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夜明けのコンビニにて
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貴方に会いたかった。
貴方と話しがしてみたかった。
それだけでいいの。
それだけで良かったの。
それだけで。
*
明け方の、歓楽街にあるコンビニエンスストアには、店がハネた後のホストやホステスの姿があった。
凛花は立ち寄り雑誌を手に取った。視線を落としてはいるが、読んでいる訳ではない。
ずっと落ち着かない様子でチラチラと外を見ていた。
まるで、誰かを待つかのように。
凛花の表情が変わる。頬を赤くしパッと雑誌に顔を隠した。
ドアが開き入ってきたのは龍吾だった。
スラリと背の高い龍吾は店内を軽く見回し、凛花がいる雑誌コーナーに歩いてきた。
凛花に気付く事なく、龍吾はカー雑誌を手に取りパラパラと捲り始めた。
隣に立つ凛花の手が震えていた。
声を、掛けたい!
凛花は知っていたのだ。この時間、このコンビニエンスストアに龍吾がよく立ち寄る事を。
苦しくなる程胸が高鳴る。
自分が恋などしてはいけない事などわかっているけれど。
雑誌を見るフリをしながら、隣を盗み見た。
顔は、見上げなければ見えないが、雑誌を捲る指の長い大きな手が見えた。
それだけで凛花の胸が張り裂けそうになる。
触れてみたい、その手に。
男はたくさん知っている。でも本当の恋は知らなかった。
こんなに胸が苦しくなるような気持ちなんて知らなかった!
龍吾が雑誌を置いた。
声を、声を掛けなきゃ行ってしまう!
「あの、車、好きなの?」
絞り出した声が震えていた。
店ではどんな男であろうとしなやかに接客する凛花が、この、ただ一人の男に声をかけるだけで心臓が縮み上がる程に緊張していた。
去ろうと背を向けた龍吾が振り向いた。
「あ、」
凛花。
声は出ていなかったが口の動きがあった。
思いがけず掛けられた声の主に、少なからず驚きの色が隠せないようだった。
「あの、この間は、ありがとうございます」
「いや、別に。俺は落ちていたのを拾っただけだから」
龍吾の少しはにかむような笑顔は、まだ少年のようなあどけなさを覗かせ、凛花の胸を締め付けた。
「今日はバッチリお化粧してるんだな」
「え?」
龍吾がフワッと凛花の顔を覗き込んだ。
「この前はほとんど素っぴんだったろ」
ドキッとした。
そうだった、あの日は泣き晴らして顔を洗った後だったから。
「たまにここに来るんだ?」
恥ずかしさにうつ向き加減になった凛花に、龍吾は優しく問いかけた。
「え、ええ。そうなの」
貴方を、探しに。
言葉を呑み込んだ。
「また」
「ん?」
勇気を出して凛花が顔を上げると、涼しげな切れ長の目と視線がぶつかり合った。
心臓が勢いよくはね上がる感覚に、手を胸元で握りしめる。
い、言うのよ、凛花!
「ここで会える?」
「……ああ」
龍吾は、頬を染める凛花を眩しそうに見て微笑んだ。
どれほど危険な恋への第一歩になるか、なんてその時は考えもしなかった。
ただ純粋な、淡い気持ちに正直に生きたかっただけだったのに。
貴方と話しがしてみたかった。
それだけでいいの。
それだけで良かったの。
それだけで。
*
明け方の、歓楽街にあるコンビニエンスストアには、店がハネた後のホストやホステスの姿があった。
凛花は立ち寄り雑誌を手に取った。視線を落としてはいるが、読んでいる訳ではない。
ずっと落ち着かない様子でチラチラと外を見ていた。
まるで、誰かを待つかのように。
凛花の表情が変わる。頬を赤くしパッと雑誌に顔を隠した。
ドアが開き入ってきたのは龍吾だった。
スラリと背の高い龍吾は店内を軽く見回し、凛花がいる雑誌コーナーに歩いてきた。
凛花に気付く事なく、龍吾はカー雑誌を手に取りパラパラと捲り始めた。
隣に立つ凛花の手が震えていた。
声を、掛けたい!
凛花は知っていたのだ。この時間、このコンビニエンスストアに龍吾がよく立ち寄る事を。
苦しくなる程胸が高鳴る。
自分が恋などしてはいけない事などわかっているけれど。
雑誌を見るフリをしながら、隣を盗み見た。
顔は、見上げなければ見えないが、雑誌を捲る指の長い大きな手が見えた。
それだけで凛花の胸が張り裂けそうになる。
触れてみたい、その手に。
男はたくさん知っている。でも本当の恋は知らなかった。
こんなに胸が苦しくなるような気持ちなんて知らなかった!
龍吾が雑誌を置いた。
声を、声を掛けなきゃ行ってしまう!
「あの、車、好きなの?」
絞り出した声が震えていた。
店ではどんな男であろうとしなやかに接客する凛花が、この、ただ一人の男に声をかけるだけで心臓が縮み上がる程に緊張していた。
去ろうと背を向けた龍吾が振り向いた。
「あ、」
凛花。
声は出ていなかったが口の動きがあった。
思いがけず掛けられた声の主に、少なからず驚きの色が隠せないようだった。
「あの、この間は、ありがとうございます」
「いや、別に。俺は落ちていたのを拾っただけだから」
龍吾の少しはにかむような笑顔は、まだ少年のようなあどけなさを覗かせ、凛花の胸を締め付けた。
「今日はバッチリお化粧してるんだな」
「え?」
龍吾がフワッと凛花の顔を覗き込んだ。
「この前はほとんど素っぴんだったろ」
ドキッとした。
そうだった、あの日は泣き晴らして顔を洗った後だったから。
「たまにここに来るんだ?」
恥ずかしさにうつ向き加減になった凛花に、龍吾は優しく問いかけた。
「え、ええ。そうなの」
貴方を、探しに。
言葉を呑み込んだ。
「また」
「ん?」
勇気を出して凛花が顔を上げると、涼しげな切れ長の目と視線がぶつかり合った。
心臓が勢いよくはね上がる感覚に、手を胸元で握りしめる。
い、言うのよ、凛花!
「ここで会える?」
「……ああ」
龍吾は、頬を染める凛花を眩しそうに見て微笑んだ。
どれほど危険な恋への第一歩になるか、なんてその時は考えもしなかった。
ただ純粋な、淡い気持ちに正直に生きたかっただけだったのに。
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