6 / 6
6
しおりを挟む
予定日よりも、ひと月近く早くに出されてしまった小さな命。
産まれた赤ん坊は数週間保育器の中に入れられていたが、御幸が三日ぶりに病院に訪れると普通の新生児用のベッドに寝かされていた。
御幸は東京と京都の行き来をずっと続けていたが、明日、恵太と舞花がここに来る事が決まった。
この子を迎えに。
すやすやと眠る寝顔を御幸が眺めていると、気付いた看護師が声を掛けた。
「抱いてみませんか?」
え、と多少の困惑を示す表情を見せた御幸に看護師は言う。
「あの子は、お母様はあのような状態ですし、まだご家族の誰にも抱っこして貰ってないんですよ。ぜひ抱っこしてあげて下さい」
看護師は新生児室に行き直ぐに赤ん坊を抱いて来た。
御幸は慌てて着ていたスーツのジャケットを脱ぎ近くのベンチに置き、ワイシャツの腕を捲る。看護師は御幸の腕にそっと、小さく温かく柔らかな赤ん坊を抱かせた。
壊れてしまいそうなくらい儚い命。でも柔らかで温かく、御幸は腕の中で眠る小さな赤ん坊をじっと見つめた。
そっと豆粒のような手に人差し指で触れてみると、弱々しくも、しっかりと握り返した。その感触に、熱いものが込み上げる。
姫扇……!
皮肉な運命に潰されてしまいそうになる心の痛みも、眠る子の寝顔が微かに優しく払拭してくれる。御幸は赤ん坊に柔らかく静かに語り掛けた。
「まだ名前を付けてあげてなかったね」
僕が付けてあげてもいいかな、姫扇。
指を握る小さな手を見ながら御幸は思案する。
幸せになって欲しい。いや、沢山愛されればそれで良いのかもしれない。
愛情に満たされ、幸せに満ちる。
時が満ちれば真実を教えてあげよう。
思い巡らす御幸の中に、一つの名前が浮かんだ。
みちる――。
「君は、今日からみちるだよ」
Fin.
産まれた赤ん坊は数週間保育器の中に入れられていたが、御幸が三日ぶりに病院に訪れると普通の新生児用のベッドに寝かされていた。
御幸は東京と京都の行き来をずっと続けていたが、明日、恵太と舞花がここに来る事が決まった。
この子を迎えに。
すやすやと眠る寝顔を御幸が眺めていると、気付いた看護師が声を掛けた。
「抱いてみませんか?」
え、と多少の困惑を示す表情を見せた御幸に看護師は言う。
「あの子は、お母様はあのような状態ですし、まだご家族の誰にも抱っこして貰ってないんですよ。ぜひ抱っこしてあげて下さい」
看護師は新生児室に行き直ぐに赤ん坊を抱いて来た。
御幸は慌てて着ていたスーツのジャケットを脱ぎ近くのベンチに置き、ワイシャツの腕を捲る。看護師は御幸の腕にそっと、小さく温かく柔らかな赤ん坊を抱かせた。
壊れてしまいそうなくらい儚い命。でも柔らかで温かく、御幸は腕の中で眠る小さな赤ん坊をじっと見つめた。
そっと豆粒のような手に人差し指で触れてみると、弱々しくも、しっかりと握り返した。その感触に、熱いものが込み上げる。
姫扇……!
皮肉な運命に潰されてしまいそうになる心の痛みも、眠る子の寝顔が微かに優しく払拭してくれる。御幸は赤ん坊に柔らかく静かに語り掛けた。
「まだ名前を付けてあげてなかったね」
僕が付けてあげてもいいかな、姫扇。
指を握る小さな手を見ながら御幸は思案する。
幸せになって欲しい。いや、沢山愛されればそれで良いのかもしれない。
愛情に満たされ、幸せに満ちる。
時が満ちれば真実を教えてあげよう。
思い巡らす御幸の中に、一つの名前が浮かんだ。
みちる――。
「君は、今日からみちるだよ」
Fin.
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
御幸右京さんって、本当に真の紳士ですね✨
みちるちゃんの出生に、こんな物語があったなんて…。驚いたりヤキモキしたりで、最後、名前をつけたのが右京さんと知って、感動しちゃいました😣
でも、切ないなぁ~😰
なんであんなヤツの😫‼️って思うけど、思い通りにならないのが恋心なんでしょうね😞
また違う背景を知って、『後編』が益々楽しみです🎵
ありがとうございました😆
うさぎさんの感想、いつも嬉しく読んでます💕
御幸はちょっと気に入っているのでたくさん書いてしまいました☺️
なんだかこの物語の恋心、すれ違いばかりになってしまってます💦
色々と切ないばかりになってますが、最後まで見守っていただけたら嬉しいです❣️
いつもありがとうございます☺️💕