舞姫【前編】

深智

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BIRTH DAY

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「よし、じゃあみちる、目、閉じた方がいいか?」
「う、うん」

 保がマーキング用のペンで印をつけ、消毒をした。そして、ピアッサーを手に持ったのは、星児だ。

「いいのか、俺からで」
「いんじゃね? 星児は俺のボスだし」

 なんだそりゃ、と星児が笑い、保は「な、みちる」と、みちるの頭を撫でた。

「うん」

 星児の形の良い切れ長の目に、みちるは少しドキッとする。

 就寝前のベッドの上で過ごす時間だった。

 三人は〝儀式〟をこの時間に決めた。誰にも侵される事のない、三人だけの、この時間に。

 保はみちるに鏡を見せ、もう一度位置を確認させた。

「ここで大丈夫です」

 みちるは目を閉じた。

「じゃあ、みちる、いくぞ」

 耳元で星児に囁かれ、その声だけで意識がとろけそうになる。

「こら動くな」

 目を閉じたままみちるは思わず首を竦めていた。

「みちる」

 ぺタンと座っていたみちるの、膝に置かれていた手を保が優しく握る。その直後、パチン!という音が頭の中に響いた。

「1つめ、開いたぞ」

 みちるはゆっくりと目を開けた。

「ほら」

 優しく握っていた手をそっと離した保がみちるに手鏡を差し出す。

 逸る胸を抑え、手鏡を受け取ったみちるは映し出された自分の姿を覗き込んだ。

「わぁ……」

 右の耳にキラリとゴールドのピアスが光っていた。日付が変わり誕生日を迎え一六歳になった最初の〝セレモニー〟だ。

 みちるは鏡の中の、光るピアスに触れた。

 星児さんが、開けてくれた。触れる手が震えそうだった。

 無機質な金属である筈のゴールドから、微かな脈動が感じ取られる。

 顔を上げ、星児と保に覗き込まれている事に気付いたみちるは真っ赤になった。

「ちょっとだけ大人になったか?」
「いや、まだまだだな」

 星児と保はクスクス笑う。

「やだもー!」

 みちるは手鏡を保に押し付けうつ向き、アハハッという二人の笑い声が寝室に響く。

 保はピアッサーを手に優しくみちるに言った

「次は、左」
「……うん」




「スゲーな、こんなんで穴開いちまうんだ」

 星児が白いピアサーを改めて眺めていた。

「なに言ってんだよ、今更」

 保が苦笑いしながら言う。

 みちるは結んでいた長い髪をほどき耳にかけ、手鏡の中に映る自分を見た。

 新しい私。ちょっと、ドキドキ。

 耳でキラキラと光るピアス。右が、星児。左が、保。同じゴールドの筈なのに、不思議と違う色の光を放っているかのようだった。

「みちる、コレ」
「え……?」

 保がみちるに、淡いブルーの小箱を渡した。

「俺と星児から」

 保は、照れ臭さからか目を合わせない。受け取ったみちるは驚きで声が出なかった。

 みちるは目を見開いたまま2人を見比べる。星児はそんなみちるを見てクスクス笑った。

「誕生日プレゼントだよ。保が、こんな感じのにしよう、って提案して、俺が知り合いの女に片っ端から聞いて店を探して、実際にそこ行って買ったのは、保、ってわけ」

 片膝立てて頬杖ついた星児がみちるに説明した。

 そんなに一生懸命探してくれて。

「泣かないで開けてみろって」

 星児が優しく言った。

「あ……はい」

 手の平で溢れかけてた涙を拭い、チラリと保を見ると、はにかむような笑顔を見せた。保の表情にみちるの胸がキュンと小さく縮む。

ありがとぉ、と微かに呟き、みちるは箱を改めて見た。

 お洒落なブルーの小箱の、蓋の真ん中には〔Angela〕という金の細工文字と美しい翼のデザインが共に彫り込まれ、ピンク色のリボンが掛けられていた。

 みちるはそっとピンク色のリボンを引きほどき、ゆっくりと蓋を開けた。

「天使……」

 嘆息が漏れた。

 それは、まるで翼を拡げた天使の背中。右と左、片方ずつ小さな丸いルビーから翼が生えたように象られたホワイトゴールドのピアスだった。

箱を開けたままみちるは言葉を詰まらせた。

「ペンダント、してから、揃い」

 星児の柔らかな声に、みちるは胸元のペンダントに触れた。

「保がさ」

 みちるは保を見る。

「いいよ星児、言わなくて」

 スッと目を逸らした保は頭を掻きながらに言った。

「照れる事ねーだろ」

 ククッと喉の奥で笑った星児はみちるの頭を優しく撫でる。

「ペンダントと揃いで何か、ってさ。丁度麗子がピアスの穴開けるヤツ、みちるにやる、って聞いたから。俺も保も女モンのアクセサリーなんてよく知らねーから」

 言い終わらないうちに、みちるが並んで座っていた星児と保に抱きついた。

 予想だにしなかったみちるの行動に意表を突かれたニ人はそのまま仰向けに倒れ、彼女が彼等の上にうつ伏せに被さる形になった。

「み、みちる?」

 星児は柔らかな表情のまま優しくみちるの頭を撫でていたが、保はほんの少しうろたえる。やり場に困った手が宙を泳いでいた。

 手を繋ぐのは平気だが、全身でみちるを感じるにはいきなりすぎた。

 フローラル系の香りが鼻をくすぐる。保は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、みちるの背中にそっと手を置いた。

「私を……」

 二人にしがみついたまま、みちるが呟くように言った。

「私を、ずっと傍にいさせてください。ずっと、星児さんと保の傍に置いてくださいっ!」

 涙声で掠れ、絞り出すように必死に、それだけ言うのが精一杯だった。

 ありがとう。

 そんな言葉、口に出したら一気に薄っぺらなものになりそうだったから。

 みちるは、今胸を覆った想いをただ正直に、言葉にした。

「私はずっと、ずっと星児さんと保さんの傍にいたいーー」

 言い終わらないうちに抱き起こされたみちるは二人に抱き締められていた。

 保が、みちるの頭を、星児が、みちるの身体を強く抱き締める。

「ずっと、ずっと一緒にいてやるから」

 みちるの胸元で星児が静かにゆっくり噛み締めるように言う。

 保がそっとみちるの額にキスをした。柔らかな温かい唇の感触に、全身の力が抜ける。

 星児さん、保さん!

 みちるは右手で星児の、左手で保のTシャツにしがみついた。

「安心しろ、一緒にいるから」

「うん……」

 みちるはゆっくり目を閉じた。泣かないよう涙を堪え。

「ーーっ!」

 みちるが「きゃぁっ」とはね上がった。

「せいじっ! どさくさ紛れにみちるのケツ触んなっ!」

 星児はみちるの腰を抱きながらハハハッ!と笑う。

「……もぉっ」

 頬を膨らませるみちるの腕を、苦笑いする保が優しく掴み抱き寄せた。

 ずっと。ずっと一緒に――。


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