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友達
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赤や紫といった照明がチカチカとめまぐるしく空間を彩る。ランバダやタンゴのようなミュージックに合わせて華麗に妖艶に舞う踊り子達。
今、ステージの上では男と女が絡み合っていた。
照明室で麗子と共に舞台を観ていたみちるは、瞬きも忘れショーに釘付けだったが、最後のシーンで思わず両手で顔を覆ってしまった。
ステージはずっと、二人以上の踊り子や男女の絡みがあるショーが続いていだが、
「みちるちゃん」
麗子がそっとみちる耳打ちした。
「次の観て。みちるちゃんには今までのみたいな過激なのはさせないから大丈夫。これからやるのはソロ。ぜひ観ておいて欲しいの」
ソロ?
賑やかだった客席が真っ暗になり静かになった。次の瞬間、ステージの照明の色彩が変わった。
いつの間にか大勢の踊り子が捌け、ステージの真ん中にはウェディングドレスを思わせる純白の衣装を纏った踊り子の後ろ姿があった。
裾の長い衣装はシースルー。絶妙な透け加減が肌の色を美しく妖しく演出していた。
柔らかな曲調の音楽と共に、彼女は優雅に舞い始めた。
†
終演後の楽屋は、衣装を脱ぎ鏡の前でメイクを落とす踊り子達の、解放感一杯の明るい声が溢れ賑やかだった。
麗子に連れられてここに来たみちるは、いくつかの知る顔を見つけた。
「麗子さん、やっとみちるちゃん連れて来たー」
「ええ、やっと連れて来られたわ」
タバコを指に挟みながらカラカラと笑い麗子と楽しそうに会話を交わすのは、下着姿の少しばかり年配の踊り子達だ。
ストリッパーは様々な経歴を持つ者が多く、若い子ばかりの仕事ではない。けれど、どんなに年を重ねていても皆、年相応には見えない程美しい肢体を維持している。
「みちるちゃん、待ってたわよー」
何人かがみちるに声を掛けながら楽屋から出て行く。見知った彼女達は、麗子のヨガサロンで一緒だった踊り子達だった。
麗子がみちるをヨガに誘っていたのは、この世界に入った時、なるべく早く溶け込めるよう、という配慮からだ。
「麗子さん」
みちるが彼女を見上げると、麗子の優しい笑顔があった。
「明日から、みちるちゃんはここに来ます」
何かを言おうと口を開いたみちるに、麗子が「ちょっと待ってね」と言い、奥でメイクを落としていた踊り子に手招きした。
「千晴ちゃん、ごめんねちょっと」
目の覚めるようなピンク色のバスローブを着た踊り子が、顔を上げた。
「あ……」
その顔に、みちるが声を上げた。彼女は麗子のところに知り合った中でみちるに一番年が近かった子だった。
「あの、ソロを踊った子よ」
千春、と呼ばれた彼女はニコニコ顔でみちるの傍に来た。
「えー、ぜんぜん分からなかった……」
舞台で観せた妖艶な姿からは想像も出来ないあどけない笑顔に、みちるは驚きを隠せない。
「ギャップが彼女の魅力かしら」
麗子が肩を竦めた。
「千春ちゃん、一番年が近いからよろしくね」
「はい」
麗子に返事をすると、千晴はみちるに「改めて、よろしくね」と満面の笑みをみせた。
千晴のイントネーションは、彼女が地方出身者である事を伺わせていた。
†††
「みちる」
柔らかく優しい、低い声がみちるの耳から躰全体に染み渡った。
「はい」
重ねていた唇をそっと離した保は腕の中のみちるを見つめていた。
久しぶりの、就寝前のゆったりできる時間だった。星児の事務所で働くようになってからは、三人が一緒にこの時間を過ごす事はなくなっていた。
今夜は、保とみちるの二人、ベッドでじゃれ合うスキンシップ。保は、身体からスッと疲れが浄化してくれるような滑らかな肌と柔らかなみちるの躰に唇を寄せた。
「ん……っ。保さん……くすぐったいです……」
全身に触れる保の唇、手に、みちるは首を竦めていた。
「何か、いい事あったか?」
保がみちるの双眸を見つめてゆっくりと優しく尋ねた。みちるは一瞬驚いた表情をする。
どうしてわかるの? と見上げるその顔が言っていた。保はクスリと笑った。
「みちるの唇と躰がね、いつもと少し違うから。何だかウキウキしてる」
保の言葉に急に恥ずかしさを覚えたみちるはキャアと両手で顔を隠した。
クスクス笑う保はその手をそっと外させ、みちるの顔を覗き込む。
「正直に話しなさい」
「はい」
優しい両腕に抱え込まれたみちるは上目遣いで保を見つめて頷いた。
†
「友達が?」
「うん」
ベッドの上で、保は立てた膝に手を掛け、その足の間にみちるがちょこんと座っていた。
「前から話しをした事はあったんだけどね、
今日、沢山色んな事、お話ししたの。
それでね」
