は自由だもの」
「自由?」
猫が見えなくなった先をじっと見据えたままの凛花を龍吾は静かに見つめる。
「猫はね、たとえ飼い猫だって自由なのよ。飼い主の事をご主人だなんて思ってないの、多分。好き、じゃなくて羨ましいのかもね、私」
凛花はクスリと笑い、肩を竦めた。
ほんの少しばかり寂しげに見えた笑顔がチクリと龍吾の胸に刺さる。
龍吾は凛花の背後にあるものは知らない。ただ、これ以上踏み込む事に対する警鐘だけは、龍吾の中で鳴り止む事はなかった。
それでも、ほんのわずかな時間の為の無言の約束のような会瀬を重ねていく。
凛花は龍吾の話にうんうんと耳を傾け、よく笑った。凛花な笑顔は普通の女のコである事を龍吾に教えていた。
「その笑顔、もっと見たいな」
ボソッと呟いた龍吾の言葉に凛花が目を見開く。龍吾は恥ずかしさをごまかす為に目を逸らして頭を掻いた。
凛花の眩しい笑顔が目の端に映っていた。
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