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キスは何の為?
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保がベッドで本を読んでいた。横にはならず、枕をクッションにして寄りかかり座っている。
風呂から出、髪を乾かし終えたみちるがその横にスルスルッと潜り込んだ。
仰向けになったみちるは組んだ手を口の前に置き、天井を見つめる。
「星児がいなくて淋しい?」
「え!?」
今夜は星児がいない。麗子のところへ行ったのだ。
「そっ、そんなことないよっ!?」
「みちるはホントに嘘が下手だ」
保がハハハハと朗らかに笑い出した。
みちるが頬を膨らませた。
「保さん、意地悪だ」
寝返り、背を向けた。保はそんなみちるの頭を「よしよし」と優しく撫でる。
「たまには、一緒に夜過ごさせてやんねーと、姉貴も拗ねるからさ」
分かってるもん。星児さんは、麗子さんのもの。
その事実を再確認してしまうと必ず胸にツキンという刺すような痛みが走る。みちるは身体を縮め、胸を押さえてギュッと目を閉じた。
そっと頭を撫でくれている優しい手が、みちるの心をほぐしてゆく。
保の手が、みちるの心の波を静かにする。刺さった何かを取り除く。
「保さん……」
「ん……?」
そっと寝返ったみちるが保を見上げると、包み込むような柔らかな表情があった。
柔らかな鼓動の波は不思議と胸の痛みを伴わない。
「保さんは、」
自然と、素直に流れ出る言葉。
「彼女さんとか、いないの?」
ああ……と、保がはにかんでみせた。その表情は、時折保が見せるもの。みちるはちょっとドキッとする。
保さんのその顔に、弱い、私。
キルトケットで顔を半分隠してしまったみちるに保はフワッと微笑んだ。
「どうだと思う?」
えぇっ、逆に聞いちゃうの? みちるは黒く澄んだ大きな瞳で保をジーッと見つめた。
保もその視線から逃げる事なく優しい目で見つめ返している。
みちるは素直に、懸命に考えた。
えっと、こんなにカッコ良くて頭良くて優しくて、いないわけ……、
「いないよ、今は」
みちるの心の中の問答に、保はサラリと答えた。
「そ、そうなの?」
思わず、起き上がっていた。みちるの脳内問答は続く。
どうして? どうして、いないのかな。
みちるの顔に疑問符が沢山浮かんでいたようだ。保がクスクス笑い出だす
「みちるはホントに顔に出るなぁ」
あっ! と顔を隠したみちるに保は優しく語り出した。
「大学卒業して、仕事が忙しくなって、会わなくなったら自然と消滅しちゃったんだよ。それからは、いないな」
保の静かな言葉が、みちるの耳に届く。
自然に会わなくなる? そうっと顔を出してみると、保は再び本を読み始めていた。
「どうして?」
「え?」
「どうして、会わなくなっちゃっても平気なの? 自然と、なくなっちゃう関係、って、私にはーー」
私には分かんないよ。好きな人には、いつも会いたいでしょ?
「そうか、そうだな。みちるには、まだ分かんないかもな」
呟くように言い、保は優しくみちるの頬を撫でた。保の心地よい体温にフゥッと力が抜けるような安堵を感じた。
保さんは、不思議。温いお水の中をユラユラふわふわしてる気持ちにしてくれる。
この感覚は、ピアスの穴を開けて貰った日、保に、額にキスをしてもらった時の感覚と同じだ。
星児のキスとは違う。
みちるはいつも星児がいる右側をチラリと見た。空いている枕が、主の留守を語っている。
「そろそろ、寝るか」
保が本を閉じ、ベッドサイドのライトに手を伸ばした時だった。
「ねぇ、保さん」
「ん、どうした?」
ライトに伸ばした手を戻し、保はみちるを見た。
「あのね……」
保を見つめるみちるの瞳が、何時もと違う光を放っている。保は少しドキリとした。
「たった一度のキスで、相手の人を堕としちゃう、みたいな事、できるの?」
「はぃ?」
予想もつかないみちるの言葉に保の声が裏返った。
蛍光灯の明かりの下で艶めくみちるの唇が、妖しげな魅惑を放っていた。
ちょっと待て。
保は内心で焦っていた。恐らく、みちるに一人前の男を焦らせている自覚はない。
一度目を閉じて、心を落ち着かせる。
「みちる」
再び目を開けた保がゆっくりとその名前を呼んだ時にはもう、何時ものみちるが自分を見ていた。
「誰からそんな事、教えられた?」
みちるがチラッと星児の枕の方を盗み見たのを保は見逃さなかった。
「まあ、だいたい想像はつくけどな」
保はこれ以上は敢えて突っ込まない事にした。
「みちる、ちょっと起きてごらん」
みちるを抱き起こした保は、自分の方に向くように座らせた。
保の中の葛藤が始まる。
星児のヤツ、みちるに何を仕込むつもりだ。確かにこのままの状況で何もなくみちるを傍に置いておくわけにはいかないかもしれない。けどな!