一生懸命にその時の話しをするみちるを、保は優しい眼差しで黙って頷きながら聞いていた。
みちるこんなに饒舌なのは珍しい。
初めて観せられたストリップ。垣間見た踊り子達の素顔。
それら全てがみちるの精神を興奮状態に導いているのだろう、と保は思う。
本当はどこかに迷いや戸惑い、躊躇いを残しているのに、自分が飛び込んで行かなければいけなくなった事実を、みちるは今必死に受け止めようとしている。
保は、そんなみちるの姿に張り裂けそうな胸の痛みをこらえ、見守るように話しを聞いていた。
彼女の名前は、佐藤千春。年は、みちるの二つ上で二十二歳。
メイクを落とした素顔の彼女はみちるを楽屋奥の自分のスペースに招き入れた。
鏡張りの壁の前に続く長いテーブルには所狭しとメイク道具が拡げられていた。その後ろには様々な衣装が掛けられている。
思わずキョロキョロとしてしまうみちるに、千春は椅子を勧めた。
「座って」
ニコッと笑う笑顔には片えくぼが出来る。小さな丸顔に人懐こそうな笑みを絶やさない。みちるには同い年かそれ以下に見えた。
「待ってたんだー、みちるちゃんの事」
「え?」
「みちるちゃんとゆっくりお話ししてみたかったんだよ。麗子さんとこでお話しした事はあったけど、いつも姐さん達と一緒に、だったでしょ?」
手早くローションなどで肌の手入れを進めながら楽しそうに千春は話す。
「そっかぁ……」
そういえば、とみちるは思う。
同世代の同性の友達って、私いなかった。
「正直言うと、みちるちゃんみたいな普通っぽい女の子がこの世界に飛び込んで来る理由はなんだろ? っていう興味もあったの。ごめんね」
明け透けに話すのに、嫌な感じのない、無遠慮に踏み込む感のない不思議な魅力を持った千晴に、みちるの心がフワリと緩んだ。
「うん、私もよくは分かんないの」
本当はそれが正直なところだった。今はただ、生きる事に必死。それだけなのかもしれない。
「そっか。でもそれでいいかも。深く考えちゃうときっと辛くなる仕事だから」
ほんの少し手を休め、みちるを見つめていた千春は次に手際よくメイク道具を片付け始める。
「やりたくて飛び込んで来る子なんて、ホントはいないんだから」
だから迷ったままでいいんだよ。千晴はそう付け足しニッコリと微笑んだ。
興奮冷めやらぬ様子で一気に話すみちるの頭を、保はよしよしと撫でた。
ヘタな所にみちるを出すよりは、逆に安心なのかもな。姉貴は信用できるから。
「よかったな」
言いながら保は、うんうんと満面の笑顔で頷くみちるに優しくキスをした。
†
今、ステージの上では男と女が絡み合っていた。
照明室で麗子と共に舞台を観ていたみちるは、瞬きも忘れショーに釘付けだったが、最後のシーンで思わず両手で顔を覆ってしまった。
ステージはずっと、二人以上の踊り子や男女の絡みがあるショーが続いていだが、
「みちるちゃん」
麗子がそっとみちる耳打ちした。
「次の観て。みちるちゃんには今までのみたいな過激なのはさせないから大丈夫。これからやるのはソロ。ぜひ観ておいて欲しいの」
ソロ?
賑やかだった客席が真っ暗になり静かになった。次の瞬間、ステージの照明の色彩が変わった。
いつの間にか大勢の踊り子が捌け、ステージの真ん中にはウェディングドレスを思わせる純白の衣装を纏った踊り子の後ろ姿があった。
裾の長い衣装はシースルー。絶妙な透け加減が肌の色を美しく妖しく演出していた。
柔らかな曲調の音楽と共に、彼女は優雅に舞い始めた。
†
終演後の楽屋は、衣装を脱ぎ鏡の前でメイクを落とす踊り子達の、解放感一杯の明るい声が溢れ賑やかだった。
麗子に連れられてここに来たみちるは、いくつかの知る顔を見つけた。
「麗子さん、やっとみちるちゃん連れて来たー」
「ええ、やっと連れて来られたわ」
タバコを指に挟みながらカラカラと笑い麗子と楽しそうに会話を交わすのは、下着姿の少しばかり年配の踊り子達だ。
ストリッパーは様々な経歴を持つ者が多く、若い子ばかりの仕事ではない。けれど、どんなに年を重ねていても皆、年相応には見えない程美しい肢体を維持している。
「みちるちゃん、待ってたわよー」
何人かがみちるに声を掛けながら楽屋から出て行く。見知った彼女達は、麗子のヨガサロンで一緒だった踊り子達だった。
麗子がみちるをヨガに誘っていたのは、この世界に入った時、なるべく早く溶け込めるよう、という配慮からだ。
「麗子さん」
みちるが彼女を見上げると、麗子の優しい笑顔があった。
「明日から、みちるちゃんはここに来ます」
何かを言おうと口を開いたみちるに、麗子が「ちょっと待ってね」と言い、奥でメイクを落としていた踊り子に手招きした。
「千晴ちゃん、ごめんねちょっと」
目の覚めるようなピンク色のバスローブを着た踊り子が、顔を上げた。