保がジッとみちるの瞳を覗き込んだ。二重瞼の大きな瞳から逃れずにみちるも見つめ返していた。
真剣な表情で保はみちるに語りかけた。
「いいか、みちる。キスは、異性を堕とす為のものじゃない。相手を幸せな気持ちにする為のものなんだよ」
幸せな気持ち。
言いながら保は必死に考えた。
どう言えば、一番誠実な形で伝えられるか。
小首を傾げたみちるが、少し考えているような表情をみせる。フワッと微笑んだ保がゆっくりと顔を近づけた。
みちるは思わずギュッと目を閉じた。保の気配を感じ、身体を固くしたとき。
頬に何かの感触があった。
? くすぐったい?
そっと目を開けると同時にゆっくりと離れた保の顔が見えた。
「今のは?」
「バタフライキス」
「バタフライ……キス?」
「頬に、睫毛でキスをする」
「睫毛で……」
だから、くすぐったかったのね。
みちるは頬に手を添えた。そっとなぞるように触れた睫毛。柔らかく微笑んだ保の、長い睫毛をみちるは見た。
「キスは、唇だけのものじゃない」
「唇だけじゃないの?」
「そ」
保は見上げるみちるの顔を両手で優しく包み込んだ。
「キスっていうのは、大事な時間を共有した証なんだ」
保の言葉がみちるの中に浸透した。
みちるの身体が優しい腕の中にいた。
「保さん?」
「守って、やるから」
保は、そっとみちるの額に唇を寄せた。みちるはそっと目を閉じる。
本当だね。キスは、幸せにしてくれるんだね。
強ばる身体をほぐしてくれて。沈む心を慰めてくれる。それが、保さんのキスね。
けれどみちるの心はそっと囁く。
どうして星児さんの、あのドキドキするようなキスは忘れられないのだろう。
風呂から出、髪を乾かし終えたみちるがその横にスルスルッと潜り込んだ。
仰向けになったみちるは組んだ手を口の前に置き、天井を見つめる。
「星児がいなくて淋しい?」
「え!?」
今夜は星児がいない。麗子のところへ行ったのだ。
「そっ、そんなことないよっ!?」
「みちるはホントに嘘が下手だ」
保がハハハハと朗らかに笑い出した。
みちるが頬を膨らませた。
「保さん、意地悪だ」
寝返り、背を向けた。保はそんなみちるの頭を「よしよし」と優しく撫でる。
「たまには、一緒に夜過ごさせてやんねーと、姉貴も拗ねるからさ」
分かってるもん。星児さんは、麗子さんのもの。
その事実を再確認してしまうと必ず胸にツキンという刺すような痛みが走る。みちるは身体を縮め、胸を押さえてギュッと目を閉じた。
そっと頭を撫でくれている優しい手が、みちるの心をほぐしてゆく。
保の手が、みちるの心の波を静かにする。刺さった何かを取り除く。
「保さん……」
「ん……?」
そっと寝返ったみちるが保を見上げると、包み込むような柔らかな表情があった。
柔らかな鼓動の波は不思議と胸の痛みを伴わない。
「保さんは、」
自然と、素直に流れ出る言葉。
「彼女さんとか、いないの?」
ああ……と、保がはにかんでみせた。その表情は、時折保が見せるもの。みちるはちょっとドキッとする。
保さんのその顔に、弱い、私。
キルトケットで顔を半分隠してしまったみちるに保はフワッと微笑んだ。
「どうだと思う?」
えぇっ、逆に聞いちゃうの? みちるは黒く澄んだ大きな瞳で保をジーッと見つめた。
保もその視線から逃げる事なく優しい目で見つめ返している。
みちるは素直に、懸命に考えた。
えっと、こんなにカッコ良くて頭良くて優しくて、いないわけ……、
「いないよ、今は」
みちるの心の中の問答に、保はサラリと答えた。
「そ、そうなの?」
思わず、起き上がっていた。みちるの脳内問答は続く。
どうして? どうして、いないのかな。
みちるの顔に疑問符が沢山浮かんでいたようだ。保がクスクス笑い出だす
「みちるはホントに顔に出るなぁ」
あっ! と顔を隠したみちるに保は優しく語り出した。
「大学卒業して、仕事が忙しくなって、会わなくなったら自然と消滅しちゃったんだよ。それからは、いないな」
保の静かな言葉が、みちるの耳に届く。
自然に会わなくなる? そうっと顔を出してみると、保は再び本を読み始めていた。
「どうして?」
「え?」
「どうして、会わなくなっちゃっても平気なの? 自然と、なくなっちゃう関係、って、私にはーー」
私には分かんないよ。好きな人には、いつも会いたいでしょ?