「あ……」
その顔に、みちるが声を上げた。彼女は麗子のところに知り合った中でみちるに一番年が近かった子だった。
「あの、ソロを踊った子よ」
千春、と呼ばれた彼女はニコニコ顔でみちるの傍に来た。
「えー、ぜんぜん分からなかった……」
舞台で観せた妖艶な姿からは想像も出来ないあどけない笑顔に、みちるは驚きを隠せない。
「ギャップが彼女の魅力かしら」
麗子が肩を竦めた。
「千春ちゃん、一番年が近いからよろしくね」
「はい」
麗子に返事をすると、千晴はみちるに「改めて、よろしくね」と満面の笑みをみせた。
千晴のイントネーションは、彼女が地方出身者である事を伺わせていた。
†††
「みちる」
柔らかく優しい、低い声がみちるの耳から躰全体に染み渡った。
「はい」
重ねていた唇をそっと離した保は腕の中のみちるを見つめていた。
久しぶりの、就寝前のゆったりできる時間だった。星児の事務所で働くようになってからは、三人が一緒にこの時間を過ごす事はなくなっていた。
今夜は、保とみちるの二人、ベッドでじゃれ合うスキンシップ。保は、身体からスッと疲れが浄化してくれるような滑らかな肌と柔らかなみちるの躰に唇を寄せた。
「ん……っ。保さん……くすぐったいです……」
全身に触れる保の唇、手に、みちるは首を竦めていた。
「何か、いい事あったか?」
保がみちるの双眸を見つめてゆっくりと優しく尋ねた。みちるは一瞬驚いた表情をする。
どうしてわかるの? と見上げるその顔が言っていた。保はクスリと笑った。
「みちるの唇と躰がね、いつもと少し違うから。何だかウキウキしてる」
保の言葉に急に恥ずかしさを覚えたみちるはキャアと両手で顔を隠した。
クスクス笑う保はその手をそっと外させ、みちるの顔を覗き込む。
「正直に話しなさい」
「はい」
優しい両腕に抱え込まれたみちるは上目遣いで保を見つめて頷いた。
†
「友達が?」
「うん」
ベッドの上で、保は立てた膝に手を掛け、その足の間にみちるがちょこんと座っていた。
「前から話しをした事はあったんだけどね、
今日、沢山色んな事、お話ししたの。
それでね」
一生懸命にその時の話しをするみちるを、保は優しい眼差しで黙って頷きながら聞いていた。
みちるこんなに饒舌なのは珍しい。
初めて観せられたストリップ。垣間見た踊り子達の素顔。
それら全てがみちるの精神を興奮状態に導いているのだろう、と保は思う。
本当はどこかに迷いや戸惑い、躊躇いを残しているのに、自分が飛び込んで行かなければいけなくなった事実を、みちるは今必死に受け止めようとしている。
保は、そんなみちるの姿に張り裂けそうな胸の痛みをこらえ、見守るように話しを聞いていた。
彼女の名前は、佐藤千春。年は、みちるの二つ上で二十二歳。
メイクを落とした素顔の彼女はみちるを楽屋奥の自分のスペースに招き入れた。
鏡張りの壁の前に続く長いテーブルには所狭しとメイク道具が拡げられていた。その後ろには様々な衣装が掛けられている。
思わずキョロキョロとしてしまうみちるに、千春は椅子を勧めた。
「座って」
ニコッと笑う笑顔には片えくぼが出来る。小さな丸顔に人懐こそうな笑みを絶やさない。みちるには同い年かそれ以下に見えた。
「待ってたんだー、みちるちゃんの事」
「え?」
「みちるちゃんとゆっくりお話ししてみたかったんだよ。麗子さんとこでお話しした事はあったけど、いつも姐さん達と一緒に、だったでしょ?」
手早くローションなどで肌の手入れを進めながら楽しそうに千春は話す。
「そっかぁ……」
そういえば、とみちるは思う。
同世代の同性の友達って、私いなかった。
「正直言うと、みちるちゃんみたいな普通っぽい女の子がこの世界に飛び込んで来る理由はなんだろ? っていう興味もあったの。ごめんね」
明け透けに話すのに、嫌な感じのない、無遠慮に踏み込む感のない不思議な魅力を持った千晴に、みちるの心がフワリと緩んだ。
「うん、私もよくは分かんないの」
本当はそれが正直なところだった。今はただ、生きる事に必死。それだけなのかもしれない。
「そっか。でもそれでいいかも。深く考えちゃうときっと辛くなる仕事だから」
ほんの少し手を休め、みちるを見つめていた千春は次に手際よくメイク道具を片付け始める。
「やりたくて飛び込んで来る子なんて、ホントはいないんだから」
だから迷ったままでいいんだよ。千晴はそう付け足しニッコリと微笑んだ。
興奮冷めやらぬ様子で一気に話すみちるの頭を、保はよしよしと撫でた。
ヘタな所にみちるを出すよりは、逆に安心なのかもな。姉貴は信用できるから。
「よかったな」
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