「そうか、そうだな。みちるには、まだ分かんないかもな」
呟くように言い、保は優しくみちるの頬を撫でた。保の心地よい体温にフゥッと力が抜けるような安堵を感じた。
保さんは、不思議。温いお水の中をユラユラふわふわしてる気持ちにしてくれる。
この感覚は、ピアスの穴を開けて貰った日、保に、額にキスをしてもらった時の感覚と同じだ。
星児のキスとは違う。
みちるはいつも星児がいる右側をチラリと見た。空いている枕が、主の留守を語っている。
「そろそろ、寝るか」
保が本を閉じ、ベッドサイドのライトに手を伸ばした時だった。
「ねぇ、保さん」
「ん、どうした?」
ライトに伸ばした手を戻し、保はみちるを見た。
「あのね……」
保を見つめるみちるの瞳が、何時もと違う光を放っている。保は少しドキリとした。
「たった一度のキスで、相手の人を堕としちゃう、みたいな事、できるの?」
「はぃ?」
予想もつかないみちるの言葉に保の声が裏返った。
蛍光灯の明かりの下で艶めくみちるの唇が、妖しげな魅惑を放っていた。
ちょっと待て。
保は内心で焦っていた。恐らく、みちるに一人前の男を焦らせている自覚はない。
一度目を閉じて、心を落ち着かせる。
「みちる」
再び目を開けた保がゆっくりとその名前を呼んだ時にはもう、何時ものみちるが自分を見ていた。
「誰からそんな事、教えられた?」
みちるがチラッと星児の枕の方を盗み見たのを保は見逃さなかった。
「まあ、だいたい想像はつくけどな」
保はこれ以上は敢えて突っ込まない事にした。
「みちる、ちょっと起きてごらん」
みちるを抱き起こした保は、自分の方に向くように座らせた。
保の中の葛藤が始まる。
星児のヤツ、みちるに何を仕込むつもりだ。確かにこのままの状況で何もなくみちるを傍に置いておくわけにはいかないかもしれない。けどな!
保がジッとみちるの瞳を覗き込んだ。二重瞼の大きな瞳から逃れずにみちるも見つめ返していた。
真剣な表情で保はみちるに語りかけた。
「いいか、みちる。キスは、異性を堕とす為のものじゃない。相手を幸せな気持ちにする為のものなんだよ」
幸せな気持ち。
言いながら保は必死に考えた。
どう言えば、一番誠実な形で伝えられるか。
小首を傾げたみちるが、少し考えているような表情をみせる。フワッと微笑んだ保がゆっくりと顔を近づけた。
みちるは思わずギュッと目を閉じた。保の気配を感じ、身体を固くしたとき。
頬に何かの感触があった。
? くすぐったい?
そっと目を開けると同時にゆっくりと離れた保の顔が見えた。
「今のは?」
「バタフライキス」
「バタフライ……キス?」
「頬に、睫毛でキスをする」
「睫毛で……」
だから、くすぐったかったのね。
みちるは頬に手を添えた。そっとなぞるように触れた睫毛。柔らかく微笑んだ保の、長い睫毛をみちるは見た。
「キスは、唇だけのものじゃない」
「唇だけじゃないの?」
「そ」
保は見上げるみちるの顔を両手で優しく包み込んだ。
「キスっていうのは、大事な時間を共有した証なんだ」
保の言葉がみちるの中に浸透した。
みちるの身体が優しい腕の中にいた。
「保さん?」
「守って、やるから」
保は、そっとみちるの額に唇を寄せた。みちるはそっと目を閉じる。
本当だね。キスは、幸せにしてくれるんだね。
強ばる身体をほぐしてくれて。沈む心を慰めてくれる。それが、保さんのキスね。
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